スペイン・バルセロナで開催されたモバイル関連イベントMWC19にあわせ、ソニーモバイルがXperia 1などを発表、Xperiaの新生シリーズが誕生した。

  • 開幕直前のプレスイベントでXperia 1を披露する岸田光哉氏(ソニーモバイルコミュニケーションズ 代表取締役社長)

Xperiaはソニーの迷走と模索の道程

ソニーが同社のXperiaをデビューさせたのが10年前。ソニー体験を一枚の板、すなわちスマートフォンフォームファクタに凝縮するというコンセプトだった。近年もソニーをその板に押し込み続けてきたが、それはソニーの迷走と模索の果てしない道程でもあった。

今回は10年目を機に1から始まるXperiaでブレのないソニー体験を提供することに決めたという。Xperia 1の開発にあたっては、新しいマネジメントメンバーで話しあって、5Gネットワークの時代にXperiaだけが提供できる顧客価値とは何かを徹底的に考えた結果、好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンス、そして、ユニークな顧客価値を提供したいということを決めたそうだ。

ターゲットユーザーは万民ではない。1億人とか2億人ではなく、「(ソニーを認める)あなたたちだけ」にフォーカスする。そこが新たなチャレンジだ。多くのベンダーが多くの製品を作り、それなりの品質のものを提供できるようになってきている今、自分たちの得意なことで突き抜けた提案をしないと誰にも響かないとソニーは決めた。

だとすれば、ソニーが得意なこととは何だろう。クリエイターとユーザーをつなぐのはコンテンツであり、ソニーは作る技術、楽しむ技術、コンテンツそのもの全部を持っている世界でも希有の企業だ。だから、今回のXperiaは、コンテンツ体験にソニーの技術を集中させることにしたという。

縦長というよりも細長な21:9ディスプレイ

そしてたどりついたのが21:9のシネマワイド体験だ。4K HDR OLEDのスクリーンは、縦長というよりも細長だ。意外に持ちやすいスマホだという印象を持ったりもする。

ところがボディを横方向に構えると、印象は一変する。たかがスマホで映画ですかと思うかもしれないが、そこに共感できないならこの製品を持っても意味がない。そのシネマワイドのスクリーンで。5G時代のモバイルコンテンツ体験を提供しようというわけだ。

  • 21:9ディスプレイのXperia 1(ソニーモバイルコミュニケーションズのブースにて)

シネマはいつの時代も最高のコンテンツだとソニーは考える。もし、映画館での体験をモバイルで再現できたら、そのコンテンツによる感動を世界中に届けることができる。

いつものように、ソニーのあらゆる事業部のエンジニアに協力を求めた。カメラ、ブラビア、オーディオなど、専門性を持ったメンバーが結集した。カメラのエンジニアが傘下に入ったことも追い風になったらしい。

大きなチャレンジとして、プロ用機器のテクノロジーを注入するために、カムコーダーHDW-F900を作った厚木のメンバーにも協力を仰いだ。マスタモニタをリファレンスにしてカラーマネジメントの技術をあてこんでフルフルにチューンした。CineAltaカメラ「VENICE」などを手掛ける業務用機器担当部門が、ユーザーインタフェースや画作りも監修した。

また、ソニーピクチャーズのサウンドスタジオでは、Dolby Atmosの音のチューニングを実施、モバイルで最大限にクリエイターが表現したい音を再現した。

ソニーの全部を集めたらXperiaになる

「ソニーの全部を集めたらXperiaになる」。ソニーモバイルコミュニケーションズの商品企画部門長、田嶋知一氏は興奮気味に語ってくれた。

  • ボロボロになったCineAltaカメラ「VENICE」のカタログを繰りながら新生Xperiaを語る田嶋知一氏(ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社商品企画部門長)

同氏は日本の市場はこれから変わっていくだろうという。そんな中でソニーが、ユニークな価値提供をしないと市場はだめになるともいう。ボリュームプレーヤがたくさんいる中で、その価値を認めてもらえれば高くても買ってもらえる、買い替えてもらえるのだとすれば、そこを狙う。だからこそ「こんなのはソニーじゃない」と思われたら終わりだ。

もちろん好きを極めたくてもお金がない。そういうひともいる。だからミドルレンジもしっかりやらなくてはならない。

実際、Xperia 1は、950米ドル程度だが、ミドルレンジのXperia 10は、350米ドル程度、10 plusは430米ドルくらいの価格イメージだそうだ。

しがらみをリセットしたXperia 1

結局のところ、今回のXperiaの刷新は、通信機であり、汎用コンピュータであるスマートフォンというプラットフォームのしがらみを、ソニーがいったんリセットしたところにある。通信もアプリも、それはユーザー体験のための手段であって、最終目的ではない。一枚の板をどのように見せるか、どのように体験させるかは、かたちから入る他ベンダーと一線を画する提案をする。

本当だったら、二つ折りスマホのようなフォームファクタはソニーが真っ先にやってくれそうなものだが、今の同社にその興味はなさそうだ。最高のシネマ体験を、どうやったら従来の一枚の板に凝縮できるのか。今のソニーが考えているのはそれだけだ。ソニーに対する中途半端な思いで冷やかすとケガをしそうだ。