イメージングの展示会イベント「CP+」を間近に控え、カメラや写真関連の新製品ラッシュが続いている中で、2月14日、キヤノンとパナソニックから同じ日の同じ時間にフルサイズミラーレスカメラが発表された。キヤノンはEOS RPパナソニックはLUMIX S1R(DC-S1R)とLUMIX S1(DC-S1)だ。

  • キヤノンの最新フルサイズミラーレスカメラ「EOS RP」

  • パナソニックの最新フルサイズミラーレスカメラ「LUMIX S1R(DC-S1R)」

キヤノンの本気を感じる「EOS RP」

特に、EOS RPは、キヤノンの本気を感じさせる新たなフォームファクタとして注目すべき製品だ。以前から、せっかくのミラーレスカメラなのに、なぜか700g近いボディ重量の製品しかないのが残念だという指摘をしてきたのだが、この製品はバッテリとメモリカードを含むボディの重量が485gと、感覚的には一般的なフルサイズミラーレスカメラの半分くらいの重量を実現している。

これがどのくらいのものかというと、たとえば、一眼レフEOS Kissが500g前後。なので、ついにキヤノンのフルサイズミラーレスがAPS-C一眼レフカメラの重量感に到達したことになる。ちなみにフルサイズ一眼レフカメラのEOS 6D Mark IIは765gだ。

  • EOS RPシリーズとRFレンズ群

ミラーレスカメラはその名の通りミラーがない。複雑な光学系が省略できるので小型軽量化が可能だ。だが、これまで発売されてきている各社のフルサイズミラーレスカメラは、フルサイズ一眼レフカメラと比較したときに、重量、サイズの点で、プロフェッショナルやハイアマチュアはともかく、気軽に写真を撮りたいユーザー層にはハードルが高かった。ちょっと旅行に携行し、スマホよりも高品位な写真を撮りたいと思っても、ためらってしまうほどの重量だったからだ。

フルサイズとはいったい何か

フルサイズとはいったい何なのか。これは、カメラの先祖返りだ。というのも、過去において写真を撮る行為というのは、フィルムに光の痕跡を残すということだったわけだが、その写真1枚は横36ミリ×縦24ミリのフレームを使うのが一般的だった。いわゆるライカサイズと呼ばれるもので、フィルムの規格としては「135フィルム」と呼ばれ、それがすべての基準となっていた。もし、押し入れの中などに、昔のネガフィルムが残っていたら、ちょっと手に取って見て欲しいのだが、フィルムのヒトコマは、それなりに大きなサイズだということが実感できる。それがフルサイズだ。そして、「写ルンです」のようなレンズ付きフィルムでもフルサイズで光景を記録していた。

デジタルカメラではフィルムの代わりに半導体センサーを使って光景をキャプチャする。そのセンサーサイズは大きい方が有利だ。たくさんの光を受け止めることができるからだ。そして昔から慣れ親しんできたフィルムと同じサイズでの撮影を可能にしたのがフルサイズセンサーだ。

2002年のキヤノン EOS-1Dsを皮切りに、2003年 コダック DCS Pro 14n、2005年 キヤノン EOS-5D、2007年 ニコン D3と、フルサイズセンサーを搭載した一般向けカメラは数年をかけて普及していった。だが、ニコン D3の2007年からは、まだ12年しかたっていない。その12年間に、スマホのカメラは飛躍的な進化を遂げたが、そこで使われているセンサーサイズは、最大とされる製品でも1/1.7型だ。面積で比較すればフルサイズセンサーは20倍以上ある。

【お詫びと訂正】初出時、フルサイズセンサー搭載のデジタルカメラについて、ニコンの「D3」が最初という旨の記述がありましたが、誤りだったため、該当箇所を修正しました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます(2019年2月19日 19:05)

センサーの面積が広いことで、より多くの光を受け取れる。ソフトウェアで過度な補正をしなくても、忠実に目の前の光景を切り取れるのだ。

それでも極小センサーしかもたないスマホは美しい写真が撮れる。好ましいというほうがいいかもしれない。スマホとカメラ専用機は写真に向かうアプローチが異なるのだ。センサーやレンズの光学系が極小であることをソフトウェアの技術で補っている。いわばねつ造だ。そして、その美しさを表現する形容詞として「一眼レフ並みの」が使われるのは興味深い。

エントリーユーザーの新たな選択肢

いずれにしても、今回のEOS RPの登場で、エントリーユーザーの選択肢の中にフルサイズミラーレス一眼カメラが加わったと考えていいだろう。いかにインスタ映えする写真を撮るかに命がけでチャレンジするユーザー層には嬉しいニュースだ。

  • EOS RPを構えるキヤノン 執行役員 イメージコミュニケーション事業本部長の戸倉剛氏(右)と、EOS RP ゴールドを手にして笑顔を見せるキヤノンマーケティングジャパン 取締役 執行役員の松阪喜幸氏(左)

キヤノンでは現行でミラーレス用に4本のRFレンズを提供している。これらは大きく重い、そして高額な高級レンズだ。それらに加え、2019年中の発売を目指して6本のレンズを開発中だという。その中の一本、「RF24-240mm F4-6.3 IS USM」は軽量でオールマイティを狙ったレンズで、その登場が待たれる。

一眼カメラはシステムだ。ボディとレンズを組み合わせて初めて写真が撮れる。だからボディの登場だけではシステムは完成しない。そのシステムをいかに早期に完成させられるかが、キヤノンの本気を推し量るバロメーターとなりそうだ。

ニコンとキヤノンがほぼ同時に新たなマウントシステムを発表し、フルサイズミラーレスカメラを投入したのは昨2018年の11月だ。それからほぼ3カ月でエントリー製品を投入したキヤノン。想定以上に早かった。そこをどうニコンが追うのかにも注目していたい。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)