PCを使い終わったらシャットダウンする。多くの人々はそれが当たり前だと思っている。作業の途中なら、シャットダウンの前に、アプリで開いたファイルを必要に応じて保存し、ウィンドウを閉じなければならない。当然時間がかかる。
シャットダウンは当たり前だが……
そして、シャットダウンしたPCは、次に使うとき起動するにもある程度の時間がかかる。でも、それが当たり前だと考えられている。企業によっては液晶モニタを閉じるだけでシャットダウンする設定になっている場合もある。取材などで訪れた企業のエレベータで、液晶を半開きにした状態でノートパソコンを携行している様子を見ると、シャットダウンするのがめんどうくさいと思われていることがわかる。
その一方で、念のために作業途中のファイルを保存はしても、シャットダウンはしないというユーザーもいる。ノートパソコンなら液晶モニタを閉じるだけでスリープ状態になるように設定できるし、その場合、それまでの作業状態がそのまま維持される。次にパソコンを使うときには、スリープ直前の状態が再現されて、すぐに作業の続きに取りかかれる。
どっちが便利かというと、やはりシャットダウンよりスリープだ。
会社パソコンでスリープが使われない理由
ただ、多くの企業では、パソコンを使い終わったらシャットダウンするようにという規則になっているようだ。セキュリティ面での懸念も考慮されているらしい。何しろ、社外に持ち出すパソコンを使うためには二重三重のパスワード認証が必要だったりするわけで、その第一関門をスリープからの復帰だけで突破されては危なっかしいという考え方なのだろう。
その一方で、スマートフォンはどうかというと、同じように企業の重要な情報を参照したり、機密情報を含むメールをやりとりしているにもかかわらず、スリープとそこからの復帰を繰り返して使われている。スマホを使い終わるたびにシャットダウン、すなわち電源を切る使い方はきいたことがない。スマホの場合、画面が消えている場合はスリープ状態だが、常に通信は維持されていて、メールやメッセージ、電話の着信があれば復帰する。そして指紋や顔などの認証を経て、さっきの画面が表示され、作業の続きがすぐにできる。そうでなくては意味がない。
スマホでは便利に使われるスリープ機能が、パソコンではあまり使われないのはなぜなのか。大容量の記憶容量を持ち、重要な情報が保管されている可能性があるため、何重もの関門を突破しなければ使い始められないようにしておいた方が安心ということだ。
ただ、人が見ているかもしれない環境で、いつも、一定のパスワードを入力するというのはかえって危険だという考え方もある。肩越しに観察されていれば、そのパスワードを推察される可能性もある。だからパスワードはより複雑に、そして、頻繁に変更することが推奨されていたりもする。
つまり、パスワードはきわめて危険だというのが昨今の考え方だ。というのも、企業内オンプレミスを含めたクラウドサービスをネットワーク越しに利用する際のパスワードが、万が一漏洩した場合、他の機器からでもサービスにサインインされてしまう可能性があるからだ。
パスワードはもう古い
ちなみにマイクロソフトではパスワードはもう古いというアピールに熱心だ。数字数桁のPINを使ったり、指紋や顔などの生体認証を使ってパソコンにサインインし、パスワードを入力しないようにした方が安全だというわけだ。
複雑なパスワードよりも4桁の数字が安全なのだろかという疑問もわく。確かに4桁のPINは記憶も容易でメモなどに書き留めておく必要もないし、素早く入力できるので、うまくやればショルダーハッキングも防げる。だが、少なくとも、10,000回の試行で当たってしまうわけで、多桁の文字や数字、記号を組み合わせたパスワードよりもカンタンに突破できそうだ。
だが、WindowsのPINは、パソコンごとに独立している。仮に複数台のパソコンで同じPINを設定していて、そのPINが漏洩してしまったとしても、目の前にそのパソコンがあって自分の管理下にある限り安全だ。パソコンそのものが盗難などでなくなってしまった場合は、念のために残っているパソコンのPINを変更すればいい。もちろん、パソコンごとに異なるPINにしてあればその必要もない。ここで大事なことは、仮にPINが漏洩したとしても、パスワードは漏洩していないという点だ。さらに心配なら、盗まれた時点でパスワードを変更すればいい。盗まれたパソコンでは仮にPINが漏洩しても、パスワード変更が検知された場合は、PINが正しくてもサインインすることはできず、正しいパスワードの入力が求められる。
こうした新しい概念でパソコンはよりセキュリティを高めている。もうそろそろ使い終わるたびにシャットダウンするのはやめて、スリープ機能を活用してはどうだろう。その方がずっと働き方改革には貢献できると思うのだが。