ジャパンディスプレイ(JDI)が事業戦略発表会「JDI Future Trip」を開催した。同社はこの春、第二の創業と称する構造改革として、マーケティング・イノベーションを推進する組織体を発足して、世界シェアナンバーワンの技術力を駆使した新たなコトづくりにチャレンジしてきたが、この日はCMOの伊藤嘉明氏が新生JDIの戦略について、その詳細を発表した。
日本のディスプレイ技術を結集
JDIは官民による投資ファンド「産業革新機構」の呼びかけで、ソニー、東芝、日立のディスプレイ部門が統合されて誕生した。東芝に統合されていたパナソニックの液晶部門、ソニーに統合されたセイコーエプソンと三洋電機の液晶部門など、日本のディスプレイメーカーが統合され、さらに政府系ファンドが経営に関わる文字通りの「日の丸液晶ベンダー」だ。
つまり、世界に誇る技術を受け継いだJDIというわけで、各社のDNAを受け継ぐと伊藤氏は強調する。
今回の発表会では「B2Bのみならず、B2Cをも見据えた」という伊藤氏による表明があった。つまり、パーツメーカーとしてのJDIのみならず、エンドユーザー向けの最終製品を作るメーカーとしてのJDIが強くアピールされたのだ。この一環としてこれまでの発想にないヘルメットや鏡などのエンドユーザー製品を提供することで、JDIの技術力を駆使した「世界初となるプロダクトコンセプト」を提案するという。
情報が浮かび上がるスマートプロダクト
確かにこの日お披露目された製品群は興味深いものばかりだった。
たとえば、「ヘッドアップディスプレイ搭載ヘルメット」。これは、オートバイで走行しながら視界の中に、速度メーターやGPSなどの情報を投影するスマートヘルメットだ。
また、「遅れ鏡」は鏡が瞬時にディスプレイに変化し、文字や映像情報を鮮明に表示する。今トレンドのスマートディスプレイ的に使えるほか、後ろ姿を確認するために数秒遅れで自画像を表示し、自分の目で確認するようなこともできる。これらの指示はアマゾンのAlexaやGoogleアシスタントのように、デジタルアシスタントへの呼びかけで指示できる。エンドユーザー向けサブスクリプションサービス提供への布石となるかもしれない。
一方、「ライトフィールドディスプレイ」もおもしろかった。これは、3D専用メガネを使わずに立体感のある次世代3D動画を視聴可能なディスプレイで、同社では2.5Dと呼んでいる。撮影時に69方向の光線を記録し、表示時にはその方向にそれぞれの光軸の画像を映し出すことで見る角度を変えると表示が変化しているように見える。正面画像を脇から見ると横顔に見えるわけだ。
記録映像は8K解像度を超えるそうだが、見なし表示解像度はフルHD程度になるという。表示画像の作成は、まだリアルタイムでは無理だが、数分遅れなら可能らしい。今後、NPU(AI処理用プロセッサ)等の技術革新で、こうした表示ができるディスプレイも、より身近なものになりそうだ。今のところ水平方向だけで上から見おろしたり下からのぞきこんだりしても画像に変化はない。よからぬことを思いついた方は残念でした。
ヒトとキカイの仲を取り持つディスプレイ
伊藤氏は「ディスプレイはインターフェース」だという。つまり、ヒトとキカイの間にたって、その関係を仲立ちする役割を持つ。そのことを自覚した上でマーケティング/イノベーションに活かすビジネスは、単に優れたデバイスを提供することに注力してきた同社を覚醒させる戦略ともいえるだろう。今後はさらに定期課金ビジネスの導入も視野にいれ、テクノロジーで社会的課題を解決していくということだ。
同社はこのためにモノづくりだけではないコトづくりを目指し、この4月1日に社内公募によってマーケティング、イノベーションを推進する組織体制を発足した。今回の発表はその成果のほんの一部で、次の発表会も12月に予定されている。
今は、この日本という国の国力が試されるとき。同社のチャレンジが、日本がモノづくりだけにこだわっていては崩壊してしまうことを証明してくればいいのだが。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)