Progressive Policy Institute(PPI)主催による公開シンポジウム「モバイル通信政策~競争政策としての経済分析~」が開催された。

PPIは現行の通信料低廉化策の有効性を中心に競争政策の観点から分析するレポートを公表(該当PDF) 、その中で、日本の総務省や公正取引委員会が以前から進めてきたアプローチが期待はずれになっていることを指摘するものの、楽天モバイルが第4のMNOとして参入することは、その競争を激化させ、携帯電話料金の低廉に貢献するるだろうとレポートしている。

  • シンポジウムの様子

料金プランの勘定はエネルギーがいる

このシンポジウムでは、あわせて公正取引委員会によるプレゼンテーションや有識者によるパネルディスカッションも行われた。ディスカッションでは、携帯電話料金のわかりにくさが消費者の混乱を招いていることが、繰り返し指摘された。

たとえば、2年間の契約継続を約束してもらう代わりに料金を割り引く、いわゆる2年縛りは、ドコモのカケホーダイライトプランの場合、2年定期契約ありだと1,700円/月、なしの場合は3,200円/月になる。その差額は1,500円/月だ。

2年縛りの途中で解約したらどうなるか。ドコモによれば「2年間同一回線の継続利用が条件となり、料金プランの変更、契約変更および解約のお申出がない場合、自動更新となります。契約期間内での回線解約・定期契約のない料金プランへの変更時などには、9,500円の解約金(フリーコースの場合は不要)がかかります」ということだ。

計算すると、だいたい半年以内に解約することがわかっているなら2年縛りを契約する方が高くつくが、それ以上使うなら解約金覚悟で2年縛りを受け入れた方が結果として安上がりになる。

こういう計算をするにはエネルギーが必要だ。おカネに余裕があるかどうかはともかく、そんなことは考えたくないという人も少なくない。

解約金を撤廃したら料金は高くなる

ディスカッションではその解約金を撤廃することにも言及されていた。だが、2年縛りが明けたときに解約金を撤廃したら、その時点で、プラン料金はほぼ倍になるということを、いつどう消費者に伝えるのか。解約金がゼロになるということは、2年縛りを契約破棄することであり、そうしなければ、2年縛りをスタートしたときの価格とつじつまがあわなくなる。

こうした議論の中で、キャリアはウルトラC級の料金プランや施策を考え、これでどうだと提示してくるのだろう。そこにも多くのエネルギーが求められる。消耗するのはキャリアも同じだ。

キャリアの肩をもつわけではないが、MNO同士の料金競争が激化することは、サービス面における劣化の不安も誘う。料金競争の果てに、そのことが研究開発費や設備投資の低下につながっていき、最終的に通信サービスの劣化につながりはしないか。競争は大事なことだが3社の寡占状態にあるMNO体制に楽天モバイルの参加が大きな影響を与えるというのは乱暴すぎやしないか。

通信サービスの質が落ちたら本末転倒

現在のキャリアのビジネスは、ライフスタイル領域が大きな割合を占めるようになっていることも考慮しなければなるまい。そして、もうすぐやってくる5G時代と、その時代をより豊かなものにするために必要な、肝心の通信基盤の拡充ができなくなってしまっては本末転倒だ。それは日本という国の国力を落としてしまうことにもつながるだろう。

賢いエンドユーザーは自身が支払っている端末代金とサービス代金を明確に切り分け、必要ならば、キャリアを自由に切り替え、最終的な出費を抑制する。確かに正しいかもしれないが、まるでキャリアをわたり歩くことが善であるかのようなムードだ。

それこそ消費者不在でいろいろな議論が進んでる。そんな印象を持った。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)