NECが生体認証ブランド「Bio-IDiom」の説明会を開催した。カンファレンスの冒頭では、そっくりに見える数十名の女性から正しい1人を認証できるというプロモーションビデオが上映された。1人(本人)をのぞいて全員がハリウッド制作のマスクを着用しているという。顔認証についての精度が高まることで、生体反応のないマスクでは別人とみなすことができるようになった成果だという。
世界70カ国で導入された生体認証技術が進化
現時点で、NECは世界50の空港を含む世界70カ国以上に700システム以上の「Bio-IDiom」を導入しているそうだ。このブランド名の由来は、Bioは生体、そして、IDiomは、複数の単語を組み合わせた慣用句「イディオム」と「ID」からの造語だという。
生体から個人を特定する手段はいろいろある。決して指紋や顔だけではない。NECのBio-IDiomは複数の認証技術(モーダル)を組み合わせられるのが強みだ。顔、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、声、耳音響と、6つの認証技術を組み合わせるマルチモーダル。さらに、それらと映像分析技術を組み合わせて新しい価値を創出する。
たとえば、指紋と指静脈を組みあわせた「指ハイブリッド」認証では、ひとつのセンサーで指紋と指静脈を同時に読み取り、加齢などで指紋が多少薄くなり認識しにくくても正しく認証するといったことができる。
また、顔についても静止画ではなく、本人が意識せずに映っている動画からの認証が可能だ。複数の人間が混在していても大丈夫だ。一般的な顔認証は、スマホのロック解除などでも使われているが基本的には本人が静止した状態で認証するため静止画扱いとなる。NECのものは一般的なカメラから送られてくるストリーム動画の解析が可能だ。遠いカメラから俯瞰でとらえた映像で、しかもストリーム動画から特定の個人を探し出すことができるという点で優れている。
顔の向きと視線の向きの矛盾にアラート
興味深かったのは集団の中から顔を認識し、その視線を表示するデモだ。顔の向きと視線の向きが異なる場合にアラートを出す。たとえば、怪しい人物は防犯カメラを直視することはないが、常にカメラの方を気にしているという。また、コンビニなどの万引き犯は、常に店員の様子を気にしながら、陳列棚の商品に注目する。顔の向きと視線の向きの矛盾を発見できれば、犯罪の防止につながるわけだ。
ちなみに、現在のシステムは顔が上向き下向きなどでは正確に認識するが、首をかしげたままなど斜めの状態はそうでもないという。こうした弱点対策は犯罪者とのいたちごっこによって日々進化しているらしく今後の課題とされている。防犯上からも苦手な被写体はあまり大きな声ではアピールできないとも。
もちろん、こうした取り組みは犯罪防止のみならず、たとえばスーパーマーケットなどで客が買わなかったけれども注目した商品をあぶり出し、マーケティングなどに応用していくことも考えられている。
NECならではの生体認証としては耳音響認証がある。これは、耳に装着したイヤホンで可聴音や非可聴音を再生し、耳の中で反射した音を拾って認証するというものだ。耳穴は外から見えないために、偽装はほとんど不可能で、個人ごとに、そして左右の耳で異なる結果が得られるため、非常に精度の高い認証ができるそうだ。
東京五輪での犯罪を未然に防げぐ取り組み
NECとしては、こうした生体認証を単体で売りたいのではなく、デジタルトランスフォーメーションのためにリアルとサイバーをつなぐソリューションとして提供したいとしている。
2020年に東京で開催されるオリンピック。おそらくは、空港などの普段のキャパをはるかにオーバーする人数が東京を訪問することになる。そのときに、スピーディーでしかも正確な認証システムがあれば、犯罪後の犯人捜しではなく、犯罪前に悪意を発見し、犯罪を未然に防ぐことができるはずだとNECは考えているようだ。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)