経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

商品のかたちにはこんなヒミツが……

スーパーやコンビニで商品を見ていると、一定の「形」があることがわかります。納豆ならあのパック、ティッシュならあの箱……。たとえばポテチも、メーカーを問わず、形が整った「成形ポテト」は筒型、ほかのポテチは袋入りで売られています。

もちろん、別の形に変えることだってできます。でも企業はほぼ、そうしません。なぜって、売れなくなるからです。我々消費者は商品を選ぶとき、パッケージは0.数秒しか見ないと言います。この一瞬で「あなた、ポテチならここですよ!」と訴えなければいけないから、消費者の頭の中にしっかり入った形を、おいそれと変えられないのです。また、決まり切った「あけ方」「注ぎ方」をヘタに変えたらクレームがきかねません。

しかしそれでも、企業はたまに容器を変えてきます。たまに、ちょっとした工夫でバカ売れする例があるからです。今回はマーケティングと容器の関係について「なるほど!」となる話をお送りします。

パッケージに「時代の流れ」を取り入れ、大ヒット!

バカ売れの顕著な例が、日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」。実を言うと、この商品が出た09年より前、同社の水は苦戦していました。「森の水だより」等の商品はあったものの外国産の水に勝てなかったのです。クオリティには自信があったようです。同社は昭和の昔から富山や山梨など「名水」が出る場所に工場を建てており「ブランド名を隠した調査をすると高い評価を得ていた」と言います。

そんななか、ペットボトルの開発者が、関係あるかどうかわからないけど……と話を持ってきました。500ml入りのペットボトルを一気に軽量化できた、どこかで使えないか、と言うのです。そこでマーケティング担当者はワラにもすがる思いで「エコ」に関する意識調査をしました。すると多くの人が「エコのために何かガマンしたり、お金や時間を使うのは嫌」だけど「デメリットがなければ選びたい」と言ったのです。担当者は考えました。外国産の水は、運ぶためにも燃料が必要。一方、自社の水は国産。「水でエコ」「地産地消」というコンセプトにすれば、選んでもらえるかもしれない……。

こうして販売されたのが「い・ろ・は・す」。容器をくしゃっとつぶせることが新鮮で、当時は「エコの可視化」などと言われたものです。その後の大ヒット、定番化は言うまでもありません。販売当初、同社の方から聞いた話によると、中身は同じなのですが……。

次の大ヒットは醤油の話。醤油は塩分が高いから常温でも腐らないのは常識ですが、実は、酸素に触れると味が劣化します。皿にチョロチョロと注いだとき、透明感があって皿の模様が見えるのは新鮮な醤油。透明感を失ったのが空気に触れ、酸化した醤油です。

昭和の昔は、醤油はビンかペットボトル入りが当たり前でした。なぜなら、サザエさんちのような大家族が多く、大きなビンで買ってもすぐ使い切ったからです。でも、核家族化、個食化が進んだ現代、でっかい醤油など買ったら何ヶ月いつくことか。そこでヤマサ醤油は「液体は出すけど空気は入れない」容器を開発。「鮮度の一滴」という名で売り出しました。商品は大ヒットし、その後も業界には「酸化しないボトル」が登場します。

いずれも「エコブーム」や「個食化」など、時代の流れを考え容器を変えた、というわけです。

ふりかけ「ゆかり」が新たな容器で新市場を開拓!?

また、容器を使いやすく変え大ヒットした例もあります。

たとえばコンドーム。最近はカップ型になっていて、取り出したときにどっちが表でどっちが裏かがわかりやすくなっています。

さらには納豆のタレ。ミツカングループの『金のつぶパキッ!とたれとろっ豆』は、納豆の容器のフタにタレが封入してあります。納豆のフタをとって、パキッと真ん中で割って、あとはかき混ぜるだけ。糸を引くビニールフィルムもなければ、開け損なうと中身が飛び散る袋入りのタレもなくなって、販売数はなんと3倍に伸びた、といいます。

また森永乳業の『森永ビヒダスヨーグルト4ポットシリーズ』は、ヨーグルトがつきにくいフタを開発しています。蓮の葉の上を水滴がコロコロっと転がる映像、ご覧になったことはないですか? 同社は他メーカーとともに、この構造を研究。お客さんからもらっていた「フタについたヨーグルトをとるのが面倒」「捨てるときフタを洗うのが面倒」といった声に、見事、答えました。

そんな中、最後に紹介したい例は、赤しそふりかけの「ゆかり」(三島食品)です。

皆さんご存じの定番商品ですが、これをペン型の容器に入れたところ商品は大ヒット! 元々は「焼酎にも『ゆかり』をかける」という社長が「持ち歩きに便利だから」と使い始めた容器だったとか。しかし、お酒を飲みに行ったときに取り出し、サッと振りかけると、周囲の女性が「なにそれ!?」と大ウケしたそう。社長さんがどんな店で飲んでいたかはさておき「これはいける!」と商品化したのだそうです。

すると、これがネットで大ヒット。「ペン型だとキャラ弁をつくるときに使いやすい」といった新たな使い方もあって「つくるとあっという間に売れる」状態とか。

この商品のすごいところは、容器の形を根本から変えてしまったこと。あくまでネットで「ネタ商品」として盛り上がっている状況ですが、この商品は「定番商品も、容器を変えれば新たな使用シーンを訴求できる」という事実を示しています。

今後もし、コンビニやスーパーで「あれ? 入れ物変わった?」と思う商品を見たら、上記のような視点で「なぜ変えたのだろう……」と考えてみると、スッキリするかもしれませんね!

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。