テレワークを活用した柔軟で多様な働き方を推進する日本マイクロソフト。前編に続いて、同社コーポレートコミュニケーション部 部長の岡部一志さんにその具体的な成果について聞いた。
テレワークは育児休業からのスムーズな復帰にも効果あり
育児休業からの復帰率は100%の同社。「テレワークの活用によって復帰がとてもスムーズ」だという。社長からの重要なメッセージを発信するイベントがある日や大事な会議があれば、育休中でもオンラインツールを使って在宅で参加することが可能。「会社の状況を知るために、少しだけ家から参加してみたい」というやる気がある社員もいて、仕事モードへの準備が自然にできるという。チームの会議にオンラインで参加して自身の様子を共有したり、逆に職場や業務の状況を復帰前に聞いたりすることも簡単だ。ただでさえ育児と仕事との両立が不安な時期に、安心して職場に戻れる環境が整っているため、復帰の効率も上がっているそうだ。
同社ではワークスタイル変革に取り組む以前の2010年と比べ、残業時間や旅費・交通費が減少。ペーパーレスも大きく進み、社員1人当たりの売り上げである事業生産性は、なんと26%も増えている。さらに、年1回行う「社員満足度調査」におけるワークライフバランスの設問については、満足度が40%も向上。働き方を選べる利便性や心地よく仕事ができることに加え、業務効率化や生産性をあげる本来のテレワークの目的が果たせているのだ。要因として、会社の外に顧客がいる営業職やサポートスタッフはより無駄のない動きができるようになり、オンラインで社内につながる環境さえあればペーパーレスで会議が進むことも大きい。テレワークは何も子育て中の女性に限定した働き方ではなく、組織に大きなメリットを生むといえる。
テレワークを成功させるカギ
いいことずくめのテレワークのようだが、解決が困難な課題はないのだろうか。テレワークのマインドを浸透させるには、「まずは管理職自身がチャレンジすることが大事」と岡部さんは説明する。その一方で「日本のビジネスにおいて100%テレワークということは難しい。顔と顔をつき合わせてのコミュニケーションもなくさないことが成功につながる」と続けた。例えば、営業部門で月末の目標達成へ向けどうしても明日新しい提案が必要だという場面で、テレワークで参加するより、会社に出てくる社員の方がやる気があるように感じられるという管理職の声もある。
また、テレワークならではのこんなエピソードもある。在宅勤務中でノーメイクの女性社員に、上司がオンライン上で面談をする際にビデオ画面のONを躊躇したり、男性社員の中には、在宅だからとラフな格好で仕事に取り組んだものの、「仕事モードになれないな」と感じてしまったりするケースもあった。
こういったさまざまな課題の解決やテレワークを社内に推進するのに大いに役立つのが、この4年間毎年開催している「テレワークの日/週間」だ。2012年に自社単独でスタートした取り組みだったが、一昨年から賛同する法人を募り共同で1週間開催している。2015年は前年比約20倍の651社が参加。IT関連企業をはじめ、さまざまな企業や自治体、学校など多彩な顔ぶれで注目の高さがうかがえる。
昨年のテレワーク週間には「テレワークを学んだり、実践したり、協力しよう」という目的のもと、賛同法人と連携して推進活動を行った。例えば、派遣社員のテレワークを試験的に実施したり、地方創生の一環でサポート部門をまるごと岐阜県へ移動させたり、さらに、北海道の自治体と連携して古い学校を再構築し、家族も一緒に宿泊する滞在型テレワークを行ったりしたのだ。実施後に行った賛同法人向けアンケートでは、86%が「テレワーク推進の助けになった」と回答し、自社アンケートでも「意識・文化の面でテレワークを阻害する要因があるか」という設問に60%が「ない」と回答している。
今後もさらなる環境作りやオンライツール類の開発を進める予定だという。例えば、外出先からオンライン会議に参加する場合、機密性が保たれる個室カフェや時間貸しスペースも必要となる。そこで、カラオケボックスの昼間の空室を有効活用できないか試験的に実施したそうだ。また、公共の場などで会社のオンラインシステムを使う際、入力したパスワードが周囲に知られてしまうことを防ぐため、顔認証でログインできるPCの活用も今後増やしていく予定。少子高齢化が加速するこれからの日本社会において、毎日決まった時間に出社する働き方ではなく、時間や場所にとらわれず”いきいき”と活躍できる働き方がスタンダードになっていくはずだ。
【DATA】
従業員総数: 2,147名
社員の男女比: 非公表
平均年齢: 40.5歳
育児休業からの復帰率: 100%