日本マイクロソフトコーポレートコミュニケーション部 部長の岡部一志さん

企業の子育て支援の最前線をリポートする本連載。今回と次回は「テレワーク」について紹介する。テレワークとは、情報通信技術を活用し働く場所や時間を柔軟に選べるワークスタイルのこと。日本におけるテレワーク人口は現在約550万人に及び、非IT企業の導入も増えている(平成26年度テレワーク人口実態調査より)。

本連載での紹介3社目は、テレワークの最先端企業ともいえる日本マイクロソフト。フレキシブルな働き方を可能にする驚きのオンラインツールや、テレワーク導入の背景について取材した。

公園でも旅行先でも仕事で活躍可能

日本マイクロソフトが推進しているワークスタイルは ”いつでもどこでも”仕事ができることに加え、業務効率や生産性を高め、さらに”活躍できる”ことだという。その中核としてテレワークを実施している。まずは2007年に在宅勤務制度をスタート。規則に基づき業務に支障がない環境設定や曜日決定(週最大3日取得可能)をし、在宅で業務を行える。

さらに2011年からは「フレキシブルワークスタイル」という働き方を提唱。これは社内外のどこで働いても会社の成長に貢献できるという柔軟で多様な働き方だ。社員がスケジュールや個人の事情、仕事の効率を考えて、カフェ、出張先、公園・駅・空港、旅行先、実家など、自宅以外のさまざまな場所でも業務ができる。

品川本社オフィスのエントランス。2011年2月の本社移転に伴い、都内各所の拠点を品川へ統合

「都内に5カ所あった拠点を2011年に品川本社に統合したことが大きな転機でした」と語ってくれたのは、同社コーポレートコミュニケーション部 部長の岡部一志さんだ。オフィス統合を機に「ワークスタイルの変革」が経営戦略のひとつに掲げられたそうだ。これまで自分の固定席に固定電話やPC、キャビネットがあったが、自分の席はなくいつでも好きな場所で働く「フリーアドレス」を採用。くしくも、統合直後の3月には、東日本大震災が起こり、出社できない状況の社員も在宅で業務ができたそうだ。

社内が「フリーアドレス」でどこでも働けるのであれば、社外でもどこでも働けるというカルチャーが浸透し始めた。しかし、社員の中でも個人差があるため2012年からテレワーク推進を目的に「テレワークの日/週」を開催。この期間中、全社員がテレワークを実施するという。

具体的には、テレワークで全社員向けの社長による朝礼を行ったり、管理職会議をあえてテレワークで行い上司の意識改革をしたり、外出先からすぐ打ち合わせに参加できるように「テレワークに適した場所」を社員の経験から紹介しあったり、いろいろと工夫してきた。成果として顕著なデータが、2010年と比べ女性社員の離職率がマイナス40%と飛躍的に下がったことだ。出産・育児をきっかけに会社を辞めることも多い女性社員にとって、子どもの事情に応じて働く場所や時間を選べることは、仕事を続けていく大きな助けになったようだ。

「フリーアドレス」なので個人専用のPCや電話はデスクの上にない

テレワークを可能にしているのは「Skype for Business」(インターネットを使った音声&ビデオ通話)の役割が大きい。その場にいなくても、スケジュールと連動して相手の状態がわかり、簡単にチャット通話ができるのに加えて、資料をリアルタイムに共有し、同じ会議室にいるようなディスカッションを可能とする機能だ。例えば朝、子どもが体調不良の場合でも、同機能を使えば出社せずに会議に参加することができ、普段の通勤時間を利用して子どもを病院へ連れて行ける。

その他の業務も在宅で行えるため、仕事上での混乱が生じにくい。また遅くまで残業できない子育て中の社員の中には、1度帰宅してから同機能を使って夜に会議に参加する人もいるという。共働き家庭では、男性社員が毎週決まった曜日を子どもの都合で在宅勤務にすることもある。男性にとっても子育てに参加しやすい環境といえるだろう。

重要なのは、業務中に子どものケアや家庭のサポートを行う際、スケジュール表に明確に記載し、できるだけ上司やチームメンバーに知らせること。さらに就業時間の管理タイムシートに業務遂行時間からプライベートの時間をきちんと差し引いて記載するなど、本人の管理能力も問われる。それらを徹底することでテレワークが成功しているという。

あえて、テレワーク中の作業内容を細かく公表

テレワークにつきものなのが「出社しないでさぼっているのではないか? 」と考える管理職、また、そう思われていないか心配しながら勤務する社員の姿だ。同社では、そういった両者の不安を解消できるよう個人の現在の状況が分単位でチームのメンバーに公開されている。

テレワーク中の社員は、朝9時に「テレワークを開始します」とメンバーにメールを送付。「Skype for Business」と「Outlookのスケジュール」が連動し、オンライン会議参加中、電話中、キーボードで入力中、キーボードに何分触っていないなど、個人のアイコンの色が業務内容に応じて自動で変化するようになっている。つまり、自分のスケジュールを細かく正確に公表さえしておけば、その責任が果たせているかが瞬時にわかるシステムで、上司は離れたところにいる部下の管理が明確にできるという。場所や時間にとらわれずいつでもどこでも活躍でき、それがきちんと評価されることは、子育て世代にとって欠かせないワークスタイルなのかもしれない。

後編では、テレワークを利用した育児休業からのスムーズな復職術や、社員1人あたりの売り上げ増加などの成果を紹介する。