国内外の小型SUV7台をピックアップし、サイズやデザイン、ユーティリティ、走行性能などの各方面で徹底比較してきた本特集。最後は全車種を一気に振り返ってみたい。発売前のホンダ「ヴェゼル」をのぞく6台は全て乗ってみたが、それで分かったことといえば、当たり前ではあるがどのモデルにも個性があり、しかも完成度がとても高いということ。このジャンルは世界的に激戦区となっているだけあって、各メーカーのイチオシモデルはライバルの性能や価格を意識しながら、それぞれが強みの磨き込みに力を入れているようだ。
対トヨタの最右翼? ホンダの新型「ヴェゼル」
2021年2月に世界初公開となったホンダの新型「ヴェゼル」。内覧会でその姿を見た報道陣には大きな衝撃が走った。エクステリアは水平基調のロングノーズボディに薄い台形のルーフが乗り、フロントにはボディ同色のグリルを備えているというもので、初代の面影を残しているのはリアドアの三角ノブくらい。つまり、初代とはまるで異なったスタイルで登場したからだ。
内覧会の会場にはサンドカーキ色の「PLaY」、ホワイトパールの「Z」、レッドの純正オプション装着車の3台が置かれていて、どれも質感が高そう。車格も1ランク上がったように見えた。
インテリアは色使いのセンスがよく、各席からの視界、ダイヤルを使った操作性、2種のモードを持つ空調など、よく工夫がなされている。リアゲートは電動開閉式。後席のダイブダウンやチップアップなど、さまざまなレイアウトが可能なラゲッジはどんな荷物にも対応できそうな雰囲気だった。
パワートレインは1.5Lエンジン+E-CVTの2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」と1.5Lガソリン+CVTの2本立て。安全面では最新の「ホンダセンシング」を搭載し、快適装備はスマホがキーになる「Hondaデジタルキー」や車内Wi-Fi、自動地図更新サービスなど万全だ。気になる価格(4月に正式発表)は初代と大きく変わらないとの情報があるので、独走状態のトヨタSUV勢に待ったをかける一番手になることは間違いなさそうだ。
死角なし! トヨタの「ヤリスクロス」
2020年8月にデビューし、最近は街中でもよく見かけるトヨタの「ヤリスクロス」は現在、小型SUVの人気No.1だ。
パワートレインは91PS/120Nmの1.5L直列3気筒エンジンに80PS/141Nmのフロントモーターを組み合わせたFFのハイブリッド「THS-Ⅱ」に加え、そのリアに5.3PS/5.2Nmのモーターを追加した電気式4WDのハイブリッド「E-Four」が選べるほか、120PS/145Nmの1.5L直列3気筒ガソリンエンジン+発進用ギア付きCVT(こちらもFFと4WDがある)を用意。走りはどのモデルにも個性がある。FFハイブリッドモデルの燃費はWLTCモード27.8km/L。街中走行でも常時20km/L以上を示していたからすごい。
エクステリアは四角いブラックのホイールアーチや張り出したフェンダー、短い前後オーバーハングなどのSUVっぽさと、ウルトラマン風の顔つきやクーペのようなリアハッチの傾斜が程よくマッチしてカッコいい。
逆にインテリアは地味目のデザインやカラーを採用している。後席の足元の広さや390Lのラゲッジルームは全長で100mmほどライバルたちに劣るものの、実際の使い勝手については問題なし。上級モデルはハンズフリーのバックドアを備えている。災害時などに活躍するV2Hの「クルマde給電」コンセントをオプションで用意しているのも今どきだ。
運転支援面では最新の「TOYOTA Safty Sense」を搭載していて安心感が高い。価格はガソリンエンジン搭載モデルが179.8万円~244.1万円、HVが228.4万円~281.5万円で競合を圧倒。人気No.1の理由はここにもある。
e-POWERは唯一無二! 日産「キックス」
日産自動車の“虎の子”ともいえる2大技術のハイブリッドシステム「e-POWER」と運転支援システム「プロパイロット」を搭載するのが「キックス」だ。生産地はタイで、日本では2020年6月に発売となった。
搭載する電動パワートレイン「e-POWER」は、1.2リッター3気筒エンジン(82PS/6,000rpm、103Nm/3,600~5,200rpm)を発電専用として使用し、1.5kWhの小型リチウムイオンバッテリーと最高出力129PS/4,000~8,992rpm、最大トルク260Nm/500~3,008rpmの走行用モーターで前輪を駆動する。
その走りは低速から豊かなトルクが発生し、しかも静かという“ほぼEV”の乗り味だ。走行音が高まった時を選んでエンジンを回す(発電する)という新たなプログラムにより、静粛性がアップしている。走行モードで「S」(スマート)か「ECO」を選べば、加減速をワンペダル行うことができる。
燃費はWLTCモードで21.6km/Lを公称。試乗してみると、街中での燃費計は18.1km/Lを示していたが、加減速を確かめたりしていると15.9km/Lくらいになった。
運転支援のプロパイロットは標準装備となる。ACCは全車速対応なので、渋滞時でも便利に使える。システムの作動状況が大きなモニターに分かりやすく表示されるのも嬉しい。
2トーン仕様のインテリアは派手目のオレンジ色が少し気になるが、「ゼログラビティシート」と呼ばれるぷっくりとした表皮を採用したシートはかけ心地がよく、後席のニールームは600mmと余裕たっぷり。ラゲッジルームもクラストップレベルの423Lを確保した。
グレードは2トーンインテリアの286.99万円とモノカラーの275.99万円の2つだけ。これ以外の選択肢がないのは少しマイナスポイントかも。
欧州の人気No.1! ルノー「キャプチャー」
初代が世界で170万台も売れた大ヒットモデルのルノー「キャプチャー」。2021年2月にフルモデルチェンジした2代目は、ルノー、日産、三菱自動車のアライアンスによる技術をいかした高性能モデルだ。
プラットフォームはキックスなどと同じ「CMF-B」を採用。ボディサイズは全長4,230mm、全幅1,795mm、全高1,590mmで先代より95mm長く、15mm広く、5mm高い。これらは全て居住空間を拡大するために使ったとの説明だ。
搭載する1.3L直列4気筒直噴ターボエンジンも、3社のアライアンスで新開発されたもの。最高出力154PS/5,500rpm、最大トルク270Nm/1,800rpmと、このクラスではライバルたちよりも強力なスペックを持つ。そのため、高速道路での走りは本特集で乗った6台の中でもトップで、市街地での加速力も目を見張るものがある。燃費は15.9km/Lをマークしていて十分だ。
シートは前席が電動式(上位モデル)でシートヒーターを標準装備。ひざ回りに余裕がある後席は160mmのスライド式を採用し、ラゲッジルームはクラス最大の536Lを確保している。
アライアンスの恩恵は運転支援システムにもいかされていて、自動運転レベル2の追従走行が可能となっている。その時のメーター表示も分かりやすい。価格は「インテンステックパック」が319万円、「インテンス」が299万円とちょっとお高めだが、全方位的に充実した内容を考えると納得だ。
おしゃれであることが至上の価値? プジョー「2008」
キャプチャーのガチンコライバルとなるのが、2020年9月に日本デビューを果たしたフレンチライオンの小型SUV、プジョー「2008」だ。「CMP」(コモン・モジュラー・プラットフォーム)によるボディサイズは全長4,305mm、全幅1,770mm、全高1,550mmで、ホイールベースは2,610mm。立体式駐車場に収まる1,550mmという車高は、ほかの小型SUV群に比較すると大きなアドバンテージになる。
試乗したのは「アリュール」というグレード。パワートレーンは最高出力130PS/5,500rpm、最大トルク230Nm/1,750rpmを発生する1.2L直列3気筒ターボ「ピュアテック」エンジンだ。300キロも重いEVモデル「e-2008」にも対応できる軽くて剛性感のあるシャシーと、低速からトルクが出る3気筒エンジン、アイシン・エィ・ダブリュ製8速ATの取り合わせがマッチしていて、走るのが楽しい。燃費はWLTCモードで17.1km/Lを公称する。
エクステリアはメーカーロゴであるライオンをモチーフにした牙のような縦型LEDデイライトと3本のカギ爪形LEDテールライトが特徴的。彫りが深い造形を採用したサイドデザインもおしゃれだ。
インテリアはより個性的で、低い位置に取り付けられた超小径ステアリングと、その上側に取り付けられたメーターパネルによるユニークなレイアウトの「3D iコックピット」がチャームポイント。パンとした張り具合のブラックのシートはファブリックとテップレザーのコンビネーションで、室内は前後席とも広い。長時間乗っても具合がよさそうだ。上下2段式のフロアボードを持つラゲッジルームは434Lで、後席を全部倒した際の容量1,467Lはキャプチャーのそれを200L以上も上回る。
価格は「アリュール」(心を魅了する、の意)が302万円、「GT」が341万円、「GT Drive Edition」が359万円だ。
質の高さは隠せない…VW「Tクロス」
「TさいSUV」というキャッチコピーを掲げて2019年12月に日本で発売となったのが、フォルクスワーゲン(VW)の「Tクロス」だ。導入記念特別仕様車は早速、輸入SUVジャンルで年間トップの売り上げを達成。2020年12月にはフルカラーのデジタルメータークラスターと常時オンライン接続が行える「We Connect」搭載のディスプレーを採用した。
パワートレインは最高出力116PS/5,000~5,500rpm、最大トルク200Nm/2,000~3,000rpmを発生する排気量わずか1.0リッターの直列3気筒直噴ターボエンジン(1.0TSI)にツインクラッチの7速DSGを組み合わせる。走りは緩加速時のアクセルの付きがよく、高剛性ボディと相まって「いいクルマ」感が伝わってくる。高速走行中のどっしりとした落ち着きはVW車が持つドイツ車らしい美点のひとつ。燃費はWLTCモードで16.9km/L。高速と一般道を7:3ぐらいの割合で走った試乗では計器上で17.4km/L、ゴー・ストップの少ない一般道では16.5km/Lを表示していた。
四角いボディやインテリアカラーは実用性重視。ドアを閉めると毎回「バスンッ」という重厚な音が聞こえる点は、国産車(特に小型車)がまだ追いつけていないところだ。前席は見切りがよく、後席は140mmのスライドが可能。おかげでラゲッジルームの奥行きが630mmから770mmまで広がり、容積も385Lから455Lまで拡大できる。全部倒せば1,281Lの広い空間が出現する。
Tクロスのグレードだが、2021年3月からはカタログモデルとなる「TSIアクティブ」(278万円)と「TSIスタイル」(303万円)の販売が始まっている。
結局、これを選んでしまう? トヨタ「ライズ」
2019年11月に5ナンバーサイズの小型SUVとして世に出たトヨタ「ライズ」。ダイハツのOEM車ではあるが、全長4m以下というほかにない魅力は販売台数に直結し、2020年上半期の販売台数でNo.1を獲得している。
パワートレインは最高出力98PS/6,000rpm、最大トルク140Nm/2,400~4,000rpmの1.0リッター3気筒インタークーラー付きターボエンジン1択。トランスミッションは7速シーケンシャルシフト付きのCVTで、駆動方式はFFと4WDが選べる。WLTCモード燃費はFFが18.6km/L、4WDが17.4km/L。経済的なレギュラーガソリンが使用できるのがうれしい。
3気筒エンジンの音が少し気になる走りは、980キロという軽量ボディをいかして意外に活発。パワー走行モードやSレンジなどが選択でき、マニュアルモードではシフトダウン時にブリッピング(エンジン回転を上げてシフトショックを減らす制御)まで入る。
運転支援面では全車速対応のACCや60km/h以上で作動するLKC(レーンキープコントロール)を装備。前後方向のペダル踏み間違い抑制機能、侵入禁止の標識認識機能、信号待ちなどでの発進遅れ防止機能など、“うっかり”に備えた機能を網羅した「スマートアシスト」を搭載しているので、初心者や高齢者の運転でも安心だ。
価格は169.7万円の「X」から228.22万円の「Z」(4WD)まで。今回の特集内では最もお求めやすい設定となっている。