日本で買える小型SUVを乗り比べる本特集の第3弾はルノー「キャプチャー」だ。フォルクスワーゲン「Tクロス」、日産自動車「キックス」ときてキャプチャーなので、「ここらで変化球か?」と思われた皆さん、このクルマ、侮ってはいけません! 明らかに、日本では過小評価な1台なのです。
2013年に誕生した初代「キャプチャー」は、まだ「小型SUV」がジャンルとして確立していなかった時代に新たなスタイルとして登場し、2019年までに世界で合計170万台が売れた大ヒットモデル。2020年に欧州で最も売れたSUVも、このキャプチャーだった。
小型SUVにニーズがあることに気づいたライバルメーカーは当然、黙っていなかった。その後はキャプチャーを追いかけるように、同じBセグメントの小型SUVが続々と登場。今や同カテゴリーが激戦区となっていることは皆さんご存知の通りだ。
そんな中でフルモデルチェンジを迎え、2021年2月25日に日本で発売となったのが、今回試乗してきた新型キャプチャーである。もはや先行者の優位性をいかせる状況ではなく、個性がなければ埋没してしまう小型SUVの世界だが、ルノーはキャプチャーをどのように進化させたのか。
大きく、そして豪華に!
新型キャプチャーが採用するプラットフォーム「CMF-B」は、ルノー・日産自動車・三菱自動車工業のアライアンスによって新開発されたもの。軽量、高剛性で遮音性に優れ、最新の電気・電子部品も組み込むことができる最新の車台だという。ルノーではすでに、新型「ルーテシア」(欧州での車名はクリオ)にCMF-Bを採用済みだ。
キャプチャーのボディサイズは全長4,230mm、全幅1,795mm、全高1,590mm。先代に比べると全長で95mm、全幅で15mm、全高で5mmのサイズアップとなる。ホイールベースは35mm伸ばして2,640mmとしたが、その結果として生まれたスペースは全て、居住空間を拡大するために使ったとのことだ。
エクステリアは抑揚のあるフェンダーや絞り込んだボディサイド、浮かんだように見える2トーンのルーフなどにより、先代よりもSUVテイストを深めた。ヘッドライトの「C」シェイプデイタイムランプやリアの「C」シェイプライトシグネチャーは、一目でルノー車であることを知らせてくれる。
ドライバー中心で操作系をセットしたスマートコックピットを特徴とするインテリアは、高い位置に着座するドライバーにぴたりと合わせた位置にバイワイヤ式のシフトレバー「e-シフター」を配置し、それをいかしてセンターコンソールが空中に浮かんだような小粋なデザインを採用している。試乗した上位モデルの「インテンス テックパック」では、センターコンソールの下がQi規格充電機能つきのトレーになっていた。センターアームレスト後部には、このクラスでは今や標準になったともいえる後席用の2つのUSBソケットや12Vソケット、後席エアダクトを装備する。
フロントシートは座面が先代よりも15mm長くなった。シートヒーターは標準装備で、テックパックでは電動パワーシートも奢られる。リアシートの膝周りには先代比+17mmの221mmという広大なスペースを確保。6:4の分割可倒で、座席全体を前後160mmの幅でスライドできる。ボディカラーで「オランジュ アタカマ M」を選択した場合に限り、インテリアカラーがオレンジの差し色を配したモデルになるというのも面白い。
ラゲッジ容量は欧州BセグメントSUVで最大レベルの536Lを確保し、他を圧倒する。ちなみに、今回の特集で試乗したフォルクスワーゲン「Tクロス」は455L、プジョー「2008」は434Lだった。キャプチャーは後席をすべて倒すと荷室容量が1,235Lまで拡大する。
運動性能はスポーツカー並み?
以上のように、なかなかすばらしいパッケージングでまとめられた新型キャプチャーだが、動力性能も負けず劣らずの完成度だ。搭載する1,333ccの直列4気筒直噴ターボエンジンは、最高出力154PS(113kW)/5,500rpm、最大トルク270Nm/1,800rpmを発揮。同クラスのライバルたちよりもスペックは強力だ。ちなみに、パワートルクレシオ(車重をトルクで割ったもの)で見ると、キャプチャーが1,310キロ÷270Nmで4.9(kg/Nm)となるのに対し、ライバルの2008は同5.5、Tクロスは6.4といった具合だ。
実際に走ってみると、ダイレクト感のあるデュアルクラッチ式7速EDCトランスミッションの効果もあってか加速力は十分。特に高速道路での走りと直進性には目を見張るものがある。足回りも、過去のフランス車の特徴であった“ネコ足”的なロールは全くなく、S字の切り返しなどでは、クイックなギア比(先代比で10%低い)のステアリング操作に対して間髪を入れずノーズが切れ込むような小気味良い動きを見せてくれた。まさに、ちょっとしたスポーツカー的な運動性能を発揮してくれるのだ。
一方で気になったのが、ツインクラッチが出だしの時に見せるわずかなタイムラグだ。ゴーストップの多い街中では頻繁に出くわすので、やはり印象に残った。快適装備の「オートホールド」(赤信号などで止まった時、そのまま完全停止を保持してくれる機能。ブレーキペダルを踏み続けなくても済むので足が楽)を使うと、タイムラグがさらに大きくなる。
ここはネガティブな部分だったのだが、本国フランスではそんなに気にならないポイントなのかもしれない。というのも、クルマをなるべく止めずに流そうとする欧州では、ラウンドアバウト(環状交差点)を多用する道路設計がなされているからだ。インポーターによれば、そんな事情もあるので、このあたりの改良は優先順位として後回しになってしまうらしい。
反応のいい足回りについては、単に走りを機敏にするという狙いだけで改良を施したものではないのだという。最新の運転支援システム領域では、従来のようなネコ足的なサスペンションだと逆に制御が難しくなるので、今のようなチューニングになったというのが本当の理由とのことだ。こちらも、思ってもみなかった答えである。
高速道路と一般道を半々で走った試乗を終えてメーターを確認すると、燃費は平均6.3L/100キロ(100キロを走るのにどのくらいのガソリンを使うかという指標)を表示していた。日本式に換算すると15.9km/Lなので、力強い走りの割に燃費は良好と考えていいだろう。カタログ表記はWLTCモードで17.0km/Lだ。
アライアンスの恩恵は運転支援システムにも
運転支援システムも最新のクルマらしく充実している。アダプティブクルーズコントロール(ACC)は0~170km/hの全車速対応で、ストップ&ゴー機能もついている。テックパックではレーンセンタリングアシストが搭載されるので、自動運転レベル2の追従走行が可能なハイウェイ&トラフィックジャムアシストとして機能し、その時のメーター表示はとても見やすい。さらに、アクティブエマージェンシーブレーキやブラインドスポットアシストをはじめとする予防安全技術も盛り沢山だ。このあたりは日産とのアライアンスによる成果がしっかりと発揮されている部分と思われる。
ナビゲーションについては、スマートフォンのナビアプリを利用する7インチのタッチスクリーン式を採用。せっかく非接触の充電機能がついているのに、ナビを表示させるためには有線でUSBポートにつなぐ必要があるのは、ちょっとチグハグした点だ。
キャプチャーの価格は300万円前後と国産モデルに比べて少し高いものの、高速での優れた走りやトップレベルの居住性、積載能力などを考えると、欧州でベストセラーになっているのには合点がいく。チョイ乗りを繰り返すような場面では少し気になる点があるものの、それも欧州車らしさだと楽しむ割り切りができるならばオススメできるクルマだ。逆に、たくさんの荷物を積んでロングドライブに出かけるような使い方を狙っているユーザーには、キャプチャーは間違いなく“刺さる”存在である。