自分と価値観や人との接し方が異なる人たちと積極的にコミュニケーションを取り、みんなで協力して新しいモノやコトを生み出し、目的を達成していく。これからの時代、そんな局面は益々増えていくことでしょう。しかし、そこに集まった人々がお互いを理解しようとする意識がなければさまざまな課題を乗り越えていくことはできません。
そこで今回は、コミュニケーションの理論に詳しいリクルートマネジメントソリューションズ ソリューション統括部 コミュニケーションサイエンスチーム チームリーダーの松木知徳さんが、相互理解を深め、職場のコミュニケーションを円滑にするための方法やアイデアについて、実際の事例をもとに紹介します。
相互理解を促進するための取り組み例
人とのコミュニケーションには相互理解が大切です。相手が大切にしている考え方や仕事の進め方と自分のそれに違いがあるのが当然であり、その違いを互いに認識しておくことが大切であると松木さんは言います。
ただ、そうしたコミュニケーションが得意な人と苦手な人がいるのも事実。そこで、リクルートマネジメントソリューションズでは、社員間の相互理解を促進するために、"じっくり会"なるものを行っているそうです。
「じっくり会は、定例会議とは異なり、長時間かけて行う会議で、社外で合宿するケースもあります。組織変更で新しいメンバーが集まった時は相互理解のためにじっくり会をよく行います。
要は、お互いを知るための自己紹介の場なのですが、いままでどんな経験を積み、現在、何に思いを注ぎ、これからどのようなキャリアを目指したいのか。得意、苦手、喜怒哀楽を感じる場面など、自分をより知ってもらうために話しておきたいことや、情報共有や相談など他のメンバーに協力して欲しいことなどを共有します。
そして、他のメンバーから期待やサポートできそうなことについてフィードバックを受けます。こういう場が設定されることで、みんなが自分の思いを吐露しやすくなりますね。とはいえ、もちろん、話したくないプライベートなことまで詳細に開示する必要はありません」。
また、新入社員が配属された部署に早くなじむことができるように相互理解のための取り組みも行っているそうです。
「新入社員は、配属後、部署の先輩一人ひとりにアポを取り、1対1の面談でお互いの自己紹介をしながら、先輩の仕事についてインタビューをします。このスタイルだと、仕事とともに人となりが理解でき、声をかけやすくなる。また、大勢の人前で話すのが苦手な人も話しやすくなるようです」。
こうした取り組みが、上司と部下、先輩と後輩、同僚同士など、様々な社員間の関係性を良くし、深めていると松木さん。
「これらの取り組みは当社の風土の下でやっていることで、会社によってやり方は色々あると思います。少なくとも、仕事に対する思いや、自分がやりたいこと、課題に思っていることなどの『前提』を共有することで、上司の働きかけや、先輩や同僚のサポートが得られやすくなると思いますので、チームを作る上では大事なことではないかと思います」。
自らの意識と行動が相手を動かす
企業の存続や発展にイノベーションが欠かせない時代となり、一方では人材不足も相まって、多様な人材を活用するダイバーシティ経営はもはや避けては通れないものになっています。職場に今までとは違うタイプの人が増えてきたことによる松木さんへの相談は、多数届いているそうです。
「例えば、これまではトップダウンの『体育会系』風土の建設会社で、最近理系の人材を採用し始めたことで、上司が部下とのコミュニケーションに悩んでいるという相談がありました。その時は、ソーシャルスタイル理論を用いて、部下と本人とでは性格的特徴もそこからくる行動傾向も違うということを理解してもらいました。
部下の特徴を踏まえてパフォーマンスを発揮できるコミュニケーションを上司の側から働きかけることが大切であると伝えつつ、具体的な改善プランを検討しました。その後、上司側だけでなく部下の側にも言動に変化が生まれ、職場の空気や雰囲気が良い方向に変わってきたそうです」。
自分とは違うタイプの人と関わる際には、相手の特徴を正しく捉え、意識的に対応を変える。それができると、自然に相手の歩み寄りも生まれ、円滑なコミュニケーションにつながるのです。
コミュニケーション能力は、こうした経験を繰り返していくことで向上していくものだと松木さん。日常の意識と心がけが、その行方を左右しているのです。
自分とは違うタイプの人と上手に付き合うコミュニケーション能力は、これからの時代、社会を生き抜くのに不可欠な術。陰キャを自認している人も、まずは苦手意識を捨て、一歩ずつ行動してみてはいかがでしょうか。
取材協力:松木知徳(まつき・とものり)
リクルートマネジメントソリューションズ
ソリューション統括部 コミュニケーションサイエンスチーム チームリーダー
金融業界でキャリアを重ねた後、2007年にリクルートマネジメントソリューションズに入社。コンサルタントとして企業の人材開発・組織開発に従事し、数々の表彰を受ける。現在は、テクノロジーや科学的な理論をもとにした営業生産性向上のための新サービスの開発を行うほか、メディアでの執筆活動、講演なども行っている。