あなたは、自分のコミュニケーション能力に自信がありますか? この質問に、胸を張って「YES」と答えられる人はそれほど多くはないのではないでしょうか。特に自分を「陰キャ」と位置付けし、大勢の人間とノリで集まることを苦手としている人ほど、コミュニケーションに対するハードル意識は高いかもしれません。

とはいえ、社会人として生きていくにあたって、同僚や上司、取引先の相手など、不特定多数の人との関わり合いは不可欠。「あの人は苦手……」と言ってばかりもいられないのが現実です。

  • 同僚とうまく話せないと感じることはありますか?(写真:マイナビニュース)

    同僚とうまく話せないと感じることはありますか?

そこで、コミュニケーションについて日々研究を重ねているこの分野のプロ、リクルート マネジメントソリューションズ ソリューション統括部 コミュニケーションサイエンスチーム チームリーダーの松木知徳さんに、人との距離の縮め方=コミュニケーション能力の高め方について教えていただきました。

コミュニケーションは人類永遠の悩み?!

「時代は急速に流れ、テクノロジーの発達により様々なメディアが生まれ、自分の気持ちや意見を人に伝達するための手段や方法はどんどん進化しています。

にもかかわらず、コミュニケーションに対する問題は一向に解決されないばかりか、むしろ新しい伝達手段が出てくると新しいコミュニケーションの問題が発生しています。そこが、コミュニケーションの面白いところでもあり、奥深いところでもあるなと思っています」と松木さんは話します。

ただ一方で、「コミュニケーションそのものの定義を理解しておくことが、問題解決の糸口にはなると思います」とも松木さんは言います。

  • リクルートマネジメントソリューションズ ソリューション統括部 コミュニケーションサイエンスチーム チームリーダー 松木知徳さん

    リクルートマネジメントソリューションズ ソリューション統括部 コミュニケーションサイエンスチーム チームリーダー 松木知徳さん

コミュニケーションの定義を知る

コミュニケーションとは一体何なのか? 松木さんは、以下の2つの図をもって次のように解説します。

「これは、50年以上前にアメリカの電気工学者であるクロード・シャノンが発表したコミュニケーション理論です。当時電話会社に勤めていた彼は、コミュニケーションを通信工学的に捉えています。

“送り手は、メッセージを情報化して電子信号にして送る。受け手は、その信号を受信し、解読する。ただ、途中で何かしらのノイズが入ると、メッセージは正確に伝わらなくなってしまう。”

これが、コミュニケーションの基本の成り立ちです。私は、この考え方を非常に大事にしたいと思っています」。

「先ほどの図をもう少し人間社会に当てはめたのが、この、社会心理学者 池田謙一氏のモデルです。

"話者1が自分の頭の中にある事柄を表現して相手に伝えると、話者2はそれを受け取って解釈し、自分の頭の中にその事柄をイメージする"

このやり取りをお互いにしていくのがコミュニケーションです。ところが、往々にしてあるのが、どうも話が相手に伝わっていない気がするとか、その場ではそうだねと言っていても、後々話してみると大きな誤解をしているということ。なぜそうしたことが起きてしまうのでしょうか。その要因となっているのが『前提』です。

例えば、二人以上の人が同じ言葉を聞いても、みんなが同じ物をイメージするとは限りません。それは、それぞれが持つ知識や、それまでの経験などによって違ってきます。まさにそれが前提です。コミュニケーションの成否は、前提に大きく左右されるということです」。

「前提の共有」がコミュニケーションの要

若手社員と上司では、前提となる経験が全く違う。だから、そう簡単に分かり合えないのは当然。ただ、両者の間にコミュニケーションギャップが生まれてしまうのは、お互いの前提が共有されていないから。つまり、「『前提の共有』こそがコミュニケーションの要」。そう松木さんは言います。

「コミュニケーションを語るとき、どうしてもフォーカスされがちなのが、自分の思いをいかに表現するかとか、相手の言葉をいかに解釈するかということ。確かにこれらはコミュニケーションに必要なスキルですが、私はそれ以前に、いかにお互いの中にある前提を知ろうとするかということが、実は一番大事なのではないかと思っています。

あなたはどういう前提なの? っていう話って、あまりしないですよね。前提がお互いに共有されない状態のままコミュニケーションされていることって、非常に多いと思います。それが、コミュニケーションにギャップを産み、人々を悩ませている。逆に言えば、前提の共有こそが、コミュニケーション問題を解決する糸口になると思うのです」。


「自分は陰キャだから趣味が合う人としか話せない」と今まで諦めていた人も、最近食べておいしかったもの、ネットで気になったニュースなど、日常の小さなことを話して、相手との前提を共有していくのが良いそうです。

次回はコミュニケーションを深めるステップについて解説してもらいます。

取材協力:松木知徳(まつき・とものり)

リクルートマネジメントソリューションズ
ソリューション統括部 コミュニケーションサイエンスチーム チームリーダー
金融業界でキャリアを重ねた後、2007年にリクルートマネジメントソリューションズに入社。コンサルタントとして企業の人材開発・組織開発に従事し、数々の表彰を受ける。現在は、テクノロジーや科学的な理論をもとにした営業生産性向上のための新サービスの開発を行うほか、メディアでの執筆活動、講演なども行っている。