2016年からの国内外のマーケット環境を眺めると、中国情勢に対する不安が高まっています。その中国株市場では、1月13日(水)の上海総合指数の終値が2,949ポイントとなり、節目の3,000ポイントを下回りました。3,000ポイント割れは昨年夏場のいわゆる「チャイナ・ショック」時の8月26日以来ですので、ショックの再来を指摘する声が多く聞かれるようになりました。そこで、中国に対する不安を簡単に整理してみたいと思います。

チャイナ・ショック以降に大きく変わったのは、むしろ中国に対する視点

そもそも、中国の景気減速自体は今に始まったわけではなく、ここ1年以上続いている傾向です。足元でも急激な悪化があったわけではありません(経済指標を信じる限りでは)。昨年夏のチャイナ・ショック以降に大きく変わったのは、むしろ中国に対する視点です。

これまでの中国の見通しに対するイメージは、(1)「何だかんだで経済成長を続けていくだろう(ポテンシャルが高い・需要増の期待)」、(2)「その経済成長に伴って人民元も上昇していくだろう(海外からの資金流入期待)」、(3)「政権基盤が磐石なため、適切な手を打てるだろう(いざとなったら政策期待)」というものでした。そのため、景気減速についても、これまでの投資主体・高成長から、消費主体・安定成長へと移行する「新常態(ニューノーマル)」の過程にあるわけだから、一時的な減速は仕方ないと思われてきた面があります。

ところが、上昇していくと思われていた人民元が昨年8月にいきなり中国当局の意図によって、わずか3日間で4.6%も「突然」切り下げられました。その後の株価急落への対応も後手に回り、仕方ないと思われてきた景気減速も「実は結構ヤバイんじゃないか?」というムードに変わって不安が一気に高まったのが前回のチャイナ・ショックになります。つまり、中国に対して楽観的に過大評価していた部分を修正し始めたわけです。なお、この時は中国当局のなりふり構わぬ株価対策と、人民元買い介入によって、ひとまず落ち着きを取り戻します。

ところが、人民元は年末から再び下落していきます。中国当局は夏場の反省もあってか、今度は「緩やか」に人民元を引き下げてきました。引き下げを始めたタイミングは人民元がIMFのSDR(特別引き出し権)の構成通貨に採用された昨年12月からです。「突然」であろうと「緩やか」であろうと、人民元安に向かっていることに変わりはないですし、市場を安定させるために導入したサーキットブレーカー制度も裏目に出て、結果的に中国株市場が大きく下落することになりました。

なぜ中国当局は人民元を引き下げようとした?

ここでポイントになるのは、不安への引き金を引いたのが人民元の切り下げ(人民元安)であることです。では、なぜ中国当局は人民元を引き下げようとしたのでしょうか?

なぜ中国当局は人民元を引き下げようとした?

自国の通貨安は輸出にとって有利なため、輸出促進の景気テコ入れ策という見方もありますが、これまでは人民元高が想定されていましたから、人民元安は、当ての外れた海外からの投資マネーの流出が加速したり、ドル建てで借り入れを行っている中国企業の債務負担が増してしまうため、中国経済全体で言えば人民元安はデメリットの方が多いと思われます。実際に、これまでの中国は人民元高を誘導する方針をとってきました。

そうなると、人民元安にしなければならない事情があるのかもしれません。実質実効為替レート上の人民元が高くなっているために修正が必要だったことや、人民元高を維持するために為替介入(人民元買い・外貨売り)を行ってきたが、昨年6月をピークに外貨準備高がかなりのペースで減少していることなどが考えられますが、真相はよくわかりません。それ故に、「そうまでしなければならないほど国内事情が悪化している」、「中国当局のコントロールが効かなくなっている」などの思惑を呼び、より不安が高まってしまっているとも言えそうです。

執筆者プロフィール : 土信田 雅之

楽天証券経済研究所 シニア・マーケットアナリスト。国際テクニカルアナリスト連盟 認定テクニカルアナリスト。新光証券(現:みずほ証券)、松井証券を経て、2011年10月より、現職。国内株市場の動向はもちろん、世界の株式市場、特に中国経済や中国企業の分析にも強みを持つ。テレビや新聞、雑誌など幅広いメディア媒体で活躍中。