「東京は物価が高いので、生活費が高い」または、「地方は物価が安いので、生活費が東京に比べてあまりかからない」と世間でよく言われていることは、本当なのでしょうか。

連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京から地方へ移り住んで感じたことを交えながらお伝えいたします。

短時間労働者とは

街を歩いていると「求人募集」「パート急募」などの張り紙をよく目にします。東京在住の頃と比べて時給の違いを感じます。東京都は人口密度が高く、企業や店舗の数も多いため、労働者を確保するために、他の地域よりも時給を高く設定せざるを得ないのかもしれません。今回は、短時間労働者について調べてみました。

厚生労働省によると、「短時間労働者(パートタイム労働者)」とは、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者(正社員等)の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」と定義されています。パートタイマー、アルバイト、準社員、嘱託、契約社員、臨時社員、などの名称にかかわらず、この定義に当てはまる労働者であれば、短時間労働者(パートタイム労働者)となります。

1時間当たりの賃金

平成28年の短時間労働者の1時間当たりの賃金は、全国平均で男女計1,075円、男性1,134円(青色で表示)、女性1,054円(赤色で表示)となっていて、都道府県別にみると、最も賃金が高いのは、東京都で男性1,309円、女性1,236円となっています。

  • 表1 都道府県別・性別・産業別 短時間労働者1時間当たり賃金
    ※「平成28年賃金構造基本統計調査の概況・付表13」(厚生労働省)を加工して作成
    ※10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所を対象とする
    注:1)産業計には、上掲のほか、男女とも、鉱業,採石業,砂利採取業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、金融業,保険業、不動産業,物品賃貸業、学術研究,専門・技術サービス業、生活関連サービス業,娯楽業、教育,学習支援業、複合サービス事業を含み、さらに、男性では医療,福祉、女性では運輸業,郵便業を含む

産業別にみると、すべての産業において、東京都の賃金が最も高いというわけではないようです。男性においては、製造業では山口県1,532円、卸売業・小売業では富山県1,238円、サービス業では山形県1,616円が最も賃金が高いという結果になっています。また、女性においては、医療・福祉では京都1,425円が最も賃金が高いです。

男女別でみてみますと、1時間当たり賃金が1,000円未満の地域は、男性9地域、女性30地域となり、多くの地域において、男女間の賃金格差があることがわかります。

短時間労働を選んだ理由

短時間労働を選んだ理由についてみてみましょう。

「自分の都合の良い時間(日)に働きたいから」が57.0%と最も高く、次に「勤務時間・日数が短いから」39.4%、「就業調整(年収の調整や労働時間の調整)ができるから」20.2%と続いています(緑色で表示)。自分の都合や予定に合わせて働ける環境ということで、短時間労働を選んだ人が多いようです。

  • 表2 短時間労働を選んだ理由
    ※「平成28年パートタイム労働者総合実態調査の概況・表36」(厚生労働省)を加工して作成
    ※調査対象者の中に、短時間正社員は含まない

また、男女別でみてみると、「家庭の事情(育児・介護等)で正社員として働けないから」を理由にしている女性の割合が21.7%(赤色で表示)、男性の割合が1.9%(青色で表示)となり、女性が男性に比べてとても高い割合になっています。この数値により、現在では、育児や介護等の負担が、女性に偏っていることがわかります。

短時間労働で働いている理由

次に、短時間労働者の働いている理由についてみてみましょう。

「生きがい・社会参加のため」が31.2%(緑色で表示)と最も高く、生活を維持することや、家計の足しにすること等の金銭的な理由よりも上回っています。

  • 表3 短時間労働で働いている理由
    ※「平成28年パートタイム労働者総合実態調査の概況・表35」(厚生労働省)を加工して作成
    ※調査対象者の中に、短時間正社員は含まない

金銭的な理由ですと、自らの意思というよりは義務に近い状態で働くことになりますが、「生きがい・社会参加のため」に働いている人は、金銭的な余裕を得ることよりも、働くことにより生きがいを見つけたり、地域社会に貢献したりすることにより、幸福感を得ているのかもしれません。

終わりに

今回は、短時間労働者について調べてみました。東京在住時は、カフェで常に満席に近い店内で注文に並ぶ客を対応しているスタッフを見ると、「求人広告の張り紙の時給は安すぎる!」と根拠もなく思っていました。

現在住んでいる街では、カフェで満席になることは少なく、スタッフも心に余裕があるのか、清掃も行き届いていて、接客が柔らかいと感じています。東京は人口が多いため、多くの注文に対応するだけで働くエネルギーを使い果たしてしまうこともあるのだろうと思います。

現在住んでいる街の求人広告の時給は、東京に比べて安いと感じますが、東京に比べると自分のペースで働ける環境なのではないかと思います。また、働く業務内容によって時給に差があるのは理解できますが、同じ業務内容であるにもかかわらず、男女間で賃金に差があるのであれば、これは改善すべき課題ではないかと思います。

高鷲佐織(たかわしさおり)

ファイナンシャル・プランナー(CFP 認定者)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/DCプランナー1級。

資格の学校TACにて、FP講師として、教材の作成・校閲、講義に従事している。過去問分析を通じて学習者が苦手とする分野での、理解しやすい教材作りを心がけて、FP技能検定3級から1級までの教材などの作成・校閲を行っている。また、並行して資産形成や年金などの個人のお金に関する相談を行っている。