今年のボーナス商戦では、テレビとレコーダーは低調なセールスとならざるを得ない。ご存知のとおり、7月にアナログ停波があり、多くの人が昨年から今年前半にかけてテレビやレコーダーを買い換えてしまったからだ。そこで、各社ともさまざまな新機軸を打ちだそうとしているが、なかなかこれといった決め手にかけている。その中でも、有望そうなのが「全録」テレビ、「全録」レコーダーだ。

東芝は「レグザ」シリーズのテレビ、レコーダー高級機に「タイムシフトマシン」を搭載している。最大で6チャンネル、15日間の全番組を自動録画する機能だ。ただし、録画できる時間はそれぞれの機種のハードディスク容量による。テレビの場合、25時間程度、レコーダーの場合15日間となる。また、自動録画するチャンネル数を減らせば、その分、録画できる時間は多くなる。たとえば、「レグザ ZG2」シリーズの場合、録画対象を3チャンネルに限定すれば50時間分録画できるわけだ

「全録」とは、テレビ放送を全チャンネル・全番組まるごと録画してしまう機能。手動での録画予約という面倒な作業をしなくても、過去の番組表から観たい番組を選ぶだけで好きなときに観られるというものだ。テレビ市場ではいつも先端的な機能を意欲的に採用している東芝はこの全録機能を、「タイムシフトマシン」という名称で液晶テレビ「レグザ」シリーズやデジタルレコーダー「レグザサーバー」などに搭載した。また、PC向け周辺機器で有名なバッファローは「まるっと全録」という機能名の全録機能を搭載したHDDレコーダー「DVR-Z8」を発売する。

いずれもテレビないしはレコーダーに大容量のハードディスクを搭載。6~8台ほどのチューナーで番組を受信し、24時間すべてのチャンネルの番組を録画してしまおうというものだ。

ハードディスクの容量がいっぱいになったら、古い録画から順次消去されていく仕組みで、どれだけ過去の番組までさかのぼれるかは、ハードディスク容量による。さかのぼれるタイミングは24時間程度のものから1週間のものまでさまざまだ。

このような「全録機」が重宝しそうな利用者としてはまず、忙しいビジネスパーソンが想定される。昼間はもちろん仕事をしているのでテレビを観ている暇などはない。ところが、同僚や客先などとの会話で「今日の日本シリーズは、伝説になる名試合だ」などという話題がでることがある。しかし、その場で観るわけにはいかないし、夜遅く帰宅してもスポーツニュースなどで編集された短い映像を観るしかない。ここで全録機があれば、じっくりと楽しむことができるわけだ。しかも録画してある映像だから、やや退屈な部分は早送りをして時間も節約できる。

ポイントは、あらかじめ録画予約をしておかなくても良いというところだ。その番組が話題になるかどうかをあらかじめ予測することはできない。普通のレコーダーであれば、話題になってから「観たい」と思っても、録画予約をしていなければどうすることもできない。だが全録機であれば、話題になってからでもその番組を楽しむことができるというわけだ。このような用途に使うのであれば、24時間から48時間分程度を録画できる全録機で十分だろう。

バッファローは「まるっと全録」機能を搭載したHDDレコーダー「ゼン録 DVR-Z8」を12月より発売する。録画できるのは地デジのみだが、8チャンネル・8日間の全番組を録画できる。なお、このレコーダーの商品名は「らくらくTVレコーダー ゼン録」だ。「らくらくTVレコーダー」という名前を付けているあたり、マニア向けとは異なる市場をバッファローが狙っていることが窺える。推定市場価格は10万円前後

また、テレビ番組とSNSの融合を期待する声も大きい。SNSとはツイッターやFacebookなどのこと。このようなSNSで交わされる話題は、意外にもテレビ番組に関するものが多い。内容は、その番組に対する賞賛だったり批判だったりとさまざまだが、番組を観た人が感想を発表して、それに対してレスポンスが行われるケースが多いのだ。テレビ放送とインターネットは遠い存在で、テレビを観る人はネットをやらない、ネットをやる人はテレビを観ないと思われがちだが、意外にも「ネットでテレビの話題を語っている人」は多い。このようにネットで話題になるテレビ番組は、当然ながら過去に放送されたものだ。録画をしておかなければ基本的には観ることはできない。その点、全録機ならネットで話題になった番組を観ることができ、その人が番組について再びネットで発言することで、番組の評判が広がる。こうして、テレビとネットの両方が盛り上がっていく。こういう用途ではやはり1週間分は録画できる全録機が必要になるだろう。

要するに、全録機は「録画予約」に対する考え方を変えてしまうのだ。今までの録画予約は、「番組を観る前に、観るかどうかを決めなくてはならない」という方式だった。そのため、番組の選択はどうしても保守的になりがちで、「有名な番組」「有名なタレントが出演している番組」に選択肢が偏りがちだった。こうした人気番組は制作する側も思い切ったことがやりづらく、内容も保守的になる傾向がある。こうして、「最近、面白いテレビ番組がない」という評判につながってしまうわけだ。ほぼ24時間放送されているテレビ番組の中には、面白い番組や思い切った挑戦をしている番組もたくさんあるのだが、手動の録画予約が浸透すればするほど、このような隠れた名番組は見逃されてしまう傾向が強くなっていく。

全録機が普及すれば、このような隠れた番組の発掘につながり、再びテレビという世界が活気を取り戻すきっかけになるのではないかという人もいる。

一般的に全録機は、このようにテレビ好きな人やマニア向けの製品だと思われているが、バッファローは面白いアプローチをしている。10月19日のバッファローの発表会記事によると、「タイムシフト記録(タイマー録画)操作の難解さは従来より課題だった」「全チャンネル録画してしまえば、録画予約がそもそも不要になる」と同社デジタルホーム事業部の石井希典 事業部長は語っているのだ。つまりバッファローでは、全録機を「マニア向けの高機能機」という位置づけではなく、「録画予約をしなくて良い簡単操作の録画機」として考えているのである。

これはたいへん素晴らしい着眼で、全録機の将来はむしろこちらの「簡単録画」という方向にあると思う。また、一部では「全録機は究極の録画機」という声もあるが、私は「全録機は新時代の録画機の始まり」だと思う。これが究極ではない。では、全録機の先にはどのような録画機があるのか。それを次回、ご紹介したいと思う。

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