前回に続いて、ブルーレイ(BD)の普及が今ひとつ遅い感じがするのはなぜかかという話をしていこう。結論として、DVDがBDに置き換わっていくのは間違いはない。セル(販売用)BDの世界ではアニメファンはすでにBD化を完了している勢いだし、これからハイビジョン映像が徐々に供給されるアイドルファン、音楽ファンの間でもしだいに普及していくだろう。こういうファンは、コンテンツを“所有する”ことに喜びを感じるからだ。

問題はレンタル派で、従来レンタル店からDVDを借りてきて楽しんでいた人たちの中には、BDへの買い替えを躊躇している人が多い。時間は掛かってもBDプレイヤー、レコーダーを購入してくれればいいが、現在ではBDプレイヤーがなくても十分にコンテンツが手に入られる環境になっている。その例として、前回は「Hulu」「Gyao!」「Apple TV」などのインターネットを利用したオンデマンドサービスを紹介した。

これだけであれば、「やっぱり映画は大画面テレビで観たいよ」「ネットサービスをテレビに接続するのは面倒だ」と考える人も多く、BDの普及にとって致命的とはいえないだろう。しかし最近はBS放送の充実ぶりが素晴らしく、これが大きなハードルになる可能性がある。

ひとつは、一時は低迷していた民放のBSデジタル放送が息を吹き返してきていることだ。BSデジタル放送は、2000年12月にNHKと民放キー局が開始した無料放送だが、当初の民放BS局の番組内容は見るも無残なものだった。NHKはすでにBSアナログ放送を配信していた実績があったので、これを単にハイビジョン化して放送すればよかった。しかし、民放は新たに番組を制作しなければならない。しかも、BSアナログ時代は「食による放送休止」(衛星が地球の影に入ってしまい、太陽電池が使えなくなるなるため)があったり、放送衛星の打ち上げが失敗し、存続そのものが危ぶまれたりもした“いわくつき”の放送チャンネルだ。さらには普及もしていないため広告出稿するスポンサーもわずかで、低予算で番組を作るしかない。

【図1】2007年のある平日(9月12日)のBSデジタル放送の番組表を基に、通販番組の割合を調べてみた(5分番組などは省略してある)。チャンネルによっては、通販番組が半分を超えていることがわかるだろう

その結果が、低予算丸出しの質が低いバラエティ番組と、テレビショッピング番組だった。【図1】は、2007年9月12日の民法各局のBSデジタル番組表で、通販番組は赤く塗ってある。この日を例に挙げたのに他意はない。無作為でこの日を選んだだけで、当時のBSデジタル放送を観ていた人であれば、どの日もこんな調子の番組編成であったことは納得いただけるだろう。

ものすごい量の通販番組で、その他のドラマも低価格で購入できるアジアドラマや国産ドラマの再放送ものがほとんどだ。これでは、一日中CMを流しているといっても過言ではない。唯一毛色が違うのがBSジャパン。このチャンネルはテレビ東京系列なので、グループ会社である日本経済新聞社の協力を得た経済報道番組、そして得意としているアニメ放送などを多めに編成している。しかしその他のチャンネルは、半分程度が通販番組であることが分かるだろう。

当然、この状態は問題となった。国会でも問題視されたことがあり、そのたびに各チャンネルは通販番組の割合を下げてきた。今年(2012年)は放送法が改正され、10月からは各チャンネルとも番組編成の時間配分実績を公表する義務ができ、さらに新設のチャンネルに関しては通販番組を30%程度に抑える必要が出てきた。

各チャンネルがこの対策として増やしてきたのが韓国ドラマだ。韓国ドラマは、低価格で購入できるにもかかわらず、それなりに視聴率が獲得しやすいコンテンツだからだ。また、もうひとつ増やしてきたのが紀行番組だ。これもアジアものだと、現地のプロダクションに低価格での制作を依頼できる。さらに、紀行番組は再放送を何回も繰り返しても、視聴率の低下があまり見られない。こういうわけで現在の衛星放送では、韓国ドラマや海外ドラマ、紀行番組が多くなり、「地上波は観る番組がなくて」と嘆いている中高年の間で人気が高まっているのだ。

さらに2011年10月からは、12チャンネルだったBS衛星放送が24チャンネルになった。新設されたのは、基本的に有料チャンネルだが、中では「FOXbs238」と「BSスカパー!」が来年9月いっぱいまで1年間の無料放送を実施する(ただし、BSスカパー!の無料放送を利用するにはスカパー!e2への加入が必要)。特にFOXbs238は衝撃的で「Sex and the City」を始めとするFOXの人気ドラマ、「アメリカン・アイドル」などのリアリティ番組などが1年間無料放送される。

その他、既存の有料放送でもWOWOWが3チャンネルに増え、アニメ専門のBSアニマックス、スポーツ専門のJSPORTなどがCS放送から参入してきた。さらに、来年3月にはディズニーを始めとする7チャンネルがさらに増える。

今まではBSというと、「NHKと買物番組の民放」という魅力があまり感じられない印象だったが、既存の衛星放送の番組編成が充実してきたこと、新しいチャンネルが続々と参入してくることなどから、にわかに面白い放送になってきているのだ。

ただし、問題は放映時間だ。一応、夕方7時から10時までのゴールデンタイムは意識して編成されているものの、魅力的なドラマや紀行番組などは深夜や午前中に放送されていることが多い。いきおい、衛星放送は「リアルタイムで観るものではなく、レコーダーに録画して観るもの」ということになってくるだろう。

そこでは、私はみなさんにオススメしたい。BDレコーダーにこだわるよりは、HDD容量の大きなレコーダーを選んでおいたほうが後悔しない。最低でも1TB、可能ならば3TBは欲しいところだ。というのも、衛星放送では連続ドラマが毎日2話ずつ放送などということも多いし、良質な映画がほぼ毎日放送されているからだ。できれば、市販のハードディスクを後から追加できるタイプのレコーダーがオススメだ。

BDが次世代の光ディスクであることは間違いなく、普及することも間違いはないだろう。しかし今では、光ディスク以外のチャンネル(前回紹介したインターネット経由のオンデマンドサービスや衛星放送)がある。以前のDVDはテレビ保有者にとって必需品であったが、BDは必需品とまでいえなくなっているのだ。BDの普及がDVDと比べてかなりゆっくりとしたものになるのも仕方がないことなのだ。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

以前 10月以降
BS日テレ 40%弱 40%弱
BS朝日 36% 30%
BS-TBS 38% 34%
BSジャパン 37% 30%
BSフジ 30% 30%
BS11 45% 30%台
トゥエルビ 60%以上 50%弱

2011年10月より、BSデジタル放送各社には、番組編成の時間配分を公開することが義務づけられた。各チャンネルとも通販番組の割合を30%台に抑える意向だ。新設チャンネルでは30%程度に抑えることが求められる。なお、BS11はビックカメラが株主、トゥエルビは通販会社QVCを展開する三井物産が親会社という関係から、そもそもが通販番組中心の編成だった。それでも、通販番組の時間配分を今後とも少なくしていく意向だ