アナログ停波まであとわずか。すでに地デジ対応がお済みの方は、家電量販店のテレビ売場には最近行っていないかもしれないが、テレビ売場ではちょっとした異変が起きている。商品がなく、がらんどうになってしまっているのだ。テレビが消えてしまった。なぜ、このような状況になったのだろう。

大規模な家電量販店のテレビ売場は、さすがに商品がなくなっているというようなことはない。しかし、過去かつてないほどの品薄状態になっていて、当日もって帰れる、あるいは数日以内に配送可能という商品は極めて少なくなっている。

大規模スーパーやショッピングモール内のテレビ売場は、もっとわかりやすく、ほんとうに商品が消えている。ある大規模スーパー内のテレビ売場にいってみたら、入り口付近に4種類ほどのテレビが展示されていたが、奥の棚はすべて商品がなくなっていた。聞いてみると、商品の入荷見こみが立たないので、展示ができないのだという。

6月、7月といえば、アナログ停波の直前のかけこみ需要が期待できる時期。そのかき入れどきに品不足とはいったいどういうことなのだろうか?

ひとつは、メーカーがすでに生産調整に入っていることがある。東日本震災の影響で、部品調達や流通が難しくなったこともあって、生産量は一時的に減少したが、そこから回復させるのではなく、買い替え需要に見合った生産量に着地させたいとメーカーは考えている。というのは、今後、テレビの需要が急激に伸びるということはもはや考えられないからだ。

テレビ需要は、過去3回大きな盛り上がりを示した。エコポイントの改定(改定されるたびに条件が悪くなっていく)の駆け込み需要だ。昨年3月は220万台規模、昨年末は400万台規模の盛り上がりがあったが、今年3月も震災があったのに210万台規模で売れている。しかし、一般的な買い替え需要は毎月100万台から150万台程度なので、メーカーとしては早めにこの生産量に戻したい。そのため、生産量があまり増えていないのだ。

もうひとつは、売れたテレビの構成比の変化だ。電子情報技術産業協会(JEITA)では、薄型テレビの出荷台数の統計をサイズ別に発表している。29型以下(パーソナル)、30型から36型(リビング用)、37型以上という区分けだ。昨年から今年にかけての数値をみると、この3つはほぼ同数売れているが、やはりいちばん多く売れているのは中サイズのものだった。

ところが、昨年末のエコポイント改定前の駆け込み需要を越えると、明らかな変化がでてきた。小サイズのテレビが主役となり、一方で大サイズのテレビは明らかに出荷台数が減っているのだ。この理由は、簡単に想像がつくだろう。大サイズのテレビというのは、ある意味、贅沢品だ。価格は圧倒的に安くなったとはいうものの、そもそも家や部屋が広くなければ置きようがない。そういう人たちは、エコポイントをうまく利用してすでに購入してしまっている。今の駆け込み需要は、まだ地デジ対策をしていなかった単身世帯、あるいは2台目、3台目のテレビが中心になり、勢い小サイズのテレビが売れるというわけだ。

グラフを見ていただければ、一目瞭然だが、昨年の11月までは、どのサイズもほぼ同じ台数が出荷されているが、昨年12月以降、大サイズのみが少ない状況に変化している。これは、テレビメーカーにとってつらい状況だ。あたり前の話だが、大サイズのテレビは単価が高い。大サイズが少なくなるということは、売上は小さくなるということだ。さらに、大サイズのテレビは利益率も高い。昨年と今年を比べると、台数が同じだとしても、売上と利益は大幅に少なくなってしまっているのだ。

このような状況で、駆け込み需要があるから増産をしようというのはかなり厳しい。一方、消費者側には駆け込み需要がある。というわけで、棚からテレビが消えるほど、在庫がなくなってしまっているのだ。

テレビに限らず、現代の流通はとても精密におこなわれていて、通常は売れる数だけ店舗に納入するという離れ業を毎日行っている。いうまでもなく、店舗が倉庫をもつのはコストがかかるし、在庫をもつのは不良在庫になるというリスクがある。そこで、店舗は極力在庫をもたないようになっているのだ。そのため、ちょっとした需給の乱れがあると、あっという間に店頭在庫まで消え去ってしまう。震災で、水やパンといった商品があっという間に店頭から消え去ったことはまだ鮮明な記憶として残っているはずだ。あれも、だれかが買い占めをしているから消えたのではなく、消費者がいつもより少し余計に買うことで、商品が消え去ってしまったのだ。

読者の中には、まだ地デジテレビを購入していないが、買えなくて困っているという人もいるかもしれない。あるいは2台目、3台目のテレビを買おうとしたら、すぐに購入できる機種が少なく躊躇している人もいるかもしれない。テレビは、水やパンとは違うので、こういうときに焦って買おうとする人はそうは多くないと思うが、このようなときは、無理して買っても、あとで後悔をすることになる。今は、安価な地デジチューナーを買うなどして対応しておき、しばらく経って在庫が増えてからじっくり買った方がいいだろう。

では、いつごろなら、テレビの在庫が豊富になり、買いやすくなるのか。販売店などで聞くと、9月ごろにはという意見が多いようだが、確信はないようだ。正直わからないというのが正確なところのようだ。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

テレビとチューナーの販売台数の推移。NHKが発表している地デジ対応テレビ、チューナー(録画機を含む)の速報値をグラフ化したもの。6月にはすでにアナログ停波前の駆け込み需要が始まっており、これが店頭在庫が消えるという状態を生んでいると思われる

薄型テレビのサイズ別出荷台数の推移。JEITA発表の国内電子機器出荷台数統計をグラフにしたもの。今年に入って、大サイズのテレビの出荷台数が低調になるという現象が起きている