フルハイビジョン放送って存在しない?
いよいよわが家にもハイビジョンテレビがやってきた!さあ、見るぞ!と意気込んで、最初は美しい映像にたっぷり満足したものの、しばらく経ってみると、画質がきれいな番組もある一方で、なんだか妙にいまいちの画質の番組もあるような気がする。そんな疑問をもった人はいないだろうか。あなたの直感は正しい。実は、ハイビジョン放送には解像度の面でさまざまな番組が混在しているのだ。特に、これからフルハイビジョン(以下フルHD)テレビを買おうと考えている人は要注意。実は、ほんとうの意味でのフルHD放送はほとんど行われていない。ええ?じゃあ、フルHDテレビってなんなのさ? もちろん、まったく意味がないわけではないが、テレビの視聴のしかたによっては、価格が安いハイビジョンテレビでじゅうぶんな場合も多いのだ。
ピンからキリまであるハイビジョン放送
そもそもがハイビジョンといっても、実際の解像度はさまざまなものが存在していることが原因だ。現在、ハイビジョンと呼ばれている規格には、720p、1080i、1080pという3種類がある。数字は縦方向のドット数を表すので、大きいほど美しい映像になる。pとかiという添え字はプログレッシブとインタレースを表している。映像1コマを表示するときに、1ラインずつきちんと表示していくあたり前のやり方がp(プログレッシブ:順次走査方式)、1ライン表示して、次の1ラインは表示をさぼって、次の1ラインを表示するというように、1ラインおきに表示するのがi(インタレース:飛び越し査方式)だ。荒っぽくいえば、飛び越し表示をしているインタレースより、1ラインずつ表示するプログレッシブの方が画質がいいということだけ覚えておいていただきたい。
さて、このうち、テレビ放送で実際にどれが使われているかというと、1080iのみと考えて差し支えない。最高の画質で放送したいなら1080pだが、データ量が多すぎて、電波では送りきれないのだ。
横に圧縮して戻してから表示する地デジ放送
「テレビ放送はすべて1080iというのであれば、なんで画質がいい番組といまいちの番組があるわけ? おかしいじゃない?」と思われるだろう。実は1080iといっても、中身は2種類あるのだ。1080iの解像度は1920×1080ドット。今、フルHDテレビと銘打たれて販売されているテレビは、1920×1080ドットの解像度があるので、フルHD放送をフルHDテレビで視聴すれば、この上なく美しい映像が見れるはずだ。ところが、地上波では1920×1080ドットの映像もデータ量が多すぎて、送りきれないのだ。そこで、どうするかというと、いったん1440×1080ドットの映像に変換(横方向に映像を縮めると考えて差し支えない)。この状態で、電波で送信し、テレビ側が横を1920ドットに引き伸ばして再生するという仕組みになっている。つまり、フルHDテレビで地上デジタル放送を見ても、ほんとうのフルHD画質で見ているわけではないのだ。
一方で、BSデジタル放送は1920×1080ドットの映像をそのまま送ることができる。電波の帯域に余裕があるからだ。つまり、地上波の方はいまいちの画質で、NHK-hiなどのBSデジタル放送では美しい画質を目にすることができる。この他、昔の番組を再放送する場合などは、映像そのものが標準画質なので、ハイビジョン放送であっても、画質は以前のままだ。
Blu-Rayを見るならやっぱりフルHD
「なんだ。フルHDテレビでも放送が1440×1080ドットなら、テレビの性能を使い切っていないじゃないか」と思われるだろう。実際、その通りで、フルHDテレビのほとんどは、究極のハイビジョンである1080pも再生する能力をもっている。しかし、実際の放送はそのひとつ下の1080iで、しかも本来横が1920ドットであるはずのものが1440ドットに圧縮されて放送されている。しかし、かといって、フルHDテレビが無用の長物というわけではない。BSデジタル放送では、1920×1080ドットという1080iの規格を使い切った放送が行われているし、Blu-Rayソフトやビデオカメラなどにはもうひとつ上の1080pでの記録に対応しているものもある。この場合は、フルHDテレビならではの美しさを堪能できるわけだ。つまり、地上デジタル放送を見るだけというのであれば、フルHDテレビの性能は活かしきれない。BSデジタル放送を見る、Blu-Rayディスクを見る、ビデオカメラの映像を楽しみたいという場合に、フルHDテレビが活きてくる。
では、ほとんど地上デジタル放送しか見ないのなら、フルHDテレビは不要で、ただのハイビジョン対応テレビでいいのかというと、これも微妙だ。なぜなら、ただのハイビジョン対応テレビは、解像度が1366×768ドットというのが一般的だからだ。先ほど説明したように地上デジタル放送は1440×1080ドットで送られてくる。これをテレビはいったん1920×1080ドットに復元して、それから映像を間引いて1366×768ドットに直して再生するということになる。このような面倒な手順を踏むときは、テレビの基本性能ももちろんだが、画像変換回路の優秀さも大きく画質に関わってくる。変換回路が優秀なテレビであれば、フルHDと見分けがつかないほど美しい映像が表示されるが、ここがいい加減なテレビではノイズ(ラメのような金属片がチラチラ舞っているようなノイズが一般的)が現れてしまうこともある。
一般的に、名の通ったメーカーのテレビを買うのであれば、32V型以下ではフルHDは不要、37v型以上ではフルHDがお薦めといわれていて、私自身も実感として、この判断基準はあっているように思う。テレビの価格は安くなってきたという人は多いが、それは32V型以下ののただのハイビジョン対応液晶テレビの話で、40V型以上、フルHDとなれば、安くても10万円台後半だ。家電製品という視点から見れば、やはりテレビが高額商品であることには変わりない。テレビを買うときには、しっかりと選んで、後悔のないようにしたいものだ。
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