地デジテレビのリモコンはなぜ使いづらいのかという話をしていて、4色ボタンの問題を取り上げた。そもそも、色で区別させるということが、プロダクトデザインとしては失格で、それを「運用規定」という形で使わざるを得ないメーカーもたいへんだと思う。せめて、カバーをかけて、使わないときは隠してしまえるようにした方がいいと思う。

ただ、それでもメーカーはいろいろな工夫をしている。今回はその工夫をいくつかご紹介していこう。

まず、4色ボタン問題に対して、いちばんがんばっているのはパナソニックのビエラだろう。4色ボタンには「青、赤、緑、黄」の色を使用するという規定のみで、色味については決まりがない。そこで、できるだけ、色覚に問題を抱える人にも区別しやすい色味を使用している。これを色が区別しづらい人にどう見えているかをシミュレーションしてみると、確かになんとか区別はできる。色味はほとんど同じに見えるが、明るさや濁り具合がずいぶん違うので、一般的な4色ボタンよりは区別しやすいだろう。

しかし、やはり限界があるといえば限界がある。色で4種類を区別させようという発想そのものに無理があるのだ。パナソニックはこの制約の中で、ものすごくいい仕事をしていると思う。ご存知ない方のために、説明をしておくと、リモコンのボタンの色味などにこれだけの手間とコストをかけるのは簡単なことではない。出来合いの塗料を使って製造すればボタンひとつなど僅かな金額だが、特殊な塗料を調合するのは手間がかかることだし、色が退色しないかどうか、塗料がはげないかなどの試験も行わなければならない。しかも、どこの工場でも作ってくれるわけでなく、製造先も限定されてしまう。この工夫は、もっと評価されてもいいことだと思う。

パナソニックは、全社的に、「だれにでも使いやすい製品づくり」を目指していて、数字ボタンも大きく、数字も大きくプリントされている。使いやすいリモコンをお探しの方にはおすすめできるメーカーだ。特に、年齢を重ねて視力が衰えている方にお薦めできる。

東芝レグザに付属のリモコン。実際使ってみるつもりになって、押すべきボタンをシミュレーションしてみると、使う順にボタンが配置されていることがわかるだろう。問題の4色ボタンを目立たない下部に移動させたのも、いい決断だと思う

しかし、私個人の意見だが、テレビリモコンでもっとも優れたデザインをしているのは東芝レグザではないかと思う。素晴らしいのは、コンテキスト(文脈)にそったデザインがされていることだ。

現在のテレビリモコンは長細い形状になっていて、握ったまますべてのボタンを押すことはできない。上の方のボタンを押すときと、下の方のボタンを押すときは、握り直す必要がある。これをうまく利用して、使う文脈にそってボタンを配置しているため、迷うことが少ないのだ。

テレビリモコンを使うときの文脈とは主に3つある。

(1)「電源を入れ、チャンネルを選び、音量を調節する」
(2)「データ放送を操作する」
(3)「レコーダーなどの高度な機能を使う」だ。

レグザリモコンでは、(1)の場合、電源ボタン、ソース選択ボタン(地デジ、BSなど)、数字キー、音量ボタンと使う順番に上から並んでいる。これが素晴らしい。また、(2)で使うのはカーソルキーと4色ボタンだ。これは中央下部に並んでいる。このときは、数字ボタンなどは基本的に必要ないので、リモコンを握り直せば、カーソルキーと4色ボタンの両方に指1本でアクセスできる。また、4色ボタンを目立ちづらい下部に配置したことで、リモコン全体の高級感、デザインの統一感を損なうことも最小限にとどめている。(3)で使うキーは、リモコン下部とカバー内に配置されている。

このように、リモコンを使う3つのシチュエーションごとにボタンの位置を分けて配置し、しかも上から下へと使う順番にボタンが並んでいることで、分かりやすく、覚えやすいデザインになっているのだ。しばらくレグザリモコンを使ってから、他のメーカーのリモコンを使うと、こんなにもわかりづらいのかと驚くことすらある。

もし、テレビリモコンが使いづらい、家にお年寄りがいてリモコン操作に困っているということがあるなら、市販のテレビリモコンをひとつ買っておくことをお勧めする。最低限必要なのは、「電源ボタン」「ソース選択」「数字ボタン」「音量調節」「選局」の5つで、あとは「消音ボタン」があればじゅうぶんだろう。4色ボタンもついていない、この5つだけのリモコンは、家電量販店やホームセンターなどで販売されている。価格も1000円から2000円前後なので、テレビ付属のリモコンに疑問を感じている人はひとつ買っておくといいだろう。

テレビを購入するときは、どうしても画質や機能、デザインといった、テレビ本体の方ばかりに注目がいってしまう。しかし、今やテレビ本体に触れて操作をするなどということはほとんどなくなっている。日常的に触れるのはリモコンなのだ。テレビを購入するときには、リモコンの操作のしやすさというのはテレビの使いやすさを決める大きな要素になる。購入するときは、テレビ本体ばかりでなく、リモコンの方もじっくりと選んでいただきたい。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

パナソニック、ビエラに付属のリモコン。一見、普通のリモコンにしか見えないが、4色ボタンには隠れた工夫がある。この写真は、パナソニックのサイトから引用したもので、どうしても正確な色味はでていない可能性がある。ぜひ、店頭でご自分の目で見ていただきたい。

前回と同じように、色覚シミュレーションをやってみた。これは赤と緑の区別がつきづらい人の見え方シミュレーション。赤と緑は、色味あるいは濁り方が違っているので区別がつく。赤と黄色は同じ色合いに見えるが、明るさが違うので区別がつく

こちらは青と黄色の区別がつきづらい人の見え方シミュレーション。青と緑の区別がつきづらいが、一般の青と緑よりは違いがわかる。4色ボタンという制約の中で、これだけの配慮をしていることは、もっと評価していいことだ