前回は、2011年7月24日のアナログ停波以降も、アナログテレビを使い続けるためには、簡易チューナーがお薦めだという話をした。なお、前回に詳しく書いたが、厳密には「地上波デジタル放送が受信でき、アナログ出力できる実売5000円前後のチューナー」は、「簡易なチューナー」「低価格チューナー」「エントリーモデルのチューナー」と呼ぶべきだが、この記事では「簡易チューナー」と呼ばせていただく。一般の店舗では、店員に「簡易チューナー」と尋ねても、このカテゴリーの商品を紹介してくれる。
この簡易チューナーを取付け、アンテナが地上デジタルに対応しているのであれば、アナログテレビ、ブラウン管テレビでも、テレビ放送を見続けることができる。しかし、ただ地上波デジタル放送が見られればそれでいいというわけでもないだろう。たとえば、BS放送もみたいとか、VHSテープのビデオデッキやアナログ波用のDVDレコーダーはどうするのかと、さまざまな問題があるはずだ。今回は、このような場合、簡易チューナーで対応できるのかどうかをご紹介したい。
まず、BS放送やCS放送はどうなってしまうのかだ。意外に知られていないことだが、現在のBSアナログ放送も2011年7月24日に停波する。BS放送はすでにデジタル放送が始まっているので、そちらに切り替える必要がある。BS放送のパラボラアンテナは、アナログであってもデジタルであっても変える必要はないが、テレビ側にはデジタルBSチューナーが必要で、現在発売されているデジタルテレビのほとんどはBSデジタルチューナーを内蔵している。
アナログテレビには、BSアナログチューナーを内蔵しているものも多いが、もちろんBSデジタルチューナーは内蔵していないので、停波以降はBS放送を見ることができなくなってしまう。そこに簡易チューナーを接続しても、簡易チューナーは地上波デジタルしか受信できないので、BS放送は見られないわけだ。
停波以降もBS放送を見たいという人は、BSデジタル放送も受信できるチューナーを購入する必要がある。簡易チューナーの中には、BSデジタルが受信できるものはないが、同じ系列の製品でBSデジタルに対応したチューナーはいくらでもある。たとえば、前回紹介したPORDIAシリーズには地上波デジタルとBSデジタルの両方が受信できるチューナーがある。ただし、当然価格は5000円では納まらず、8000円前後となる。BSデジタル放送も、今のアナログテレビで見たいという人は、こちらを選ぶべきだろう。
ところで、いちばん困ってしまうのは、今までアナログテレビ+アナログレコーダーという組み合わせで、テレビを楽しんでこられた方だ。レコーダーに簡易チューナーを接続して、レコーダーからの映像をテレビに出力してみればいいような気もするが、これだとうまくいかない。というのは、簡易チューナーからの映像は外部入力としてレコーダーに接続することになり、予約録画ができなくなってしまうのだ。レコーダーで録画予約をするときは、時間とチャンネルを指定する。しかし、この時間とチャンネルは、レコーダー内のチューナーを切り替えてくれるだけで、簡易チューナーの時間とチャンネルを切り替えてくれるわけではない。
つまり、どうしても簡易チューナーとレコーダーの組み合わせで、録画予約をしたいというのであれば、こうするしかない。まずレコーダーで録画時間を設定し、チャンネルは外部入力に合せておく。そして、簡易チューナーの方は、録画したいチャンネルにあわせておき、電源を入れっぱなしにしておく。もちろん、録画が終了するまで、チャンネルを変えても電源をオフにしてもいけない。こうすれば、留守録はできるが、不便極まりないだろう。それに、いくら簡易チューナーが省電力だとはいえ(だいたい3Wから4W程度のものが主流)、無駄な電力を消費するのも納得がいかない。
そこで、お薦めしたいのが、録画予約に対応した簡易チューナーだ。ユニデンから発売されているDTH11がそれだ。この簡易チューナーには視聴予約という機能がある。番組表(7日先まで)から番組を選んで、視聴予約をしておくと、その時間になると、自動的に簡易チューナーの電源が入り、番組を受信し、終了時間になると自動的に電源がオフになる。視聴予約は30件までできるので、じゅうぶん留守録に使えるだろう。
この簡易チューナーをレコーダーに接続し、レコーダー側はチャンネルを外部入力にあわせておく。多くのレコーダーには「外部入力シンクロ録画」という機能がある。これは、外部入力に信号が入ってきているとき(つまり、この場合では視聴予約した番組が流れているとき)にだけ録画をしてくれるというもので、普段は待機状態にしておける。これであれば、簡易チューナーで視聴予約をするだけで、録画予約が今まで通りできることになる。おもちのレコーダーに「シンクロ録画」の機能がない場合は、面倒だが、簡易チューナーの録画予約をしたうえで、さらにレコーダーにも録画予約をしなければならない。
つまり、レコーダーにシンクロ録画機能があって、DTH11を接続すれば、今まで通りの感覚で録画予約を楽しめることになる。ただし、ひとつだけ問題が発生する。それは、録画せずに普通に番組を見たいときも、簡易チューナーを起動しただけでレコーダーが起動してしまい録画されてしまうことだ。また、予約録画中は、他の番組を見ることができなくなってしまう。
これが煩わしいという人は、レコーダーには簡易チューナーDTH11を接続し、テレビには別の簡易チューナーをもうひとつつけるしかない。こうすると、完全に従来のアナログ視聴環境とほぼ変わらない感覚で、地デジ放送を楽しめるようになる。ただし、テレビ側には、レコーダーからと簡易チューナーからの2系統の外部入力を接続することになるので、2系統以上の入力端子があるかどうかを確かめておきたい。小型テレビなどの場合は、入力端子が1系統という場合もけっこうあるのだ。
また、盲点になりがちなのだが、2台の簡易チューナーは、同じ製品を2台買わずに、別の製品を1台ずつ買うことだ。レコーダーにはDTH11を接続するが、テレビには別の簡易チューナーを接続しなければならない。もし、同じ簡易チューナーを2台使ってしまうと、1台のリモコンを操作すると、2台が同時に反応してしまうからだ。レコーダー側には予約視聴機能があるDTH11を接続し、テレビ側には別の簡易チューナーを接続することが必要だ。
もうひとつ紹介したい簡易チューナがある。それはKEIANから発売されているK-DIGIBOX-Vだ。この簡易チューナーには、テレビ用のコンポジット出力とは別にパソコンモニター用のVGA出力が用意されている。つまり、あなたの使っているパソコンモニターにVGAモニターがあるのであれば、パソコンモニターで地デジ放送を楽しむことができる(もちろん画質は標準画質でハイビジョンにはならない)。家庭によると思うが、パソコンが好きな人の間では、使っていないパソコンモニターがけっこう余っていたりする。特に小型モニターを大型に買い替えた場合など、捨てるのも面倒だし、オークションに出してもパッとした価格がつかないということで、そのまま持て余している人も多い。もし、身近にそういうモニターが残っていたりするのであれば、このK-DIGIBOX-Vとモニターを接続することで、簡易地デジテレビができあがってしまう。もし、パソコン用の液晶モニターが手に入るのであれば、サブテレビとしてじゅうぶん使えると思う。
なお、今回紹介したのは、あくまでも「価格5000円前後の簡易なチューナー」であり、もうすこし予算をあげ、8000円前後あるいは1万円前後のものを探せば、予約視聴機能や地上波、BSデジタル、CSデジタルの3波対応のものも見つかるし、2万円程度まであげれば、デジタル出力HDMI端子が付属しているもの、市販のハードディスクに録画する機能があるものなど、さまざまなものがある。その辺は、ニーズと財布との相談ということになる。
よく「簡易チューナー」=低価格=低機能、低品質という連想をしてしまう人がいるが、こう見てくると、各メーカーとも販売価格5000円という厳しいコストの中で、さまざまな工夫をしていることがわかるはずだ。「古いテレビはきちんとリサイクルされる仕組みが整っています」とお役所はいうが、リサイクルするのにもエネルギーを消費し、廃棄物も微量とはいえ生みだしてしまうのだ。使えるものは、できるだけ使った方がいいに決まっている。日本人は、使えるものはその寿命がくるまで使い切るという美徳を昔から受け継いできた。「地デジ時代だから、古いテレビはポイッ」という感覚に、どうもなじめない人は、電器店でぜひ簡易チューナーを手にしてみていただきたい。安かろう、悪かろうではないことが実感できるはずだ。