来年の7月にアナログ地上放送が停波する。そこで生まれる電波の空き=ホワイトスペース。この活用法について、総務省の「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」が報告書を8月に発表した。詳しくは、前回、前々回をお読みいただきたいが、「テレビをつぶして、テレビを始める」というおかしなことになっていることを紹介した。放送範囲が限定されたエリアワンセグ放送を始めようというのだ。

ところで、テレビがデジタル化して、アナログ地上放送の電波に空きができるのは、日本だけでなく、世界共通のことだ。外国ではどう活用しようとしているのだろうか。

この手のことで、お手本とすべきなのは、やはり米国だろう。米国では、だれでも想像がつくように、テレビの空き電波帯に対して、グーグル、マイクロソフト、モトローラ、デルなどのIT系企業が協力をして、モバイルブロードバンド通信用に開放するように迫っていた。一方で、テレビ業界は「混信が起きて、放送ができなくなる」として反対を表明していた。その裁定をするのがFCC=連邦通信委員会である。FCCは技術的な検証を行い、一定の技術的な保護手段を使うこと、利用はテレビ放送に優先権があることを前提にして、ホワイトスペースをモバイルブロードバンド通信に開放することを決定した。

そして、すでに小規模な試験利用が始まっている。ひとつは、バージニア州のクラウドビルという人口約900人の村に、ブロードバンドを提供する試みだ。学校、カフェなどにWi-Fi機器を設置し、インターネット回線とこのWi-Fiネットワークの間を無線で結んだ。このクラウドビルは、山間の村なので、光ファイバーや専用線を引くには膨大なコストがかかるからだ。これで1Mbps程度の速度でインターネットが使えるようになったという。ハイビジョン動画などを見るのは厳しいが、それ以外のインターネットであれば、特に問題を感じない速度だ。

また、人口10万人のノースカロライナ州ウィルミントン市でも実験が行われている。市内に3ヶ所、光ファイバーに接続された無線基地局を設置し、市内に設置したWi-Fiネットワークと無線で結ぶ。この市の中では、簡単なWi-Fi機器を置くだけで、インターネット接続ができるようなった。もちろん、携帯電話からもアクセス可能だ。さらに、市内にある交通監視モニターや水質監視モニターも、この無線でインターネットに接続し、リアルタイムでモニターができる仕組みもできあがっている。将来は、公立学校や、自宅療養中の病人宅に、Wi-Fi機器が設置される予定で、教育や医療の分野で活かしていく方針だ。

カナダでは、米国ほど積極的ではないものの、ホワイトスペースの開放を決めた。ホワイトスペースを通信に利用できるのは、人口密度が半径50kmあたり10万人以下という過疎地で、なおかつ既存ブロードバンドインフラがまだない場所だけに限定された。このような過疎地に、光ファイバーなどのケーブルを引くのはコストがかかるし、人口密度が小さければ電波の利用度も低いので、混信などの技術的な問題が起こりづらいからという理由だ。

この他、ヨーロッパ各国も、一定の割合で、ホワイトスペースを通信に利用する方針で動き始めている。

このような例を見れば、日本がどうすれば最善なのかは明らかだろう。人口密度の小さい地域=山間部、離島などで、光ファイバーネットワークと、地域のWiFiネットワークを結ぶ通信として、ホワイトスペースを利用すべきなのだ。総務省の「光の道構想」=日本全国に光ファイバーを行き渡らせるは、理想としては素晴らしいが、現実には人口密度の小さな場所での敷設コストは、無駄遣いに近いものになってしまう。単純なコスト比較で、無線通信が有利な場所では無線通信を使うべきではないのだろうか。ブロードバンドもまだ来ていない地域で、エリアワンセグ放送をしたところで、見る人は極めて限られてしまう。ブロードバンドを使って、全国に情報を発信した方が、村おこし、町おこしになるのではないか。

この話は、3回にわたってしまったので、第1回のことをもう忘れてしまった読者もいるかもしれないので、もう一度繰り返しておこう。

そもそも、すでにほぼ全国に行き渡ったアナログ地上波放送を停波して、地デジ放送に切り替える理由とは「日本の現状はもうこれ以上すき間のないほどに過密に使われており、アナログ放送のままではチャンネルが足りませんが、デジタル化すれば、チャンネルに余裕ができます」(デジタル放送推進協会のサイトより引用)というものだった。つまり、電波が足らないから、アナログ放送をやめて、地デジにしなければという理由だったのだ。しかし、ようやく電波に余裕ができたと思ったら、「テレビをやめてテレビを始めます」というおかしなことになっている。ほんとうに電波は足りなかったのだろうか?

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。