ところで、テレビってどうしてデジタル化するのだったろうか? 今では多くの人が、元々の理由を忘れてしまっているようだ。こういうときは、デジタル放送推進協会のサイトを見てみよう。地デジに関するQ&Aが掲載されていて、そこには「なぜ地上放送のデジタル化を進めるのですか?」という質問が先頭に挙げられていて、回答はこうなっている。

テレビ放送のデジタル化の大きな目的のひとつに、電波の有効利用があります。(中略)日本の現状はもうこれ以上すき間のないほどに過密に使われており、アナログ放送のままではチャンネルが足りませんが、デジタル化すれば、チャンネルに余裕ができます。(後略)

つまり、もう電波が足らなくなっているので、テレビ放送用に確保している電波を整理して、空きを作り、それをいろいろ世の中のためになることに活用しようというのが、地デジ化する最大の理由だったのだ。

では、地デジ化することによって、空いた電波はどう活用していくのだろうか? このような空き電波のことをホワイトスペースという。地デジ化することにより、効率よく使う電波帯を決めていくことで、このホワイトスペースが大量に生まれるのだ。たとえば、地デジ放送はUHFと呼ばれる電波帯(13チャンネルから52チャンネルまである)を使って行われるが、東京地区では20チャンネルから28チャンネルまでしか使っていない。13から19までの7チャンネル、29から52までの24チャンネルは使っていないのだ。半分以上をムダにしてしまっている。これがホワイトスペースだ。

ただし、ムダといっても、ただムダにしているわけではない。使えない理由があるのだ。たとえば19チャンネルは小田原地区が、29チャンネルは八王子地区が地デジ放送に使っている。もし、19チャンネルや29チャンネルを東京が使ってしまうと、境界近辺では混信が起こってしまうのだ。このため、隣り合う地区同士でうまいことチャンネルが重ならないようにしなければならない。これがホワイトスペースが生まれてしまう原因だ。

このようなホワイトスペースは地域ごとにかなりの量になるらしく、総務省の「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」がまとめた報告書には、「(ホワイトスペースを活用すると)2020年までに電波利用の質・量が爆発的に拡大し、トラヒックは200倍以上に」と書かれている。つまり、現状では、電波資源の1/200しか利用していないのだ。DPAのQ&Aの「これ以上隙間のないほど過密に使われており」という文言と矛盾するような気がしてならないのだが、そのツッコミはここでは置いておこう。

では、このホワイトスペースを活用するにはどうしたらいいか。答えは簡単だ。広域ではなく、狭い地域に限定された電波の使い方をすればいいのだ。たとえば、東京の中心である千代田区で29チャンネルの電波帯を利用しても、小さな出力であれば、それが八王子まで届くことはない(八王子に隣接した地区で使えば問題が起こるかもしれないが、そういう場所では別のチャンネルを使えば問題ない)。

では、このようなホワイトスペースをどう活用していくのだろうか。昨年ぐらいから、ときどきメディアに出始めたのが、C2Cネットワークだ。C2CとはCar to Carのこと。車の通信ネットワークのことだ。渋滞情報や事故情報、危険情報などを、走っている自動車に配信し、安全運転に役立ててもらおうというものだ。

この分野では、さまざまなアイディアが提案されている。私が好きなのは、適切な走行速度をガイドしてくれるというもの。急いでいるときは、だれでもスピードを出しがちなものだが、スピードを出したからといって、速くつけるというわけではない。いくらスピードを出しても、結局赤信号に捕まってしまうのだし、あまりに速すぎれば、前方の渋滞に紛れこんでしまい、別ルートを取ることもできなくなってしまう。

そこで、赤信号に捕まらずに進める速度を適宜教えてくれ、それに合せて運転すれば、スムーズに目的地に到着できるというものだ。みながそれに従って進むと、だれかがブレーキを踏むことによって、そこに車の流れの障害となり、渋滞が生まれるというプロセスが起きなくなるので、かなりの割合で渋滞が解消され、全員が得をできるというハッピーなことになる。

この他、災害時には、携帯電話に避難場所に誘導する表示がされたり、リアルタイムで道路状況を把握して、救急車や消防車などが最速で到着できるルートを示してくれたりと、さまざまなことに活用できるだろう。

具体的には、どのような活用法が提案されているのだろうか。総務省では、昨年12月から「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」を開催し、今年8月に、その議論をまとめた報告書を公表した。この検討チームの会議の中では、3回にわたって公開ヒアリングが行われた。これはさまざまな自治体、民間企業から「ホワイトスペースをこう活用したい」という提案を募り、その中で有望なものを選んで、検討チームと提案者で実現性を意見交換するというものだ。

その中から、実現性が高いものをさらに選んで、「ホワイトスペース特区」の先行モデルとして、早い段階に実施するということになった。

ところが、問題なのは、その活用方法だ。私は、技術も専門家レベルの知識は持ち合せていないし、政策に関してはずぶの素人だ。だから、このような見識の高い方々が作られた「活用ビジョン」を批判する資格はないかもしれない。しかし、その素人から見ても、「なんだ? これは?」と思うものが並んでいるのだ。

紙面がつきてしまったので、この紹介は次回としたいが、ぜひみなさんも報告書に目を通していただきたい。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

本文で触れた検討チームの報告書より転載。一部改変してある。注目してほしいのは、メディアで、ほとんどすべてが「ワンセグ携帯」「サイネージ」なのだ。サイネージとは、液晶モニタを置いて、そこに映像を映しだすというもので、電子ポスターのようなもの。ここでは、たぶんワンセグ放送をそのまま屋外テレビなどに映しだすことを想定しているのだろう