ミニタイプの小型USBテレビチューナーの売れ行きが好調だ。従来はワンセグしか視聴できなかったが、昨年11月にアイ・オー・データとバッファローから発売されたチューナーは、フルセグ、ワンセグの両方が視聴できる。ノートPCと組み合わせると、自宅ではフルセグを録画し、モバイル時には録画した番組やワンセグを見るという使い分けができる。
小さなテレビチューナーが今まで作れなかったのは、技術的な問題ではなかった。地デジ視聴に必要なB-CASカードが大きかったのだ。従来のB-CASカードはクレジットカード程度の大きさがあった。それが昨年の11月から、mini B-CASカードの出荷が始まった。このminiカードは、携帯電話のSIMカードとほぼ同じサイズで、これを使ってチューナーが大幅に小型化できたのだ。今後、ハンディテレビやカーナビなどでも利用が考えられ、地デジの小型化が期待されている。
ところで、このB-CASカードはなにをするものなのだろうか。地デジ放送は、著作権を保護するために、スクランブルがかけて放送されている。このスクランブルを解除する暗号鍵がB-CASカードに収められている。B-CASカードがなくても、地デジ放送は技術的には受信できるが、スクランブルが解除できないと、番組を見ることができないというわけだ。 しかし、このB-CASカードは以前から批判の対象となっており、昨年では国会でも取りあげられるなどして、B-CASカードの見直しが検討されている。問題は、B-CASカードを管理するビーエス・コンディショナナルアクセスシステムズ社(B-CAS社)(http://www.b-cas.co.jp)の財務内容が不透明だったり、民間業者がB-CASカードを独占しているのは独占禁止法にあたるのではないかといった批判もあるが、根本は「B-CASカードって本当に必要なの?」ということがある。
これは、仮にB-CASカードという存在がなく、だれでも地デジ放送をテレビさえあれば見れるという状況だとしたら、どんな問題が起きるのかと考えてみるとわかる。この状況とは、アナログ放送と同じ状況だ。アナログ放送で問題になったのは、録画した番組を動画共有サイトに勝手にアップロードされて、著作者の権利が侵害されたことだった。しかし、これはB-CASカードがなくても解決されている。地デジでは、DVDやHDDに録画するときは、CPRMなど暗号化される仕組みになっているからだ。
もうひとつ考えられるのは、衛星放送などが国外でも視聴されてしまうケース。著作権の使用権は国単位で契約するので、国外にも放送が漏れてしまうと、著作権者ともめるもとになる。でも、地デジの場合はどんなにがんばっても国外に届くわけがない。これも問題なし。つまりは、B-CASカードがあってなんの利点があるのだろうか?
もともとB-CASカードは、BSデジタル放送にともなって出てきた規格だ。BSデジタル放送は2000年12月1日から放送が開始されたが、本来は有料放送をする予定だったのだ。しかし、盛り上がりにかけ、放送開始当初はテレビを買い替えないと視聴ができないなどの理由から、無料放送へと方針が変更された。つまり、B-CASカードは本来有料放送のための規格なのだ。それなら理解できる。カードを持っていない=受信料を支払っていない人には見られては困るからだ。無料放送はタダで見られて困ることはない。それを録画されて、放送局が意図しないところに勝手に配信されるのが困るだけで、テレビで放送を見てもらうのであれば、むしろB-CASカードなどなく、携帯電話でもカーナビでも見てもらいたいというのが本音のはずだ。しかも、B-CASカード規格は、インターネットから暗号鍵を取得するなど、抜け道はいくつもできてきた(ただし、そのような行為は著作権法に抵触する)。そこで、総務省などで、アナログ停波までに、B-CAS以外のもっと効果的な方法を検討するということになってきたのだ。
ただし、現実的にB-CAS以外の方法が可能かどうかはきわめて不透明だ。B-CASが著作権保護に役立っていないといっても、著作権者から見れば保護は手厚い方が好ましい。B-CASを廃止するといったら反対する著作権者がでてくるだろう。では、B-CAS以外の技術的保護手段をとなったら、またテレビを買い替えるのか? 変なボックスをつけなければならないのか?と消費者の反発を招く。B-CASの機能をソフトウェア化しようという考えもあり、新製品から順次切り替えていくというという考え方も出されているが、これといった決め手がなかなかでてこないのが現状だ。
1月21日の日本民間放送連盟の広瀬道貞会長は定例会見で、放送局が負担するB-CASカード代が経営の大きな負担になっていることを明らかにした。放送局は青カード(地デジのみ)1枚72円、赤カード(地デジ+BS+CS)1枚265円を負担しており、発行枚数が増えれば増えるほど放送局は経営が苦しくなる。もちろん、B-CASカードはテレビメーカーに納入されて、消費者にテレビといっしょに販売(厳密には貸与)される形になっており、金額は明らかにされていないが、B-CAS社の利益と発行枚数から割り出すと1枚600円ぐらいになるのではないかといわれている。
このような議論を受けて、妙にB-CAS社ががんばりはじめてしまった。mini B-CASカードも約半年で開発してしまったのだ。今のうちに、便利なB-CASカードを大量に市場に投入して、地位を確立してしまおうという戦略なのだろう。B-CASカードをB-CAS社に独占させずに、数社に扱わせ競争原理を導入するという考え方もだされているが、そのときでもシェアを握っているB-CAS社は有利だ。B-CAS社ががんばればがんばるほど、便利な地デジ関連機器が出てきて、私たちにとってはうれしいともいえるのだが、なんだかすっきりしない。次に注目されているのはフルセグ携帯だ。いつ頃発売されるのかはまだまだわからないが、シャープなどがすでに開発中であることを考えると、早ければ年内にも登場するかもしれない。フルセグ携帯が、ソフトウェアB-CASになるのか、それともmini B-CASカードを使うのかは、B-CAS社にとって大きな分岐点になるだろう。
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