ソニー・コンピュータエンタテイメントが1月14日に新製品「トルネ」を発表した。PlayStation 3用の地デジチューナーだが、9980円という低価格。さらには、250GB HDD内蔵のPS3とのセットも4万2800円で発売する。いずれも発売は3月。地デジ環境に大きな地殻変動を起こしそうだ。

すでにトルネの公式サイトがオープンしている。まだ情報量は多くないが、接続方法やQ&Aも掲載されており、トルネがどんな感じの製品かよくわかる

PS3とトルネを組み合わせると、地デジレコーダーができあがるのだ。しかも、HDDはUSB接続で同時に4台まで接続できる。「ゲームも遊べるレコーダー」と考えると、4万2800円というのは極めて安い。内蔵HDDが250GBというのが地デジ録画にはやや容量不足に感じるが、1TBの外付けHDDは1万円を切っている例もある。つまり5万円程度で、強力なレコーダーが購入できることになる。

一般的なレコーダーと直接比較するのは難しいが、容量1TBのBDレコーダーは、店頭価格で10万円を切り始めたという段階にある。それを考えると、一気に半額近くまで下がったことになる。これは大きなことで、レコーダーとBDが普及する鍵になるだろう。PS3+トルネの価格がBD+HDDレコーダーの一種の「相場」となり、他社レコーダー、そしてソニーのレコーダーでさえ、価格改定を迫られるか、価格を下げないのであればその分消費者が納得する機能を備えるかしなくてならなくなるかもしれない。ちょうど2000年にPlayStation 2が発売されたのと同じ現象が起きることが予想される。2000年のPS2の発売時期の頃は、すでにDVDのレンタルなども始まっていたが、DVDプレイヤーの価格が7、8万円もしていた。現在はホームセンターで1980円のDVDプレイヤーが販売されていることを考えると隔世の感がある。ところが、DVD再生機能をもったPS2が3万9800円で発売されたことから、一気にDVDプレイヤーの低価格化が進んだ。2000年後半になると、既存のDVDプレイヤーではPS2に勝てないと考えたメーカーが、HDDを搭載したDVDレコーダーの販売に力を入れ始める。PS2の登場が、低価格化と新たな進化をもたらしたのだ。トルネの登場は、同じインパクトを市場にもたらしてくれることになるだろう。

ただし、トルネが地デジレコーダーとして万人にお薦めできるかというと微妙なところもある。ひとつはチューナー外付けで、現実には外付けHDDも使いたくなる点だ。PS3を中心にボックスが2つケーブルで接続されることになり、テレビラックの中はだいぶごちゃごちゃすることになる。なにか神経質なことをいっているように思うかもしれないが、地デジ時代のテレビラックは奥行きが少ない。ケーブル接続された3つのボックスをきれいに格納するには工夫がいる。

しかし、欠点といえばこれくらいだ。一方の利点は非常に多い。なによりも素晴らしいのが操作が実に軽いということだ。番組表などはほとんど一瞬で表示され、サクサクと移動できる。一般のレコーダーやテレビは、そう高価なCPUを使うわけにはいかないので、電子番組表の操作などはややもたつくきらいがあるが、トルネはハイパフォーマンスなCell CPUを搭載しているPS3が番組表を表示するので、気持ちよく番組表を移動できる。また、ソニー独特の操作感は好みが分かれるところだが、好きな人にとってはこれほど使いやすいレコーダーは他にないだろう。

さらに、録画した番組をPSP用に書きだしてメモリースティックに保存できることや、LAN経由でPSPから直接録画した番組を再生することもできる。ただし、著作権保護の関係からインターネット経由での再生はできないようになっている。ここはソニーの問題ではないのでどうしようもないことだが、実に残念だ。もし、旅行先のPSPやPCから自宅のPS3内に録画した番組が見られるのであれば、トルネ以外のレコーダーを選ぶ理由はなくなってしまうだろう。今のところ、なにもアナウンスはないが、当然ながらウォークマンやVAIOとの連携は今後考えられていくだろう。

結論からいえば、単身者でゲームも楽しむ人は、トルネを選ぶのが正解だと思う。テレビがまだアナログであっても、地デジの美しさは楽しめないものの、地デジチューナー+BDプレイヤー+HDDレコーダー+ゲーム機として先にPS3+トルネを購入しておく手もある。リビングのテレビにつなぎたい、あまりゲームはやらないという人には多少の煩わしさがあるかもしれない。しかし、一般的なレコーダーを購入するにしても、一度トルネの実力は見ておくべきだ。販売店のレコーダーコーナーの相談員に「さっきトルネを見てきたんだけど…」と切り出せば、販売員はあなたに、コストパフォーマンスの極めて高い機種を勧めざるを得なくなる。トルネが価格面でも機能面でも、レコーダーの標準指標的な存在になっていくだろう。

レコーダーの世界では、低価格が進むとともに、「外付けHDDが接続できる」という機能も一般化してくるだろう。家電製品がHDDを内蔵するためには、耐熱試験など数々の試験を経なければならず、レコーダーのコストを押し上げている要因になっている。外付けHDDが使える機能を搭載すれば、内蔵HDDの容量を少なくして販売価格を下げることもできる。

トルネ+PS3を万人に勧めるつもりはないが、トルネの登場により今年の春商戦あたりになれば、レコーダー売場は様子が一変しているに違いない。

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