米国の実践的なデジサポ作戦

総務省情報通信審議会の地上デジタル放送推進に関する検討委員会第49回に提出された「米国アナログ放送終了調査報告」から、前回は米国の若者の間にテレビ離れが起きていることを紹介した。

ところでこの調査の目的は、米国のアナログ停波の数々の施策を視察し、優れた点、足りなかった点を分析し、今後の日本の施策に活かす参考にするというものだ。日本では、ずいぶんと前から大きな予算をつけてアナログ停波の告知を行っており、あと2年を残す現時点で、すでにアナログ停波の認知率はほぼ100%、停波時期についても89.6%(2009年3月総務省調べ)とまずまずの認知度だ。一方で米国では告知キャンペーンに本腰を入れたのは今年の2月からと、停波のわずか4ヶ月前からであり、停波そのものを知らなかったという人も多かった。それでもなんとか、大量の地デジ難民を出さずにすんだのは、日本では取られていないキャンペーン方法を取ったからだという。

その方法とは、ソフトテストとナイトライトプログラムだ。このふたつは、日本では実施される予定は今のところないが、調査団が非常に高く評価していることから、今後日本でも取り入れられる可能性がある。

ソフトテストというのは、アナログ放送中に1分から5分ほど、放送を強制的に中断してしまう方法だ。放送局にとっては停波のリハーサル(機器、サポートセンターなどのリハーサルが可能になる)となり、視聴者は停波を現実のものと受け止めるので、地デジ対応が促されるという両方の効能がある。

実はこのソフトテストに近いものは、日本でも今年の7月24日に石川県珠洲市と能登町内浦地区合計7500世帯で行われた終了リハーサル。午前10時から11時までの1時間、アナログ放送を停波してしまうというもので、コールセンターへの問い合わせは12件と、周知活動が徹底していたため、ほぼ平穏にリハーサルを終了した。しかし、事後のアンケート調査では、有効回答世帯数667世帯で、「不在のため体験せず」237世帯、「TVを見ていなかったので知らない」119世帯と、リハーサルと無関係だった人が半数以上に及んだ。ただし、停波に不満をもったと考えられる「見たい番組あり不満」12世帯、「びっくりした」2世帯という回答もごくわずかに留まった。

米国調査団は、米国でのソフトテストが夕刻以降の視聴率の高い時間帯に行われたことが効果的だったと評価している。日本でも、2009年3月の総務省による調査で普及率は60.7%で目標の62%には届かず、特に沖縄県は37.1%と地デジの普及がほとんど進んでいない状態にあるので、このようなソフトテストが導入される可能性は高い。

もうひとつの施策がナイトライトプログラムだ。アナログ停波後、全員が地デジをすぐに見られるわけではない。しかし、大きな災害が起きたときの緊急放送が全員に届かないのは社会的に問題がある。そこで、各地で1チャンネルのみアナログ放送を停波後も1ヶ月間継続し、緊急放送に備えたのだ。平時は問い合わせ先やチューナーの接続方法などの告知番組を放送した。

停波直後、アナログ放送しか見れない人は、チャンネルを変えるうちにこのナイトライトプログラムにたどり着く。そこで、チューナーの接続方法が表示されれば、コールセンターに電話せずに自力でデジタル放送を見らえるようになるわけだ。このプログラムがなければ、どのチャンネルを回しても砂嵐ばかりで、問い合わせをしようにもコールセンターの番号すらわからないという状態にならざるをえないので、放送局やテレビのメーカー、公的機関などに電話してしまう人や、どうしていいかわからず不満を訴える人が現れて、停波後に混乱が起きたかもしれない。調査団はこのナイトライトプログラムも高く評価している。

米国は停波に向けて、チューナーのクーポン制度を柱にして、告知も直前になって行うというシンプルであまりお金がかからない方法を取っている。しかし、見事なのはソフトテストでアナログ停波が本当であることを視聴者に実感させ、停波後にはナイトライトプログラムで、視聴者の問い合わせ先をコールセンターにのみ誘導している手際のよさだ。一方で、日本はとにかくありとあらゆる告知作戦をとり、デジサポでは全世帯に案内を郵送、地域では説明会を開催と、かなりの予算も使っている。確かにアナログ停波の認知率は97.7%とほぼ全員知っているのだが、ではいつ地デジ対応するのかという問いには39%の人が「アナログ停波のとき」と答えており、「わからない」12%、「地デジを見たいとは思わない」という人も4%いる。今年の概算要求では「デジサポによる受信相談」110.6億円、「コールセンター運営」18.4億円、「高齢者・障害者への働きかけ、サポート」107.1億円と総額で約900億円の予算を要求している。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

終了リハーサルは午前10時から11時までという時間帯だったため、半数以上の人が不在かテレビを見ていなかった。コールセンターには、高校野球の中継が見られないという苦情が2件寄せられたそうだ

平成21年度に総務省が要求した地デジサポート関係の予算。来年度はこれ以上の予算が注ぎ込まれることは間違いない。財源は電波利用料からも捻出されるが、現在電波利用料の総額約650億円のうち、8割は携帯電話会社が支払っている

NHK放送文化研究所が2009年1月に行った「日本人とメディア」調査より。かなりの人が「停波間際になって考える」といった態度であることがわかる。積極的に地デジ対応をしようと考えている人はわずか5%しかいない