家電量販店の再編が最終章に入ってきた。おそらくは全国で2つか3つのグループに集約されることになるのだろう。この再編を促したのはもちろん、個人消費が停滞している状況だ。特に2011年の今頃まで花形商品であったテレビが、今年に入って売れなくなっていることが最大の原因だ。

家電量販店はこの危機を乗り切るため、さらなる低価格戦略へ舵を取りつつある。価格を下げるには、規模を大きくして仕入れ台数を増やし、メーカーとの価格交渉力を強くするしかない。合併や資本・業務提携はこれからも続くだろうし、小規模店もグループ化をして仕入れを共通化するという動きもさらに加速していくだろう。

価格競争とは距離を置く"町の電器屋さん"はサービスで勝負

ところで、テレビを買うには3つの方法がある。ひとつは小規模な電器店、いわゆる"町の電器屋さん"で買う方法で、もうひとつが量販店で買う方法。さらにもうひとつが、ネット通販で買う方法だ。このうち、もはや"町の電器屋さん"で買うのは特殊な購入手段になってしまった。

小規模な電器店の価格は量販店価格の2、3割ほど高い。これは決して電器店の主人が暴利をむさぼっているわけではなく、量販店に比べれば仕入れ台数が圧倒的に少ないので、そもそも仕入れ値自体が高いのだ。生き残りを賭けた電器店では、町の家電コンシェルジュとして、購入の相談から設置サービスまで面倒を見るというやり方で、高齢者を中心とした顧客層を獲得している。

しかし、アンテナ線の接続ぐらい自分でできるという一般の人は、やはり価格の安い量販店かネット通販で購入するだろう。

量販店は大量仕入れにより、メーカーと交渉して仕入れ値を安くし、低価格を実現している。ネット通販の場合も、大規模ショッピングサイトであれば量販店と似たような手法を採って低価格を実現している。また、小規模の通販サイトではさまざまな方法で仕入れ値を安くしている。例えば、新製品が出て売りづらくなった旧型商品(いわゆる"型落ち品")の在庫を安く買い付けるとか、流通の関係で在庫を抱えて困っているところから安く買い付けるという手法だ。ネット通販では、以外とこういう商品が利益を生んでいる。

では、量販店はいったいどこで利益を生みだしているのだろうか。テレビを1台売っても、今ではほとんど利益が出ない状態にまで価格を下げているという。量販店の利益の源泉はふたつある。ひとつはポイントカードで、もうひとつがアクセサリー類だ。

量販店は"ポイント"とアクセサリーで稼ぐ

ポイントカードは一種の割引だが、次回以降の購入時にしか使えない。そのため、客をリピーターにする効果もあるし、ポイントを使わずに死蔵してしまう人もけっこういる。その死蔵分はまるまる量販店の利益となるわけだが、これが馬鹿にできない。また、ポイントが実際に使われるのはある程度時間が経ってからで、その間、お金は量販店側にあるわけだから、それを仕入れに使ったり、場合によっては投資に回したりすることもできる。つまり、量販店にとってポイントとは、無利子で借りられている資金のようなものであり、手元資金に余裕を生じさせることができるものなのだ。

量販店のもうひとつの利益の源泉は、アクセサリー類だ。特にケーブル類の貢献度が高く、実際に某家電量販店に行って、一般的なHDMIケーブル(2m)の価格を確認したら、どれも2,980円か3,180円という価格設定になっていた。これを「カカクコム(価格.com)」で最安値を調べてみると、メーカーによって違いはあるものの、おおむね1,900円から2,660円だった(送料込み)。

量販店のケースで、一般的なポイント付与率である10%を控除して実質2,700円程度と考えると、量販店とカカクコムでほぼ価格が変わらないケーブルもあったが、差が大きなものでは1,000円近い開きがあったのだ(4メーカーの価格を調べて、2メーカーのものが1,900円だった)。量販店のケーブル類の仕入れ値がどうなっているのかは不明だが、ネット通販とほぼ同じ仕入れ値だとすれば、ケーブル1本で1,000円の利益を稼げる。これは大きい。

テレビの価格は安くなったとはいえ、リビングに置くテレビであれば5万円以上はするし、レコーダーも合わせて買えば10万円を越えることもザラである。それなりに大きな買い物なのだ。そのとき、ケーブルの同時購入を勧められたとしよう。そこで本来2,000円程度のケーブルの価格が3,000円だったとしても、テレビやレコーダーの支払総額からすれば微々たるものなので、「まあ、いいか」となる。特にテレビを買ってポイント還元された後に、「ケーブルは必要ありませんか。ポイントで購入できますよ」と言われれば、価格をそう厳しく考えずに買ってしまうだろう。量販店から見れば、そういうところで何とか採算ラインに乗せるのだろう。

では、財布に優しい買い方というのは、テレビ本体は量販店で買い、ケーブルはネット通販で買うということになるが、個人的にはそこまでギスギスするのはどうかと思う。それで節約できる1,000円は、約10万円の支払総額では1%なのだ。

アクセサリー類の付加利益は"アドバイス料"込み?

量販店というのは、町の電器屋さんほどではないが、ある程度のコンシェルジュ機能を備えている。私自身も実際に量販店でテレビを買うときに、同時にアンテナ線も買い換えた。すると、「お宅はマンションですか。共同受信ではないですか? そうならば分波器も必要ですよ」と教えられた。マンションなどの共同受信アンテナでは、地上波と衛星放送の放送信号が1本にまとめられて各部屋に分配されている。このような場合、アンテナケーブルに分波器を付けて地上波信号と衛星信号を分け、テレビに接続してやる必要があるのだ。

私はそのことをうっかり忘れていて、アンテナ線を1本買えば十分だと思いこんでいたのだ。量販店員が指摘してくれなければ、二度手間になるところだった。もちろん、このアンテナ線も分波器もネット通販で購入すれば、量販店価格よりもいくぶんか安いのだろう。しかし、そういう指摘をしてくれ、二度手間を防いでくれた代金として考えれば決して高い買い物ではない。

もちろん、専門知識があって、自分で接続や設定は問題なく行えるという人は、何も近所の電器店や量販店にいかず、ネット通販で最安値を狙えばいいと思う。しかし、自分でだいたいはできるが、ときどき失敗もするという普通の人は、量販店で「接続は自分でやるけど、なにが必要ですか?」と尋ねて、アドバイスをもらった方がいいだろう。そのとき、量販店員は、ネット通販よりも多少割高のケーブルや部品の購入を勧めてくるが、それはアドバイス料だと考えればいいのだ。そうすることで、量販店は単なる価格競争ではなく、アドバイザーとしての能力を高めることに努力していくことになるだろう。

「あそこの量販店は価格が少し高めだけど、店員がとても親切だ」という評判で、顧客を獲得し、厳しい競争に勝っていくのもひとつの道だ。消費者は、量販店がその方向に進むように促す買い物の仕方をする必要がある。でなければ、家電製品の販売は価格でしか競争できなくなり、低価格を実現するためには、顧客対応のコストを削らざるを得ず、どこで買っても不親切で不愉快な思いをするということになりかねない。

そうなれば、家電製品の買い物が楽しくなくなり、楽しくないから買い物をしないという悪いサイクルに入っていってしまう。町の電器屋さん、量販店、ネット通販が競争しているのは価格だけではない。コンシェルジュ機能、アドバイザー機能という軸でも競争をしている。この3つをうまく使い分けるのが、賢い消費者であると思う。

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