地デジの普及率は60%を突破するという順調ぶりだが(といってもNHK放送文化研究所が今年の6月に行った調査では、地デジ普及率は50%台という結果だが)、2011年7月にアナログが停波になると、テレビ視聴率が大崩壊するのではないかと囁かれ始めている。テレビ局の広告収入は、方法はさまざまあるが、基本的には視聴率に比例して増減する仕組みなので、業界はお尻に火がついた状態になりつつあるというのだ。
もちろん、地デジになって、急にテレビを見る人が少なくなってしまうということは考えづらいだろう。しかし、どの程度かはわからないが、目減りすることは避けられない。特に20代単身者はテレビを見る時間が減る傾向にある。DVDやネットで、自分の趣味に合った映像を見るようになってきているからだ。DVD中心の人であれば、アナログが停波してもテレビを捨てる必要はない。地上放送が見られないだけで、DVDは見ることができるからだ。アナログ停波になったからといって、地デジテレビを買うのではなく、アナログテレビをそのまま使い続ける可能性もあるし、どうせ買うならと、パソコンを購入してしまうことも考えられる。
といっても、このような動きだけで視聴率が急激に下がることは考えづらい。崩壊の理由は、テレビ視聴率の測定方法にあるのだ。現在、日本でテレビの視聴率を測定しているのはビデオリサーチという調査会社。同社が公開している測定方法によると、テレビ視聴率は1世帯で複数のテレビについて行っているという。
今、ほとんどの家庭にはリビングの他にも、寝室やキッチン、子供部屋、あるいはお風呂など、複数台のテレビがあることも多いはずだ。視聴率の測定は、ランダムで選ばれ、なおかつ調査に協力してくれる家庭のテレビに測定器を取りつけるというものだが、関東、中京、関西では家庭内の8台までのテレビの視聴率が、それ以外の地区では3台までの視聴率が測定される。テレビが受信できるパソコンや録画機は測定の対象外だ。
では、リビングのテレビでA局、寝室のテレビでB局の番組を見ていた場合、視聴率はどう計算されるのだろう。この場合は、A局を見ている世帯が1つ、B局を見ている世帯もひとつとカウントされる。つまり、複数台のテレビで別々の番組を見ている家庭が多い場合、理論的には視聴率の合計が100%を超えてしまうこともありえるわけだ。ここが問題になる。
ビデオリサーチ社による視聴率計算の仕組み。A局の視聴率は5世帯のうち2世帯が見ているので40%という計算になる。複数のテレビで見られている番組もちゃんとカウントされる仕組みになっている。しかし、アナログ停波になるとほとんどの家庭でテレビは1台になるので、このようなサブテレビの視聴率がごっそり消えてしまう |
アナログテレビは、価格も安くなり、形態もさまざまなものが登場して、一世帯で何台も所有している人は多い。リビングでお父さんが野球中継を見ている間に、子供たちは自分の部屋でバラエティ番組を見るなどというのはありふれた光景になった。ところが、さすがに地デジテレビを複数台所有している世帯は少ない。地デジ導入済みの家庭でも、大半が「1台所有」なのだ。リビングでは大画面の地デジテレビを楽しんでいても、子供部屋ではアナログの小型テレビというのが平均的な姿だろう。さらに、このようなサブテレビを積極的に地デジに買い替えようと考えている人は少ないはずだ。小型テレビなので、ブラウン管でもじゃまにはならないし、画質が悪くてもそうは気にならない。ぎりぎりまで使って、壊れるか、アナログ停波直前になって考えようというのが普通だ。あるいは、地デジ対応パソコンに買い替えてしまうこともあるだろうし、子供たちはワンセグ携帯で満足してしまう可能性もある。
つまり、こういうことだ。今はメインのテレビの他にサブテレビでの視聴も視聴率にカウントされている。しかし、アナログ停波になった瞬間に、サブテレビの視聴は視聴率にカウントされなくなってしまう。視聴率が2011年7月24日に大暴落するのではないかと想像されるのだ。もちろん、ビデオリサーチ社もパソコンや録画機も視聴率にカウントできるような技術開発を行っているし、テレビ局もスポンサーに停波後にどのような変化が起きるかを説明し、理解を求めることは懸命にやっているだろう。しかし、視聴率の絶対値が激減することだけは間違いない。視聴率の最高記録は、昭和38年暮れの紅白歌合戦の81.4%だが、この記録は永遠に破られることはないのかもしれない。
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