今回のテーマは「ホームパーティ」だ。まだ何も言ってないが、そうは言っても家を新築した時は両親戚が来たし、夫希望のウッドデッキでBBQもやった。私の友だちも1回だけ集まって焼肉をした。BBQではなく焼肉だ。全員中年女だったため、誰も火を起こす能力がなく、ホットプレートでの焼肉だ。

その後、「花火をしようぜ」という話になったが、この家には火元がどこにもない、ということが判明したため頓挫した。オール電化住宅の意外な罠である。平素から自分の本を「買って燃やしてまた買え」と鳴き声のように言っているにも関わらず、自分の家には火すらないとは何事か、という話である。せめて、自著を燃やす用の火ぐらいは常備しておくべきだろう。

だがその後、「めっきり」と言う言葉の例文にしていいぐらい、めっきり誰も来ない。来客がなさすぎる我が家だ。これは孤独死後、異臭が出るまで発見されないパターンである。

最近しみじみ思う。「友だちがいない」と。しみじみという感情の無駄遣いな気がするが、本当にいない。それでも、上記で集まってくれた地元の友だちとはまだ年に3回ぐらい会うが、社会人になってからの友だちなど皆無と言っていい。

それですごく困ったことはないが、こんなに友だちがいなくて今後大丈夫かと思うことはある。しかし、困った時に助けてもらうため、将来の不安を払拭するため、まして、死体を早期発見してもらうために、友だちをつくるというのもおかしい。もはや、友だちかどうかも怪しいレベルだ。

それに、これから超高齢化社会になるのだから、「あなたの死体! 早めに発見します!!」という民間業者だってどんどん出てくるだろう。その前に、死体になる前に発見してくれるシステムが先な気がするが。今後、利用する金があるかは別として、独居老人用事業も発展するだろうから、意外とひとりでも困らないかもしれない。金さえあれば。

だからと言って、友だちなど不要というわけではなく、いたらいたらでやはりいいものである。しかし、いなくて良かったということもあるのだ。

私は「会社員と作家業を両立するコツは?」と全然聞かれないので、勝手に言うが、一番のコツは「友だちがいない」ことだ。今の私の生活は、別に睡眠時間を削ったり生活に支障を来たしていたりはしないが、遊ぶ余裕があるわけでもない。よって、友だちと遊ぶのは「年3回がベスト」なのだ。実際、年3回ぐらいしか誘われないので、ベストオブベストである。

これが、友だちが多くて誘いが多い人間だったら、9割断る羽目になる。その内、「あいつ最近付き合いが悪い」などと言われたり、その内、誘いすら来なくなったりするかもしれない。つまり、「友だちが減る」のである。これは精神的に辛いのではないか。

その点、私は「ないものはなくならない」。よって、作家業を始める前と今とでは、大して友だちの数は変わっていない。また、外出嫌いで大して趣味がないのもでかい。もし、毎週末外出していて、夏はキャンプ、冬はスノボが趣味、という人間が、今の私の生活をしたら、狂を発すると思う。

つまり、「この時間があればアレができる」のアレが特に見当たらないのだ。漫画というのは、私のようなクオリティでも製作に時間がかかるし労力も使う。その割に、パッとしない結果に終わることが多い。というか、まだだかつてパッとしたことがない。

それはとても辛いことなのだが、「時間を無駄した」とだけは思わない。なぜなら、漫画を描いてなかったら、その時間まるまる部屋で虚空を見つめているか、何か暗いことを考えている以外ないからだ。つまり、「漫画を描いてなかったら、もっと時間を無駄した」だけなので、何も得てなかったとしても、何かを犠牲にしているというわけでもないのだ。

だが、学生時代にデザインを習っていた先生が、「クリスマスにデータ待ちで子どもとクリスマスが過ごせなかった」という「THE犠牲」という話をしていた。自分は良くても、私に子どもがいたら大いに犠牲になっていただろう。

子どもはいないが、現同居家族である夫は私の仕事の犠牲になっているのだろうか。しかし、もし私がダブルワークじゃなかったら、家事や掃除をちゃんとするかというとしないだろうし、休日も外に出たがらないだろう。夫は私の仕事の犠牲になったのではない。私の犠牲になったのだ。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。