今回のテーマは「ネット通販」だ。私はあまり通販をしない。そもそも物を買わない。これは節約家というわけではなく、ギャンブル依存症が数十万の馬券は平気で買うくせに、他の物は数百円でもケチるのと同じである。つまり、私の世界は全て「ガチャ換算」であり、この金でガチャが何回回せると思ったら物を買う気がなくなるのだ。

だが、「物を買わない」と言っても、正確には「形に残る物は買わない」だ。ただ、「ウンコ」という形に残る物の原料ではあるので、一概には「形に残らない」とは言えない。とはいえ、形作られた瞬間、水に流されていくので、やはり「残らない」と言った方が妥当だろう。もしかしたら、水に流さずずっと部屋に置いておく、という人もいるかもしれないので、それは解釈が分かれるところだ。だから、食い物やお菓子はよく買う。それも、理性を奪われた小学生のように買う。

つまるところ、私はJPEGとクソのために働き、何も残らず金もないという、実に刹那的で無頼な生き方をしているのだが、その割には部屋が物であふれている。それも、物というよりゴミに近い。もはや、私の身体が生み出しているとしか思えない。知らない内に錬ゴミ術を体得してしまったようだ。

そんなストイックなまでに、JPEGとクソのみに金を使い、ゴミを精製し続ける私も、年に数回ぐらいはネット通販をする。具体的に言うと、DB(ドスケベブック)とDC(ドスケベCD)を買った。

ドスケベブックは分かるが、ドスケベCDとはなんだ、という、1メートル四方の箱から3年出てない情報弱者に一応説明すると、シチュエーションCDと言われるもので、男性声優がたったひとりでセクロスを演じきるという職人芸を収録した一品だ。そろそろ和風総本舗とかで紹介されるのでは、と踏んでいる。

元々、腰が重い上にせっかちなので、注文して届くまで時間がかかる通販というものが好きではない。しかし、その重い腰を砕くのは、いつでも「萌え」と「エロ」だ。

到着までの数日の間に地球が滅ぶという可能性が大いにあるにも関わらず、「滅ばない」という分の悪い賭けに出てでも入手しなければいけない。そんなDBやDCに、年に数回は出会うのである。

その日、手に入れられるJPEGやクソの原料にしか興味がなく、明日まで待たなければいけないものならもういらないという、「明日を信じない」私が、唯一「明日が来ることを信じることができる」、それが「萌え」と「エロ」なのだ。

それ以外だと、昨日、スマホカバーと保護ケースを通販で頼んだ。別に、推しキャラが描かれたカバーとかではない。夢のないものだ。昨日、コンクリの上に、スマホを落下させ、幸い画面は保護ケースが割れただけだったが、背面は角が割れ、ヒビが入ってしまった。まだ、買い換えて1カ月のスマホであり、ショックだったのだが、どちらかというとショックを受けた自分にショックである。

私は物を全然大切にしないし、多少壊れようが汚れようが気にしない。ちょっと車の塗装が剥げただけで、嘆き悲しみ、すぐ修理に出す夫が理解できなかった。というか、私なら塗装がはげたことにすら気付かないと思っていた。

だが、そんな私でも、買って1カ月のスマホにヒビが入ったら気付くし凹む、ということが分かってしまった。ある意味、「まだ人の心があった」という発見だったのだが、できればそれにすら気付かないぐらい鈍い方が良かった。

その亀裂を見ているとブルーになるので、急ぎ隠すためのカバーを注文した。動機がマイナスなため、楽しくない買い物だ。早く届いてほしいともとも思わない。このように、「楽しみでもなんでもない物」を買う時は、たまに通販を利用する。DBやDCとは真逆である。

つまり、私が通販を利用する時は、「楽しみすぎて待てる物」か「楽しみじゃなさすぎて待てる物」を買う時である。今年はできるだけ、前者が多いことを願う。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。