今回のテーマは「理想の玄関」だ。わが家の玄関はかなり理想に近いと思う。ありがたいことに、たまに読者の方から、フィギュアなど、私の漫画のキャラクターのハンドメイド品をいただくことがあり、それらを全部玄関に飾っているからだ。

「私の漫画のキャラクター」と言われても誰も何も思いつかないと思うので、まずは「ググれ、カス」と言いたいが、「ググるな、カス」。貴様が検索すべきなのはグーグルではない、amazonだ。そこに「カレー沢薫」と入力し、出てきたものをなんでもいいからとりあえず、買え。漫画じゃない本が出るかもしれないが、そんなこと私には関係ない。

運よく漫画だったら、それに出てくるキャラクターだ。どのキャラクターだと思うかもしれないが、私のキャラは全部同じ顔なので、どれでも同じだ。つまり、ちょっと小手先を変えただけの同じ顔をした生きものが大量においてあるという、変わったパラノイアの家みたいな玄関なのだが、純粋に手作りグッズをもらえるのは本当にうれしい。

では、なぜそれらを飾るのが玄関かというと「私の管轄外」だからだ。前にも言ったが、どんなにおいそうな食いものでも、三角コーナーに落とした瞬間、「生ゴミ」になるのだ。それと同じように、私の部屋に入れた瞬間、「ゴミ」になるため、せっかく作ってもらったものをわが部屋に入れるわけにはいかないのだ。

よく危険物などに、「お子さまの手が届かないところに保管してください」という注意書きがあると思うが、それと同じだ。大切なものは、「カレー沢が関わらない場所に保管してください」なのだ。その点、さすがの私も玄関では飲み食いや寝起きをしないので、そこまで汚すことがないし、汚れていたら、それが気になる夫が片付けるので、美観が保たれるのだ。

だが、飾られているのは、同じ顔の生きものだけではない。夫が、転勤になった時、部下たちから贈られた、寄せ書きボードなども飾られている。この寄せ書きが実に手が込んでいる。少なくとも、嫌われていたらこんなものはもらえないだろう。逆に嫌われすぎると、嫌味が書かれた寄せ書きや、白紙の色紙がいただけると聞いたが、見た限り、悪口は書かれていなかった。

夫は会社員なので、読者から手作りキャラクターグッズをもらうということはまずないのだが、逆に、私は会社の人からこんな寄せ書きは絶対にもらえないと思う。それに、読者の方も私の漫画やキャラクターを気にいってくれただけで、私の人柄に惹かれたわけではない。人気アーティストやクリエイターの、不倫や逮捕のニュースが流れる度に、「本人の人格と、そいつが作り出すものは無関係」と言われるが、全くその通りである。

これを読んでいる、選りすぐりのネット弁慶の皆さまも、リアルとツイッター上の発言がまるで違ったりしているだろう。それと同じだ。人は、威勢がいい方、または、繊細な方を「こっちが本当の自分……」と言いたがるが、「どっちも貴様」である。実際、私個人はとてもじゃないが、手の込んだ人様にハンドメイド品をいただけるような人格ではないので、この夫の寄せ書きを見る度に「すごい」と思うのである。

逆に、人柄が悪く人望ゼロでも、漫画を描くことで、このようなご好意をいただけるのだから、「辛いこともあるが、創作に出会って良かった」とも思う。漫画『デトロイトメタルシティ』に「俺は音楽に感謝している。ミュージシャンにならなければ猟奇的殺人者になっていたから」という文言があったが、私も大体同じである。ただ、「猟奇殺人者」の部分には「無職」「ひきこもり」「穀つぶし」等、もっと地味なものが入る。

そしてもうひとつ、玄関には夫が飾ったものがある。新婚旅行のハワイと、何年か前に行ったUSJで撮った、私と夫のツーショット写真だ。私には、「自分の顔面を飾る」という発想がなかったので、カルチャーショックである。

だが、夫が家にある写真を全部燃やしだしたとか、私の顔部分だけ黒く塗りつぶしだした、というよりは、健全な発想だと思う。ただ、「意外とこいつ臆面もねえな」と思った。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。