今回のテーマは「七五三」である。だが、私が現在8歳児だというならともなく、もう三十も折り返し地点である。つまり、30年近く前の話だ。そんな昔の話、顔に消えない十字傷ができたとか、死人が出たとか、相当インパクトのある事件が起こってない限り覚えていないと思う。

それにしても七五三というのは、文字通り2年ごとに記念イベントがやってくる。その後も、小中高入学・卒業or退学と、数年ごとにでかい節目がやってくるのである。

だが、その後の停滞っぷりがすごい。七五三より、ここ数年の記憶の方が遙かにない。なぜなら、記憶するほどのことが一切ないからだ。みんなそうかと思ったら、ここ最近私の周りはベビーブームで今年に入って同級生3人から出産報告があった。どうやら、人様の人生は今も動き続けているようである。「さすが他人の人生。順調だ」と感嘆した次第である。

しかし、記憶があまりないからと言って七五三をやっていないわけではなく、人並みにやっている。割と親がそういう行事をつつがなくやるタイプだったからだ。おそらく、着物か、そこまでは頑張れなかったとしても、ワンピースか何かでお参りをして、写真撮影をしたはずである。

ちなみにそれから十数年後、さらに頑張れず、成人式にリクルートスーツで行った。このペースでいくと、パンイチで棺おけに入れられると思う。

その時の写真はまだ実家にあるはずである。しかし、我が家は記録魔かつ物が捨てられない親父殿のおかげで、人が住んでいる遺跡になっているため、発掘しようと思ったら専門家への要請が必要だろう。ちなみに七五三の写真は、家のカメラではなく写真館で撮影したはずである。さらにそこで撮られた私も写真が、しばらく店先に飾られたはずである。

そう思い続けて今日まで来たが、本当に飾られていたのであろうか。他の同級生が飾られているのに、自分は一向に飾られないことに自我が崩壊し、自己防衛本能が「飾られた」という記憶を捏造したのではないだろうか。

しかし、今となっては確かめる術も証拠もない。飾られている自分の写真を写真に撮っているようであれば、いよいよである。飾られていなかったとしても、せっかく自我が気を利かせてくれたのだから、「飾られた」ということにしておこう。

あの写真館は今もあるのだろうか。そもそも少子化で、カメラの性能も良くなっているのだから、わざわざ写真館で写真を撮る人自体減っているのではなかろうか。しかし、写真館側だって黙って衰退しているわけではないようである。

先日、姪っ子の七五三写真を見せてもらった。先日と言っても10年前なのだが、あまりに人生が停滞しすぎて時間の区切りが大雑把になってきた。その内、50年前のことを「昨日」と言い出すと思うが、それは脳の接続が悪くなっているだけなので、追求せずに寝かしつけてほしい。

ともかく、平成二桁生まれの七五三写真を見せてもらったのだが、明らかに昭和の七五三と違うのである。まず衣装がかわいい。私の時も貸し衣装だったと思うが、三代にわたって受け継がれてきた、と言っても通るような厳かな着物だった。

しかし今の七五三の衣装は、着物でもパステルカラーだったり和洋折衷だったりと、とにかく子どもが着てかわいいデザインになっているし、フリルのついた和傘などアイテムも凝っている。さらにポーズも、千歳飴を持って棒立ちとかではない。モデルのようにポーズを決めている。そうなのだ。まるで雑誌のモデルのような写真が出来上がるのである。

子どももオシャレ好きなら喜ぶだろうし、親もまるでファッションモデルのようなわが子の姿にご満悦である。素人でもある程度の写真が撮れるようになった今、いかに素人には無理な写真を撮るかで、写真業界は顧客を得ているようだ。

これをママ友あたりに「うちの子の写真」と見せられ日には、平均以上のマウンティングスピリッツのある親なら「負けていられるか」と、6歳児でもその日の内に写真館で七五三写真を撮ってしまうかもしれない。

だが、親の方針も色々だ。古い良き着物姿で、千歳飴棒立ち、両隣にスーツの両親という古来から伝わる七五三写真を撮る家もあるだろう。それに対し、「うちも邪栖十(ジャスティン)ちゃんみたいなカワイイ服着たい」とダダを捏ねる子どももいるかもしれない。

それに対し繰り出される言葉は、「よそはよそ、うちはうち」である。どれだけ時代が変わろうと、家庭内からこの台詞が消えることはないだろう。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。