今回のテーマは「親孝行」である。

これは「してない」の一言で終わってしまう。前も書いたが私の親への態度は未だに思春期のそれである。反抗こそしないが、実家(近い)には滅多に帰らないし、帰ったとしても愛想は悪いし、特に親を労わるようなことはしない。それは良くない、ということも分かっている。

しかし親が元気なうちは、明日の明日の来週、近いうちに、またその内、になってしまう。そう考えると「親孝行、したい時には親はなし」という言葉を考えた奴はすごい。千円ぐらいポケットにねじ込んでやりたい気分だ。

ねじ込まれた方は「この千円親にやれよ、俺の言いたいこと全然伝わってねえじゃん」と言語の無力さを目の当たりにするだけだが、とにかく、何かせねばと思うが、照れくささや、面倒くささが先に立ち、何もしてないのが現状である。

しかし、幼少期より、もらった月の小遣いをゲーセンで一瞬で溶かしたり、友達がいなくて教師が家庭訪問に来たり、新卒で入った会社を1年もたずに辞めたこの私である。今、結婚して屋根のある家に住み、仕事もあり、ロキソニンをラムネ感覚で食ったり、もう鼻から吸ってしまおうかと思う日もあるが、概ね健康で何よりも1回も実家に金を借りに行ったことがない、これだけでもう立派な親孝行だろう。

…というのは、完全に子供の思い上がりであろう。

子育ては見返りを求めてやるものではない、とは言うが、さすがの親もここまでハイリスクノーリターンとは思っていなかったはずだ。色々してほしいことはあるだろう、ただ言わないだけだ。それに親が「あれをしてくれ、これを買ってくれ」と言い出したら、私のことだ「親が豹変した」と言うに決まっているし、何なら、それをネタに一本エッセイを書いて小銭を得ようとするであろう。最悪である。

そもそもすでに、ここに家族に無許可で、実家の内情を書いて小金を得ている。本気で孝行する気があれば、原稿料の振込先は親の名義にしているはずだが、もちろん自分だ。

今も迷惑をかけている上に、それで私服を肥やしているのだ。ド最悪である、ポイズン子供すぎる。親孝行する気はあるができてない、などとぬるいヘドロみたいなことをぬかさずに、孝行する気は「無」であり一刻も早く死ぬのが最大の親孝行、と言い切ってしまったほうがまだ潔い。

しかし、こんなことを書けるのも、親が元気だからなのだ、明日実家が爆発したらどこから後悔していいかもわからないが、やはり後悔するだろう。今のうちに親孝行はしないといけないのだ。

しかし「良かれと思ってポリス沙汰」という言葉もある。私が考えた最強の親孝行が、親から見れば、娘がいきなり棍棒で殴りかかってきたぐらいの暴力な場合もある。例えば「実家をリフォームしてあげたいからFXを始める」というのは多分親にとっては孝行ではないし、結果的に迷惑をかける可能性がある。親が「元気でいてくれればそれでいい」と言うのは「何かするとこっちに迷惑がかかる」という意も含んでいたのかもしれない、今になって学んだ。

実は言うと、何が一番いいのかはわかっている、現ナマだ。私が「親はこれがほしくてたまらないはずだ」と三万円分のおがくずをあげるより、親がほしいものを買える3万円をあげた方がよほど良いのだ。

しかし現ナマはいやだ。なぜなら「親孝行はしたいが、金は惜しい」のだ。もはや「ヤりたいけど、付き合うのは嫌だ」と言っているに等しい。だが実際そうだから仕方がない。

だからこそ「金は気持ちがこもってない」などの理由により、原価のかからない「気持ち」的なもので感謝したいと思っているのだ。それに親だって「消費者金融で借りてきた3万」をもらっても困るだろう。

しかしここで「俺のお母ちゃんリスペクトソングを全国に発信したいから今からアーティストになる」と言い出すのも、やはり親不孝なのだ。もう何をしても親は不幸になるとしか思えない。なんでそんなに不幸な生き物なのだと問いただしたい気分だ

では、自腹も切らず、どこからも金を借りずにできる、親が不幸にならない孝行とは何か。それは、サクセスだ、私の場合は作家として成功すれば、親はそれを誇りと思ってくれるかもしれない。

しかし、ここで留意したいのは、相手が自分の親だという点だ。私は、至る所で「人の成功が嫌い」と言っている。会ったこともない作家の単行本重版情報や、アニメ化の話を聞いただけでも怒りが爆発するため一時期「重版」や「アニメ化」というワードをツイッターのNGに設定したほどだ。皆様が思っている100億倍、人の成功が嫌いなのである。

そんな私の親である。自分の子どもとは言え、自分以外の人間の成功を喜ぶだろうか。むしろ私の作品が100万部売れた時点で勘当されるかもしれない。

やはり何もせず、作家として全然売れてない現状こそが、一番親孝行なのではないか。よって今日も何もしない次第である。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全三巻発売中。