今回のテーマは「友だちの家」である。このテーマを見て、数年ぶりに前の会社の同僚からきた、「またランチでもしましょう」というメールを2週間放置していることに気づいた。

時として我々は、友だちが少ないことを嘆き、それがあたかも、群馬県でよく見られる不思議な力のせいによる自然災害に巻き込まれたかのような言い方をする。しかし、大体が上記のような「必然により友だちがいない」のであり、むしろ、不遇により友だちがいないかのような考えが、友だちがいない要因のひとつである。

そういうタイプは、「学生時代の友だちとは疎遠になった」と、まるで自然消滅したかのように言うが、大体やりとりを投了させているのは自分だったりするのである。よって仮に友だちができたとしても、それを維持する能力がないので、よほど毎日顔を合わせるとかでなければ、すぐ疎遠になってしまうのである。

毎日友だちと顔を合わせる学生時代が終り、十数年経った今、友だちはほぼ皆無となり、我が家に友だちが来たことは5年で2回ぐらいだと思う。意外と多い。

そもそも昔から自分の部屋に友だちを入れるのが苦手なのだ。昔から自意識過剰であったが、年を取ってさらに酷くなり、今では自意識の擬人化みたいになってしまったので、自分のパーソナルスペースに他人を入れて、何かを気取られてしまうのではないかと思うと落ち着かないのである。あと、自分の部屋が汚すぎて人体に有害、という問題もある。人を部屋に入れただけで、業務上過失致死の罪に問われるのは避けたい。

そういうわけで、できれば自分の家より友だちの家に行きたいタイプなのだが、子どもの時はそれ以外にも、友だちの家に行きたい理由があった。友だち宅には自分の家にはないエンタメがあるからだ。自分の家にはないゲームや漫画があるのである。

おそらく、今でも家庭により、エンタメ度格差はかなりあると思う。「漫喫かよ」というぐらい、ゲームや漫画が充実している家もあれば、ゲームはもちろん、漫画も「手塚作品か、歴史の勉強になるという意味でベルばらしか許されない」という家庭もあるだろう。

ベルばらは、歴史よりもある種の性癖を学んでしまう可能性の方が高いのだが、それがその家の方針なら仕方がない。だが、子どもからすれば、やはりエンタメ度が高い家の方がいいのだ。よって皆、「火の鳥全シリーズ」しか置いていない家よりは、無料漫喫な家の方に集まりたがるのである。

そして、我が家のエンタメ度はかなり下位な方であった。ゲームや漫画が許されないというわけではなかったが、「ドラクエ3」が社会現象になっている時に「ドラクエ2」を買うような、ともかく黒船来航が他の家より2~3年遅れている家だったのである。

私は昔からゲーム好きだったので、やはりゲームが充実している友だちの家に行きたがった。そして中学校の頃、家に「セガサターン」、そして「ストリートファイターZERO」がある友だちができた。

ストZEROと言ったら、ゲームセンターで100円を投入してやるゲームである。それがタダでできるのだ。アルカディアとしか言いようがない。よって、私はとにかくその友だちの家に行きたがった。そしてある日、「ゲーム目当てじゃん」と言われた。

この友だち相手に、利害丸出し、私利私欲を全く隠せてないのも、友だちが少ない大きな理由のひとつだ。私に友だちがいないのは全くの必然。友だちと言うものに向いていない。これで友だちが多かったら、自宅の庭に油田が沸いているなど、相手の方が利害で近づいているとしか思えない。

しかし、世の中には人望ではなく、ゲームをたくさんもっている等の理由で、スクールカースト上位を得て、それを良しとしている子どももいるのだろうと思った。上記の友だちはそれを良しとしなかったが、仮に私の家のエンタメ度が高く、それ目当てで人が寄ってきたら、結構いい気になってしまったのではないかと思う。何せ、自分自身には友だちを作る能力がないのだ。ゲームひとつでそれが叶うなら安いものである。

それは子どもの時だけではなく、やはり庭に油田が沸いている人間の家には、それ目当ての来客が多いのだと思う。庭に油田が沸かなかったとしても、もし私の本が70億部売れたら、同じように利害で近づいてくる人間が現れるかもしれない。そして、やっぱり私はいい気になってしまうであろう。

いい気になっていいことなど何もないし、後に悪いことが起こる可能性の方が高い。じゃあ売れなくて良かったかというと、全然そうは思えないし、やっぱり庭に油田は沸いてほしい。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。