今回のテーマは「100均の神アイテム」だ。

100均、行かないんだな、これが。テーマに対する答えが「無」を越えて「虚無」になってきたが、本当に行かないのだ。よって、人様にオススメ商品など紹介できるわけがないのだが、強いて言うなら「認め印」だろうか。

印鑑などそんなにいらないだろう。何枚クレカを作るつもりか、と思われるかもしれないが、事務仕事なので結構いるのだ。それが108円で手に入る上に、珍しい苗字でも結構置いてある。残念ながら「カレー沢」は見たことがないが、カレー沢印が押された書類はどこも通らないので特に必要ない。

このように、消耗品を買うならとても便利だとは思うのだが、逆に常用するようなものはあまり買わないようにしている。というのも、高校に入学した時、給食から弁当になったので、「弁当箱を買ってこい」と、親に2,000円ぐらいもらった。それで私は100均で弁当箱を購入し、差額を着服することにした。買った弁当箱はとても100円には見えず、親にも特に疑われなかった。

しかし、その弁当箱は三日後、大破した。象に踏ませたとかではなく、ごく自然に大破した。それに関し、親に咎(とが)められることはなかったが、弁当箱は買いなおしになった。ここでまた、預かった金で100均の弁当箱を買うようだったら、私も凶悪犯の仲間入りだが、残念ながら小悪党なので、普通の弁当箱を買ったし、さすがにそれは長持ちした。当時と今とでは100均のレベルが違うと思われるが、親の金とは言え、典型的な安物買いの銭失いだった。

よって私は今でも、その日の内に粉々に砕け散っても後悔しないもの以外、100均で買うことはないのだが、先日、窮地を100均に救われた。

私は三十過ぎてから、同人デビューをした。おらが村は、道の駅は異常に充実していても、同人誌即売会なんてハイカラなことはしないため、毎回上京をしていた。その時、化粧道具一式を忘れてしまったのである。

もちろん、私の顔など誰も見ていない。特に同人誌即売会なんて世界一、他人のツラを見ない世界だ(コスプレイヤーを除く)。なぜかと言うと、DBを見ているからだ。「ドラゴンボール」のことではない。「ドスケベブック」のことだ。

ドスケベじゃないものも売られているが、私が買うものはDB率が高い。そこで買ったDBは私の宝となり、一冊一冊胸に刻まれているが、それを売ってくださった方の顔を気にしたことはない。むしろ、DBの表紙で扇情的な顔をしている推し以外に気を取られるというのは、集中力に欠けている気がする。

よって、私が化粧をしていようがいまいが誰も気にしないだろう。平素だって「BB(ブスババア)クリーム」しか塗っていない。しかしそれでも、三十過ぎて不特定多数の前にすっぴんで現れる勇気はなかった。ゆえに現地調達するしかないのだが、化粧品というのは一式そろえると結構な金額になる。ドラッグストアで安価なものを買ったとしても、2,000~3,000円にはなるだろう。

いつもならそのぐらい出したかもしれない。だがその時は、そういうわけにはいかなかった。なぜなら、DBを買いに来たからである。2,000円あったら最低でも3DBは買えるだろう。それを私の顔に塗る染料ごときに浪費するわけにはいかない。

そこで思いついたのが100均である。100均コスメは充実していると聞いたが、その通りで、数百円で一式そろえることができた。それでも1DBぐらい使ってしまったが、逆に2DB浮いたと思えば安いものだ。

というわけで、私は100均コスメのみで構成された激安フェイスで当日に臨んだのだが、もちろん誰も気にしていないし、顔自体が28円(税込)なので、逆に顔が化粧に負けていたかもしれない。それに、一向に減らないため、家の化粧品は経年劣化している。忘れてきた化粧品を使うより、新品の100均コスメの方が遙かに肌に良かった気もする。

このように、長く使うには向かないかもしれないが、急場を安価でしのいでくれる100均はやはり便利である。特に上記のようなケースは、「命を救った」と言っても過言ではないだろう。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。