今回のテーマは「掃除」だ。

「しない」

前回に引き続き、海外クソアーティスのインタビューみたいになってしまい恐縮だが、マジなのだから仕方がない。むしろ、テーマの方に悪意を感じる。

家の掃除は主に夫がやっている。この時点で、「夫に現ナマを渡すか腹を切るか、今すぐ選べ」と言われそうだが、世の中には、掃除他家事を全て、母親、嫁にやってもらい、部屋は自然にきれいになるもの、むしろ、そんなに汚れないものだと思っている人間は結構いるのだ。その点私は、私が汚したものを夫がきれいにしているということに気づいているだけえらい。褒美に介錯なしの切腹をプレゼントされてもいいほどだ。

働きアリにも働くアリと働かないアリがいるように、人間にも掃除する人間としない人間がいる。そして、する人間の方が圧倒的に不利である。「他人の掃除なんか、しなきゃいいのに」と思うかもしれないが、掃除する人間というのは片付いていない状態が気になるので、ついやってしまうのだ。そこをグッと我慢したご家庭のみが、汚屋敷を手に入れ、晴れて行政の世話になることができるのである。

掃除しない人間は、掃除してくれる人間がいなくなったからと言って、自分がやりだすということはない。「部屋って汚れるものなのだな」という事実を受け入れるだけなのだ。そう、掃除しない人間は、状況を受け入れる力がありすぎるのだ。

今現在、私の机の上には、空のペットボトル2本、ペットボトルの蓋5個、空のジュースの紙パック2つ、何かの菓子に入っていたと思われる乾燥剤、他がある。異常事態だ。もちろん、「水分をとりたいのか乾燥したいのか、どっちだ」という話ではない。机にメチャクチャゴミがあるのだ。机が1ヘクタールぐらいある、というなら些細なことだが、普通の机である。完全に作業スペースが圧迫されている。

常人なら、「これは人が効率良く仕事できる環境ではない」と即刻片付けるだろうが、掃除しない人間は「受け入れる」のである。ゴミで作業スペースがない、という状況を受け入れ、なんとか空いているスペースで作業するのである。

しかし、考えてみてほしい。電車に乗って、座る席がないからと言って、優先席に座っている老人をつかんで窓から捨てるだろうか。何でも周りを自分に合わせようとするのは傲慢ではないか。掃除をしない人間は、「郷に入れば郷に従え」の精神を持っているのである。

つまり、テレビに出るレベルのゴミ屋敷の住人は、常人ではとても受け入れられないであろう、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでいるのである。しかし、私はそこまでの高僧ではないため、傲慢にも「掃除しよう」と思い立つことがある。大体年に1、2回だ。

こういう、掃除しない人間がたまに思い立ってやる掃除というのは、全くやらないより性質が悪い時がある。掃除しないやつが発作的にやる掃除というのは、「男の料理」である。やたらはりきり、徹底的にこだわり、ドヤ顔を決め、片付けは嫁、というやつだ。しかし、男の料理だって、ニンジンを切ったところでは飽きないだろう。ところが、掃除しないやつの掃除はニンジンの段階で飽きるのである。

最初、捨てるものと必要なものを分けていたものが、途中から目に映るもの全てを捨て始めるのだ。だったら自分が真っ先にゴミ袋に入るべきだろう。それで大体解決だ。

また、そういうやつの掃除は最初だけ丁寧だ。しかし、もちろん途中で分けるため、すごく几帳面に整頓されたものの上に、突如アトランダム形式で物が重ねられていくのだ。

さらに、途中から掃除の目的が「整頓」から「スペースを空ける」に移行してくるため、とりあえず物を袋や段ボールに詰めて、部屋の隅や押し入れに入れ始める。多分、そうしておけばその内、消滅してくれると思っているのだろう。既に私の家の押し入れには、そのような「消滅待ち」の箱が何個もあり、その内、キレた夫に消滅させられる恐れがあるほどだ。

しかし、我が家のスペースを一番圧迫しているのは、私の本だ。本を出す度に、20冊ぐらいもらうからである。どこの出版社も、うちが20人家族と思っているのだろうか。それとも、私が20人いると思っているのか。後者だったら、即刻19人は消滅させた方がいい。それだけで、大分家が片付く。

目に映るもの全て捨てる状態になっても、自分の本だけはなかなか捨てられぬものである。一度、「本を何冊送りましょうか? 」と聞いてきた出版社があったので、「二冊で」と答えた。こっちの方が助かるし、助かる作家も多いと思うでの、どこも希望数だけ送るようにすればいいと思う。

ちなみに「二冊」は見栄だ。一冊でいい。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。