漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「ショッピングモール」だ。
ショッピングモールと言えば田舎の生命線として有名だが「イオソに牛耳られている」のはただの田舎であり「イオソの息さえ届いていない」のが限界集落なので注意が必要だ。ここを間違えると過疎エアプ勢だとバレる。
イオソも諦めるレベルの集落になると、買い物は移動販売車に頼っていたりする。そういう地域に住んでいるのは大体老なので、彼らが車で繰り出すとさらに人口が減る事故が起こりかねないし、第一遠出が厳しい。「店の方が来い」を本気でやっているのだ。
よって村80%オフ的扱いを受けると、販売車が来る日を教えてもらえなかったりするしそもそも村民が集まる場所に行くこと自体命の危険がある。
物資はアマゾソなどに頼めば良いと思うかもしれないが、村人がしかけた数々のトラップにより配達員が家にたどり着けない可能性も高いのだ。
都会であれば、たとえ周囲に嫌われようが生きる術の種類が多いので何とかなるかもしれないが、田舎はそれが少なく、周囲はそれらを的確に絶とうとしてくるので、田舎への移住は慎重に行ってほしい。
人生の楽園に出てくるのは神に選ばれしコミュ強なので誰にでもできると思わない方がいい。
もしくは愛の貧乏脱出大作戦の抜き打ちチェックのように、結局その後地元民と揉めて都会に帰った楽園出演者SPとかやってほしい。
そういう意味では私は無事イオソに生殺与奪を握られた田舎の民なので、今のセルフ村80パーオフ状態でも生きていけており、そういう意味では恵まれている。
ただしデリバリー関係からはほとんどオフられており、うちに届けてもらえるのは「花」のみだ。おそらく葬式用の花だけは届けてやるという作法に則っているのだろう。
イオソに牛耳られているというのは、ライフライン的な意味だけではなく「娯楽」も同様であり、田舎最大の娯楽施設といえばイオソのショッピングモールなのだ。
我が県には映画館がそもそも3館ぐらいしかないのだが、3館ともショッピングモール併設である。
私も今より体力があり、それに反比例してやることが皆無だったときはよくショッピングモールに行き、朝から晩までゲーセンで他人が格闘ゲームをしているのを後ろから見ていた。
今だったらYouTubeとかで、格ゲーのエンディングを見るのは簡単だが、当時そんなものはなく、金も技術もない私には、推しキャラのエンディング映像を見ることは不可能であった。
よって、上手い人の後ろに張り付きクリアしてくれるのを待っていたのである。
それだけ通っていると、上手い人の顔は覚えるので、その人が来ると「よっ待ってました」と思っていたが、相手の方が「またいる…」と恐怖を覚えていただろう。深淵をのぞくとき、深淵もこちらを見ていると言うが、むしろこっちの方が深淵側なのである。
もちろん上手い人が毎回来るわけでもないし、その人が私が見たいキャラを使ってくれるとも限らず、意中のエンディングが見られる可能性はかなり低い。
しかし、やることと友人がいなければそういうことができてしまうのである。むしろそういうことでもしないと時間が経たな過ぎて自我が崩壊していたのだ。
しかし、インターネットが現れ、家で無限に時間を潰せるようになったため、私がショッピングモールに行く回数は激減した。
おそらく私はゲーセンにいつもいる女として周囲に認識され、あだ名をつけられているレベルだったと思うが、それが突如消えたことになる。
こうやって文明の進化と共に都市伝説というのは消えていくのかもしれない。
よって、私がショッピングモールに行くのは映画を観るときぐらいになってしまったのだが、それもコロナなどがあり3年以上行っていない。
つまり私はイオソに生活を支えてもらっているくせにイオソに貢献していない、世が世なら非国民として憲兵隊に射殺されてもおかしくない存在ということだ。
しかし、私はイオソ株主だったりもする。
イオソ株というのは何気に激熱であり、100株持つとオーナーズカードがもらえ、それで買い物をすると買い物額の数%が還元され、映画は常に1000円で観られるし、飲み物をつけることも可能だ。
私はそれらの恩恵を「全く使わない」という形で、実質イオソに寄付していることになる。
イオソの還元は半年に1回「紙」で郵送され、その紙をイオソのお客様カウンターに持っていき換金、換金期限がすぎると「郵送」でその紙を送るという極めてアナログな手法なのだ。
それが「面倒」なため、ここ数年換金しないままになってしまっている。
おそらくイオソは「それすら面倒くさがる奴がいる」と読んでこのシステムにしているのだろう、だとしたらさすがイオソ、慧眼である。
よって、今のところ私のイオソ株は本当にイオソ応援にしかなっていないのだが、オーナーズカードにはもう一つ「イオソラウンジ」なるものが使える特典があるという。
空港などでも特権階級のみが入れるラウンジがあるが、イオソにもそれがあるらしい。だが残念なことに、私の生活圏にラウンジがあるイオソは存在しない。
イオソラウンジは多分1枚誰か持っていれば連れも入れるシステムだと思うので、いつか毎週舎弟を引き連れてイオソラウンジの一角を陣取る新たな都市伝説として活躍したいと思う。