漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「出会い」だ。

春は出会いと別れの季節である。

確かに正月をむかえた時点で「新春」と言ったりするが、この寒さで「春」と言い張るのはいささかポジティブすぎないか、そういうタイプとは仲良くなれそうにない。

出会いと別れ、と言っても明らかに「別れ」の比率の方が高くなってきている。

それも絶縁状を玄関に打ち付けるようなアグレッシブな別れではなく、卒業や退職などコミュニティを離れることにより顔を合わせなくなりフェードアウトという残尿感溢れる別れが大半だ。

出会いに関しても、学生のときは進級や進学のたびにコミュニティメンバーが総替わりし、新しい出会いがあったかもしれないが、社会人になると「4月になったら全部署シャッフル配置」ということはほとんどない。

私もここ3年ぐらい職場のメンバーが私と顔に見える壁のシミ、たまにヘルプに来てくれるコバエで固定されているので新しい出会いがない。

去年はGという大型新人が入ってきたが、私が誤って部屋でバルサソを焚いてしまったため、真の意味でのお別れになってしまった。

これは完全に私のミスなので労災を申請してくれて良い。

今年も特にメンバー変更の予定はないため「部屋に知らない人が入ってくる」というイレギュラーがない限り、新しい出会いはなさそうだ。

しかし、私は1日19時間スマホやPCを利用している、つまり同じ時間だけインターネットにつながっているということだ。

ネットには世界中の人間がいるから出会い放題ではないか、と思うかもしれない。

確かに出会いの定義が「視界に入る」ならば私は出会い厨と呼ばれても仕方ないレベルで出会っていると思う。

しかし、お互いのことを認識しあい交流を持つことを出会いとするなら、私は全く出会っていない。

ネットでもリアルでも本人に「出会ってやるぞ」という気概がなければ出会いというのは訪れないのである。

中には美貌や大胸筋、胸ポケットからはみ出ている札束など、黙っていても他人に興味を持たれるタイプもいる、そういう人間は何もしなくても出会いが勝手にやってくるのだろう。

逆にいえばそういうチャームやオーラのない人間は自分が動かなければ何も寄ってこないのだ。

少なくとも「オープンな雰囲気」を出し「ご自由にお入りください」感を出しておかなければ人はこない。

つまり、常に部屋の隅で腕組みorスマホ、オーラどころか気配まで消している私に出会おうとしてくる人間はネットでもいないのだ。

実際私は出会うためにネットをやっていないので、出会うことがあまりない。

現在マッチングアプリが出会いの主流になっているのも、出会いたいという気概がある人間が集まれる場所だからだろう。

出会いたくない人間に出会いたい人間が仕掛けるのはトラブルの元である。

マッチングアプリであれば「俺はお前以外と出会いに来た」というノーマッチは起こるが「そんなつもりで来てない」という根本的意志の相違は起こらない。

そんなわけで現在ではマッチングアプリやSNSで出会ったカップルは珍しくないのだが、それでも親に紹介するときや結婚式でなれそめについて語るときは、マッチングアプリとは言いづらいので「友人の紹介」など、フェイクを入れるケースがあるらしい。

ちなみに私は本当に「職場の人の紹介」だったのだが私のことなのでフェイクと思われているかもしれない。

しかし、なぜ未だにネットでの出会いは良くないとされているのか。

おそらくネットでの出会いは「危険」と思われているからだろう。しかしリアルでの出会いでも事件は起こっているだろうし、むしろそっちの方が多いまである。

ただネットでの出会いだと「出会い系殺人」などと取りざたされてしまうがそれ以外だと「知人の紹介殺人」などとイチイチ言わないだけなのではないか。

だがネットは何せ全世界の人間と出会えるのだ。

リアルであれば、出会う人数などたかが知れており、10人の職場の中に1人猟奇殺人鬼が混じっていたら相当な打率だが、ネットではやろうと思えば数億と出会えるので、その中におかしい奴が1人もいない方が逆に不自然である。

また、リアルで出会う人間というのは割と身元や所属がはっきりしている場合が多く、入社して3年になるが、未だに職場の人のことをHNでしか知らないということはあまりない。

Twitterやヤフコメを見ればわかるように、人間は匿名だと気が大きくなってしまうものだ、逆に名前や立場が知られていたら妙なことはおいそれできなくなってしまう。

しかし、リアルでもやる奴はやるので、相手が猟奇殺人鬼である可能性を考えはじめたら、部屋角腕組みスマホ勢になるしかないのである。

猟奇殺人鬼と出会うのも良くないが、孤独も人を殺すので、臆せず出会いに行った方が良いと思う。

ちなみに私に声をかけるのは時間の無駄なのでやめた方がいい、ウマ娘の育成で忙しいのだ。