漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「値上げの夏」である。
夏と言えば気温も高いがテンションも上がりやすい季節のはずである。
その夏を用いてこんなに下がるテーマを用意できるのは逆にすごい。体感温度を下げることにより、冷房の使用を控えることができるSDGsを考慮したテーマと言えるだろう。
今はとりあえずSDGsと言っておけば心証が良いと前回の子どもの自由研究から学んだ。
世間に疎い私だが、最近値上げがされているということは知っているし、何が値上げされているかというと「全部」ということも知っている。
しかし、私は消費税増額のときもそうだったが、あまり「値上げ」というものを感じることがない。
何故なら最初から「値段」というものをあまり見ていないからだ。
貧乏になりやすい奴がやる「貧乏仕草」というのがあるが「値札を見ずに買い物をする」というのは代表的な貧乏ムーブである。
そんなことを言ったらコミケは世界の貧乏大集合ではないか、と思うかもしれないが、コミケに行くときは価値観が反転している系の異世界転生をしていると思った方が良い。
コミケにいるときは値札を見る方が貧しいのである。
今、クラリスが「何言っているかわからねえ」という顔をしているが、トートバッグの紐で両肩が3センチ陥没した銭形はいつも通り目を合わせずこう言う。
「あなたの心がです」と。
確かに、コミケが終わるとき、そこには有り金を全部溶かした貧乏人しか居なくなっているのだが、一様に「豊」という表情をしている。
むしろ値段を気にして買い物をしていた奴はDB(ドスケベブック)ではなく「やっぱりあれも買っておけば良かった」という後悔を肩にのせて帰るのだ。
どちらの姿が貧しいかは一目瞭然だろう。
使うときは思い切って使い、使わなくて良いときは使わないのが豊かな人生である。
逆に言えば、使わなくて良いときに使い、使いたいときに金がないのが、トップオブ貧乏である。
そういうタイプは「何故金がないのか」を把握していない。
職場のパソコン壊した老が「何もしてないのに壊れた」というように「何か知らんけど金がない」のである。
原因がわからないから改善のしようもないので、永遠に金がないのだ。
もちろん原因は「値札を見ずに買う」などの積み重ねである。
最初から値札を見てないので、値上げを体感して嫌な気分になることはない。
だが、それゆえに値上がりを気にせず今まで通り買い物するので、この夏の値上げでますます何か知らないけど金がないぶりが加速するだろう。
しかし、値札を見ずに買い物をするのはこちらの過失だが、値上げ自体はこちらのせいではない。
そして、電力不足のとき同様、値上げすることは嫌と言うほど耳に入るが、何故この値上げが起こっているのかは知らないのである。
調べてみたところ、この値上げはインフレと円安から起こっているらしく「インフレと円安の背景を優しく説明しながら、値上げの原因と対策について紹介します」と言うページも見つけた。
こちらとしては背景ではなく、まずインフレと円安の意味から優しく説明して欲しかったのだが、簡単に言うとコロナで停滞していた経済活動の再開したことにより世界的にエネルギー需要が高まり、資源価格が高騰しているのが原因らしい。さらにロシアのウクライナ侵攻が追い討ちをかけているようだ。
そしてアメリカでは好景気により人手不足が起こっており、政府は景気にストップをかけるため金利を引き上げた。
そのことにより、低金利の円を手放し、高金利のドルを買う人が増え、未曾有の円安になったそうだ。
そして円安により物資の輸入価格が上がり、現在の値上げに繋がったようである。
電力不足は「日本政府痛恨の政策ミスの巻」という、3本だてアニメの一つ程度の話だったが、値上がりに関しては世界規模の話だったようである。
ではそんな世界レベルの問題に一個人がどう対策したら良いかというと「節約、収入増加、投資」だそうだ。
正直、マネーに関する相談の答えというのは大体この3つに帰結する。
これは、人の悩みを「よく食べてよく寝て筋トレしろ」もしくは「ソープへ行け」で終わらせようとするのと同じであり「そのぐらいしかお前にできることはない」という意味である。
だが、その助言を素直に聞く人間と「何をやっても無駄なら俺は好きにやらせてもらう」といってさらなる散財という貧乏仕草をする人間に分かれるのだ。