漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「口癖」である。
口癖というのは自分では気づかないことが多い。そして他人に指摘されると割と恥ずかしいものである。
その昔、私の夫の口癖は「あわよくば」だった。
当時まだ二十代だったので、口癖としてはかなり激シブだったのだが、私がそれを指摘すると、それ以来あわよくばなくなってしまったのだ。
行きつけのコンビニの店員に「今日もからあげさんレッドツェッペリン味でいいですか?」と言われたら、そのコンビニに二度と行かないか、出た瞬間爆破して爆炎をバックに帰宅してしまうように、自分の言動を読まれることに拒否反応を示す人は少なくない。
よって人の口癖を発見したとしても「語尾に女性器名をつける癖がある」とかでなければ、わざわざ指摘しないのも礼儀である。
私も最近Twitterのスペースでよく話をするので、相手の口癖に気づく時もあるし、逆に気づかれてもいるだろうが、何せメンバーがいつメン過ぎるため、口癖以前に「同じ話を最低3回は擦る」という話題癖が発生している。もはや口癖如きを指摘している場合ではない。
しかし「会話の悪い癖」と言うのは事実存在するので、そう言ったものは正す必要があるのかもしれない。
嫌われる会話の癖として代表的なのが「何を言っても否定でしか返さない」である。人の言葉に対する第一声が「でも」なのがこのタイプだ。
「なるほど、でも」と、一瞬納得しかけたそぶりを見せてから怒濤の全否定に入るタイプもいるので油断がならない。
しかし、人が言うことを否定するのは良くない、と言うのは大体の人間が知っていることであり、気をつけている人も多いはずだ。
対策も「わかる」「それな」「せやな」を巧みにローテーションしておけばバッチリだ。勢い余って「せやかて」と言ってしまった時も「工藤」と言っておけば、なんとかなるというリスクヘッジも完璧だ。
しかし、否定と違って、無意識のうちにやりがちなのが、相手の会話の遮り、そして「窃盗」である。
盗癖がある人間が書店に入ると、無意識のうちに懐にONE PIECEを10巻ぐらい入れてしまっているように、会話の遮りや窃盗は、気づかぬうちにやってしまい、気づかぬ間に嫌われていることが多い。
この癖は「頭に浮かんだことをすぐ言わないと死ぬ病」の人間が持っていることが多い。 人が話している時、頭に思い浮かんだことを我慢せずに言ってしまうため、人の話を遮ったり、さらにそこから自分の話を始めてしまったりするのである。
それも、相手の話と関係ある話で遮るならまだ良いのだが、全く関係ない話を始めてしまうこともあり「こいつ俺の話を全く聞いてなかったな」とも思われてしまう。
しかし自己弁護させてもらうと、話を聞いていないわけではないのだ。
ただ相手の話を自分の頭の中で超展開させ、超展開後の話から始めるので、全く関係ない話を突然し始めたかのように見えるだけなのである。
例えば、相手がバナナの話をしていたら「バナナといえば男根のメタファー、コロナも終息してきたし、そろそろ御神体を奉る祭りも再開されるのだろうか」と脳内で展開が起こり「そういえば今年って道祖神祭やるのかな?」と言ってしまうのだ。
こちらとしては話の流れに沿っているつもりなのだが、相手にしてみれば、突然バナナを道祖神で遮られると言う、意味不明な上に不愉快な状態なのである。
ただ理由はどうあれ、人の話を遮り、何でも自分の話にしてしまうやつというのは嫌われるものであり、逆に「聞き上手」は好かれるのである。
話の遮りや窃盗は、とにかく「我慢」するしかない。
何か言いたいことが思い浮かんでも、とりあえず相手の話が終わるまで、膝にシャーペンを指すか、口をまつり縫いして「待つ」必要がある。
この、遮り癖の対処として、人が話している途中で何か気になったら、すぐ言わずに、とりあえずそれをメモるなどして相手の話が終わるのを待つと言う方法がある。
そうすれば、自分が気になったことは、大体相手が言うそうだ。
つまり今まで、話題どころか、相手が言いたかった「オチ」部分まで強奪していた可能性が高いと言うことだ。
沈黙は金、という言葉は、いらんことを言うぐらいなら黙っていた方がマシ、と言う意味でもあるが、無意識居直り強盗を防ぐ効果もある、と言うことだ。
こんな文字通りの金言が残っているのに、何故俺たちは今日も人の話を万引きして出禁になり続けるのだろう。