漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「選挙」である。

日本ではその場の空気を悪くしたくなければ「宗教」「政治」「野球」の話はするな、と言われている。

「野球」に関してはおっさん限定の会話なのかもしれないが、オタクは全員ガンダムを見ていて、女オタクはみんなBL識者と思われたら困るように、おっさんだってデフォルトで野球を見ていると思われても困るだろう。

よって「野球」に関しては「カップリング」「ふーん、で、君は涼宮ハルヒのキャラで誰が好きなの?」など、状況によって変化するが「宗教」と「政治」に関しては昔から割と不動である。

確かに宗教は神などかなり不確かな存在の話で論争しても決着がつくことがなく、「武力で決着」という逆ヒプノシスマイク状態になりがちなので、最初から避けるに越したことはないのかもしれない。

ちなみにオタクの学級会も大体同じメカニズムで起こっている。人類はもっと「ラップで決着」という方法を学んだ方がいい。

政治は宗教よりは不確定要素がない話だが、それでも結論を出すのは非常に困難である。

和やかに話したい時の話題としては不適当であり、そういう時は食い物の話でもした方が無難だ。

だが食い物の話でも「広島のお好み焼き」など、チョイスを間違えると別の戦争が始まってしまうので注意が必要である。

しかし「政治の話は嫌われる」というお国柄の方にも問題があるのではないか。

日本は、長らく金や性の話を下品な避けるべきものとして扱い、そんな話をしようものなら怒られることまであった。

そのせいで日本は性や金に関する意識が他の先進国より遅れた国になってしまった。

そのおかげで「HENTAI」という、別方向に他国の追随を許さない性先進国になれたのかもしれないが、むしろ「HENTAI」をフィクションとして楽しみ尽くすためにも正しい知識が必要なのではないか。

それと同様に「政治の話をすると空気の読めない奴と思われる」という風潮が、日本を「政治に興味が薄い国」にしてしまったのではないか。

実際、芸能人などがSNSで政治の話をすると「そんな話はやめてくれ」という批判リプがつくことも珍しくない。

確かに、推しアイドルの日常を知りたくてフォローしたのに、強固なタカ派であるということしか呟かなかったら「そんなこと知りとうなかった」となるのはわかる。

だがそういう時はフォローを外せばいいだけで「そんな話はやめろ」というのはおかしい。

政治をさっきしたウンコの話同様「そんな話」呼ばわりすること自体冷静に考えればおかしな話である。

おそらく政治に関心が持てないのは「無力感」があるのだと思う。

自分一人が政治に関心を持ち、選挙に行ったところで、結果は変わらないし、政治家は「違う、そうじゃない」といちいちグラサンをかけて言うのも面倒臭くなるぐらい「ちがそう政策」しか出さないのでもう諦めたという人も多いのだろう。

確かに1票差で当落が変わることは滅多にない。

私の地元は「選挙が始まったと思った瞬間当確が決まり終わっている」と言われるほど、保守的なプロシュート県なので、正直選挙に行く虚しさは日本一と言って良い。

しかし選挙に行くと言うのは「俺は政治に興味がある」と言う否メロス宣言でもある。

「国民が政治に関心がない」と言うのは、悪政をしようとする者にとってこれ以上都合の良いことはない。

明らかにどうかしている政策でも、国民の関心がなければ、こっそり出せばこっそり通ってしまうからである。

そしていざ施行段階になって「よくもそんなどうかしている政策を」と言い出しても手遅れな場合が多い。

国民が政治に関心があれば、どうかしている政策は出した段階で反対されるし、己の支持率を下げることになるので、出す側も慎重にならざるを得ない。

またどの層が政治に関心を持っているか、と言うのも政治家にとっては重要である。

老の関心が高く、若の関心が低ければ、老票を確保するため老ウケを狙った政策が出されてしまうのだ。

ただ、日本は超少子高齢化である、総力戦を挑んでも若は老に数で負けてしまうため、若に無力感を抱くなと言う方が無理なのかもしれない。

しかし若が諦めてしまっているとバレたらますます若は蔑ろにされるので、「自分政治に興味あるっす」という意思表明のためにも選挙に行くべきではないだろうか。

私は、夫が期日前投票に行くと言うので一緒について行った。

すると、なぜ期日前投票に来たのか理由を記入する欄があったらしく「日曜日はお仕事ですか?」と聞かれた。

無職だって期日前投票には来るのだ。

どんな理由だって行かないよりは行く方がいいだろう。

「特に理由のない期日前投票」をする権利を認めてほしい。