漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「共働き」である。
結婚するとき夫には「飯は作ってくれ」と言われたが、それともう一つ「働いてくれ」とも言われたような気がする。
大体のことは自分でやるし、生活的な意味で私の世話になる気はない、むしろ世話をしているぐらいの夫であるが、逆に経済的に私を世話する気もないのである。
それは当然であり、もし生活、経済共に相手の世話をしなければならないとなったらそれはもはや配偶者ではなく、ペットである。
どうせペットなら、もっと可愛げのある、そして家の汚し方が地味な生き物を選ぶはずであり、あまりにも結婚のメリットがなさすぎる。
しかし世の中には「気づけば自分に全くメリットがない結婚」をしていたという人が割と多いのではないかと思う。
そのぐらい、夫婦のパワーや負担のバランスというのは崩壊しやすい。
ひと昔前は、男は仕事、女は家事、とほぼ完全に分業されており、ゆえに生活費を稼いでくる男が家長としてでかい顔をしていたという構図が一般的であった。
それが夫婦共働きが当たり前となり権力も分散されるようになったかというと、女は家事に加え仕事もしなければならなくなった上、男は大黒柱どころか甲斐性も下半身もえのきレベルで家族の生活も支えてもいないのに、態度だけは巨根という家が爆誕してしまうことになった。
書いていて腹が立ってきたが、自分がそんな目に遭っているかというとそんなことはなく、どちらかというとえのき側なので、当事者でもないのに甲斐性もないくせに家事もせず態度のでかい男という仮想敵に怒り続けるというのもあまり宜しいことではない。
むしろ夫が未だに緑の紙、もしくはビンタを繰り出して来ないのは経済的には辛うじて負担をかけていないという最後の砦が残っているおかげと言えるかもしれない。
夫の仕事関係の付き合いで、死んだ方が儲かるレベルで保険に入らないければいけないと、5億回は愚痴ってきたが、それもよく考えれば夫婦のバランスを保つための必要経費のような気がしてきた。
夫婦不和の原因第1位はなんだかんだ言って「金」であり、どれだけ仲の良い夫婦でも「給食費を払うか、今パスコのパンを買って餓死を回避するか」の二択を連日迫られるような状況が続くと、円満という気持ちにはなれず、自ずと喧嘩が増えるものだ。
逆に言えば、夫婦円満でいたければ、金のことで悩まなければならない状況を作りださないようにしなければいけないということである。
男は仕事、女は家事の時代は「お小遣い制」を採用しているところが多く、実際貯金が多い家庭はお小遣い制のところが多いらしい。
しかしお小遣い制には「ストレスが溜まる」というデメリットがあるのだ。
お小遣い制をテーマにした『定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ』という漫画がある。
大の大人が月2万円程度、ときにはそれ以下の小遣いでいかにやりくりしていくかをテーマにしている漫画である。
小遣いは少なくとも工夫次第でこれだけ楽しめ、なんだかんだで幸せであるという漫画なのだが、そのハッピー描写から時々違法の薬物の匂いがするのである。
もちろん、小遣い1万5,000円を全て大麻にぶっ込んでハッピーに過ごしている、という内容ではなく、全て合法の範囲なのだが、スーパーの菓子や100均での買い物でここまでハッピーになれてしまうのは何か別のものをキメているからではないか、と疑ってしまう。
人間は大怪我をすると一時的に脳内麻薬みたいなものを出し痛みを感じなくさせるという。
それと同じように「小遣い制」という、耐え難きを耐えるために、脳が麻薬を出し、必要以上にハッピーを感じるようにしているのではないか。
しかし、この麻薬を出せるのは選ばれし小遣いニストだけのようで、多くの人は「何故自分の稼いだ金を自由に使えぬのか」というストレスから、逆に夫婦喧嘩をするという本末転倒になっている家庭もあるようだ。
共働きが主流になったことにより、小遣い制の家庭は減り、夫婦別財布という家が増えてきている。
別財布の良いところは、自分の稼ぎを自由に使えるためストレスがたまらない、そして自分のものは自分で買うため「誰のおかげで云々」という不毛な家庭内マウントが起こりづらくなるという点である。
ただ「お互い野放図に金を使ってしまう」というデメリットもある。
小遣い制にだろうが別財布だろうが、最低でも片方が金にしっかりしていなければ金はたまらないのだ。
たとえ夫が脳内麻薬で小遣い制を耐えていても、それを管理する妻が全額BTSとかに突っ込んでいたら無意味なのである。
夫はちゃんとした人なのだが、何故か金に関してはそこまでちゃんとしていないし、私は金もちゃんとしていない。
貯金状態がどうなっているのか聞きたいところだが、正直怖くて聞けないし、聞いたからには自分の方も明かさなければいけないという自爆テロにもなりかねない。
金のことに限らず「怖くて聞けない」という状態になっている夫婦には、いずれでかい雪崩が起こるので、怖くないうちに聞くことをお勧めする。