漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

→これまでのお話はこちら


今回のテーマは「応援」である。

「頑張って下さい」という応援にも「これ以上頑張れというのか」と二度と応援したくなくなる逆ギレをかまし気味な我々だが、もちろん罵倒されるよりは嬉しい。

そもそも漫画家というのは人々の応援で成り立っている職業である。

応援者が多いほど収入も仕事も増え、逆に少ないと餓死、または「自称漫画家」という肩書きで夕方のニュースに登場することになる。

よって漫画家にとって応援してもらえるというのはとてもありがたいことである。

しかしことあるごとに「千羽鶴を送るんじゃねえ、逆に迷惑だ」というツイートがバズるように応援する気持ちが本物でも応援の仕方を間違えると却って相手の寿命を縮めることになってしまう。

だが推し作家の単行本を断裁した紙で折った千羽鶴を送るのは迷惑なのか、というと、おそらく千羽鶴を作るのに結構な数の単行本を買っていると思うのでそれはありである。

どれだけの奇行をしても、その工程に「単行本を買う」が入っていれば一応応援になってしまうのが漫画家への応援というものなのだ。

しかし、単行本で折った千羽鶴というのは怖すぎるため、編集部段階でストップされ本人に届かない可能性が高い。

ならば本人の住所に直接送れば良いのかというと、それはそれで「どこで住所を手に入れたんだ問題」が発生、作家が心労、最悪サツ出動で応援している作品が休載になる恐れがあるのであまりお勧めできない。

つまり千羽鶴というのは孫から祖父母など、ハナクソでも嬉しいレベルの関係性でなければ喜ばれない可能性が高いので、お互いのためにも控えた方がいい。 金がないならブラックサンダーでいいのだ、これで喜ばずにTwitterに「ブラックサンダーとか」などと呟く奴とは絶交でいい。

逆にいえば漫画家の応援は単行本を買えばそれでいいのである、迷う必要は一切ない。 どれだけ作品が好きか熱弁されても漫画村で読んだというなら応援にはなっていないのである。むしろ買って読まずに千羽鶴にしたという方が数字的に応援になってしまっていたりする。

ただ、出版社側が漫画を合法的に無料公開するのも珍しくない昨今である。

漫画を無料で見ることが普通になってきているため、それが違法と知らず違法アップロード漫画を読み、それを作者に悪気なく言ってしまう人というのは今後も増えるのではないかと思う。

よって無料で漫画を読むときは、良いところでやたらエロバナーが出現するなど不自然な点がないか確認し、もし作品や作家を応援する気持ちがあるならエロバナーが出現しないタイプのところで読んでいただけると幸いである。

このように、合法で無料で公開するのが普通になってきたため、必ずしも「タダ読み=応援になっていない」とも言えなくなってきている。

現在「ネットでの口コミ」というのは非常に重要なため、無料公開された際「タダだから読んで」とリンクを拡散させるだけでも十分応援になっているのである。

よって、こんなトランプと長州力しかフォローしていないアカウントで宣伝してもしょうがないとは思わずに、推したい作品があったらどんどんリンク付きでツイートしていただけるとありがたい。

しかし、作品の良さをわかってもらいたいあまり全ページをツイートに転載してしまうと別の「問題提起」が起こってしまう可能性が高い。 切り抜くとしてもごく一部、作中で最も面白そうな部分、もしくはエロいところを選んで呟こう、ここでファンとしての選球眼が試される。

ただ総じて言えることは「応援は生きているうちにした方が良い」ということだ。 病人に「頑張れ」と言って持ち直すことはあっても、死人に「頑張れ!頑張れ!」と手拍子して蘇ることは稀である。

人気商売も同様であり、打ち切りなど死亡が決定してから応援して、復活するケースは稀である。

漫画の場合は「お前ら今までどこにいたんだ」というレベルで「好きだったのに終了なんておかしい勢」が出現し死亡宣告が撤回されるケースもなくはない。

しかし、それはよほど地下レジスタンスの規模がデカかった場合のみでよほどでないと決定というのはなかなか覆らない。

決まったものを覆すよりは、まだ決まっていない段階で応援する方が確実なのである。

死体に千羽鶴を供えても「片付けが大変そう」としか思えないだろう。

どんな応援でも、生きているうちにしたほうが効果的なのである。

もちろん復活の可能性もゼロではないので死んでからの応援もありがたい、だがそこで違法アップロードを見るのは死体蹴りである。

「違法アップロードを見ない」というだけでも漫画業界への応援になると覚えておこう。