漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「省エネ」だ。
おそらくこれから空前の省エネブームが来るだろう。もしかしたらもう来ているのかもしれないが、社会のことは何一つわからない。
なぜ省エネブームがくるのかというと、ここ数年コロナウイルスの影響で自宅にいる時間が大幅に増えたからだ。
風呂トイレ、窓なし、コンクリート打ちっぱなしのミニマリスト垂涎な部屋に一日中横になっている場合を除けば、家に人間がいるとそれだけで水道光熱費がかかるのだ。
ちなみに、床コン状態だったとしても住民税とかはバッチリかかったりもする。
日本は生存権があるため生まれてきた限り生きる権利があるのだが、同時に生きている限り何かを奪われ続ける義務が発生したりもしている。
もしかしたら税金というのは「貴様が生きていることに対する罰金」という意味なのだろうか。だとしても、国ではなく実際に迷惑をかけている地球さんに払いたい。今日も無断で二酸化炭素を吐いて本当に申し訳ないと思っている。
つまり、コロナのせいで電気代が上がってしまった家庭はかなり多いのではないか、ということだ。
リモートワークでPC類が支給される会社はあると思うが、電気代まで補助する会社はそう多くはないだろう。
それに、リモートワーカーの電気代に補助がつくとなったら無職が黙っていない。
ただでさえ「会社に行かなくて良い」という特権をリモートワークのせいで奪われてしまった無職たちだ。
さらに、補助金まで出るとなったら流石の俺たちも穏やかではいられない。我々も今まで自宅を警備という仕事を電気代自己負担でやってやっていたのに、職種が違うというだけで電気代が補助されるというのはおかしい。
しかし、日本人はただでさえデモとかが苦手である。
さらに無職は、集団行動が苦手、というか集団行動が苦手だから無職になったとも言える。
そんな人間たちに「○時に永田町に集合」とか言っても、6割は「外に出たくない」という理由で来ないだろうし、3割は「起きれなかった」と言って来ないだろう。
奇跡的に集まった1割は無職の才能がないのでデモをするより社会復帰した方が早いと思う。
しかし、無職が暴れなくてもなかなかリモートワークの水道光熱費を補助という話にはならないだろう。
よって、できるだけ電気代がかからないように、省エネ製品の需要が高まることが予想される。
一番有効な省エネは、まず自分が省エネになることであり、冒頭の床コン作戦でかなり電気代が節約できるし、横になっていると腹も減りづらいので、食費の節約になる。
しかし、リモートワーカーたちはそうはいかない。
働こうと思ったら電気は必要だしパソコンも使わなければいけない。仮に「暗闇で踊る」など、get wildな仕事でも腹は減る。
つまり、仕事というのは「省エネ」の真逆にある行動であり、無駄に電気と人間のエネルギーを消費させ、環境を汚染し、地球の資源を食い潰す行為ということだ。
地球に優しくしたければ、ケツ紙を再生紙にするなどというせせこましいことはせず、一斉に仕事を辞めて、その場に横たわれば良い、ということである。
そうすれば、地球は緑に溢れ、花は咲き誇り、人間が虚な目で倒れて動かない、という下さえ見なければ美しい星になる。
ただ、コロナに先んじて自粛生活をしてきた自分に言わせると、パソコンなどの電気代はそこまで高くないと思われる。
一番電気代を食うのは「暖(ダン)費」だろう。
まず現実として夏と冬では電気代がまるで違う。夏もエアコンを使うのに冬の方が二倍も三倍もかかる、ということは、冷やすより暖める方が電気を使う、ということだ。
しかも冬に暖めるのは部屋の温度だけではない。夏場であればちょっと屁ぬるい風呂に入ってしまっても「こんな日もある」で済むが、冬場だと「今日が命日」の予感を抱いてしまう。
思った以上に冬はありとあらゆるものを暖め、そして暖め直している。そしてそれが電気代として現れているのである。
仕事どころか「オフトゥンから出る」というだけでも部屋を暖める経費が発生してしまうのである。
ここで一番有効な省エネ行動はもちろん「オフトゥンから出ない」だ。
リモートワーカーだとそれは難しいだろうが、それを可能とするのが「無職」である。
この世で一番地球に優しいのは無職だ。
今までエコに対して補助金を出すこともあったのだから、やはり無職には何らかの補助を出すべきだろう。