漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「コンビニスイーツ」である。

コンビニといえばひきこもりの唯一の外出先としても有名だ。私も万が一外出するとしたら、コンビニ、もしくは火事の時である。

なぜひきこもりがコンビニに行くかというと、まずひきこもりがコンビニの食物を定期的に経口摂取しないと死ぬ生き物だからである。それ以外だと頭を撃ち抜けば死ぬ。

そして一番スピーディかつドライに用事を済ませ巣に帰って来れるからではないだろうか。

スーパーだと売場が広いので買い物に時間がかかるし、運動不足なので一番奥の鮮魚コーナー前で息絶えてしまう恐れがある。

またスーパーは大量買いする人もいるのでレジの待ち時間が長くなりがちだ。その点コンビニはそこまで待たないし、店員とのやり取りも最小限で済む。

よくひきこもりが「1週間ぐらいコンビニの店員以外と話をしていない」と言ったりするが、実はあれは盛っている場合が多い。

本当は「思い返せばコンビニの店員とすらまともに言葉を交わしていない」のである。

よって進次郎の真に邪悪なところはレジ袋に金がかかるとかチャチことではなく「レジ袋いりますか?」という店員とのやりとりを1ターン増やしてしまった点にある。

それに答えなければいけないだけでも苦痛なのに、ひきこもりというのは声帯がほとんど死んでいるため、聞き返されてさらに1ターン会話が増えるドン! になってしまうことが多く、最悪「いりません」の声が全く相手に届かず「店員の質問をシカトする客」になってしまうのだ。

なぜひきこもりが他人からどう思われるかを気にするのかと思うかもしれないが、他人の視線を気にし過ぎるからひきこもりになったのだ。

そうなるとひきこもりは「コンビニにすら行かなくなる」のである。

ひきこもり問題を本気で何とかしたいと思っているなら「コンビニのやりとりを面倒にする」というのは悪手でしかない。

そんなわけでコンビニに行くことすらインディ・ジョーンズになってきたためあまり頻繁には行かないのだが、コンビニに行く理由と言えばやはり、菓子の定期的な経口摂取目的が多い。

しかし「コンビニスイーツ」と聞いたら多くの人が、冷蔵コーナーに並んでいる半生菓子の方をイメージすると思うが、私はそれらを滅多に買わない。

あれらの菓子は「1袋に1個」という強気の姿勢をとっていることが多く、1個ということは「1秒でなくなる」ということを意味する。

まずコンビニに行くか否かで半日長考しているのに、そこで手に入れたスイーツという名のクリスタルスカルを1秒で無にしてしまうというのはもったいなすぎる。

そもそもそんな豪快な生き方ができるならひきこもりにもなっていない。

コンビニにだってできるだけ行きたくないのだから、コンビニで買った菓子は出来るだけ長持ちさせたいのである。

よって私が買うのは、チップスやチョコレートなどの袋菓子が主である。これなら3分ぐらいもつので、半生菓子の180倍ほどコスパがいい。

また、半生菓子が一瞬で消滅してしまうのは「なめらかさ」に原因がある。あまりにもなめらかすぎるため、口に入れた瞬間、胃に滑り落ちてしまうのだ。

よって同じ「1袋1個」という攻めた布陣でも、甘いパンとかはモソモソしているため、半生菓子よりも長持ちする。

昔はコンビニと言えば「甘いパン」だったのだが、悲しいことに、加齢により「夕飯を食った後に甘いパンを食う」ということがあまりできなくなってきたため、最近は甘いパンも買わなくなってきた。

よく老が「自分の金で焼肉を好きなだけ食えるようになったころには、焼肉をたらふく食える胃がない」と嘆いていると思うが、実際は「焼肉をたくさん食う金もないが、食える胃もなくなったからむしろいい塩梅」なのである。

しかし、甘いパンを食えなくなる、というのは本当に人生の痛手であり、生きる意味の喪失なので、若人は肉ではなく今のうちに甘いパンをたくさん食べておいたほうがいい。

そういった意味ではコンビニの袋菓子は、わずかに残された生きがいと言っても良いのだが、その買い方にも変化が出て来てしまった。

最近はコンビニで新しい味のポテトチップスが出ているのを見ても「どうせ今まで食ったことのある味、もしくは食ったことがないぐらい不味いかだろう」と判断し「うすしお」とか約束された勝利の方を選ぶようになってきてしまった。

よって最近は通販でうすしおやM&Mをダース買いし、コンビニにもあまり行かなくなってしまった。

うすしおとM&Mはいつ食べても確実に美味いので合理的になったとも言えるが、新商品に対するチャレンジ精神、そして「もしかしたらすごく美味いかもしれない」という「希望」がなくなったとも言える。

新商品が出ているのを見たらつい衝動買いしてしまう、といったら浪費家のように見えるかもしれないが、それは生きる元気がある証拠である。

それよりも、同じ商品をひたすらダース買いしている人の方を心配してあげたほうがいい。