今回のテーマは「お年玉」である。

だが、待ってほしい。一回このテーマを「正月の過ごし方」で書いたことがないか。しかし、故担当の残したテーマ表には確かに次、「お年玉」と書かれている。

担当の言うことは大体嘘だ。まず、作家に1億%嘘の締め切りを伝える。マジの締め切りを言うと逆にヤバいからだ。しかしこっちが、「この締め切りは嘘に違いない。もっと余裕があるだろう」と踏んで締め切りを破った時に限ってマジだったりするのだ。あいつらとは本当に気が合わない。

ダミー締め切を言うのは仕事の便宜上、必要なことでもある。しかし、「同じテーマを二回言う」というのは何の得もない。前と全く同じコラムを提出して金がもらえるなら私に得があるが、私に得があることは担当の損失(作家と担当の損得は質量保存の法則が成り立っている)なので、そんなことはするはずがない。

それでも念のため、昔のコラムを見て見たら、やはり「お年玉」で書いていた。

わざわざ確認しなくても一度書いたことを忘れたりしないだろうと思うかもしれないが、はっきり言って忘れる。年をとると、尻にウルトラタロウのソフビをツッコんでいるのを忘れてセブンを更に入れてしまう、みたいなことを平気でするのだ。今でさえこうなのだから、そのうちさらに、ウルトラ(母)をおかわりしてしまう日がくるだろう。ぞっとする。

ともかくテーマが被っていたのだ。危ないところだった。死してなお、こんなトラップを残すとは、「死せる孔明かよ」という話である。よって今回のテーマは「誕生日」である。

私も完全に中年女であるから、「誕生日なんてもううれしくないわよ」とため息(臭い)ひとつついて見せるのが恒例となっているが、BBAが本当に誕生日を楽しんでいないかというとそうではない。

あいつらはあいつらで、たとえ祝ってくれる人間が皆無でも、「自分にごほうび」という感覚で誕生日をぜいたくする口実にして、高いものを買っていたり、旦那が何も買ってくれなくても家計の中から自分に誕生日プレゼントを買っていたりと、勝手に誕生日を楽しんでいるので心配はいらない。年をとればとるほど自己完結するパワーが上がり、その内、地球を完結させかねない生物になるのだ。

しかし、若いうちはそうもいかない。他人に祝ってもらいたいのだ。むしろ、祝ってもらえなければ自分に価値はないとすら思ってしまう。

今の子供は「誕生会」をやるのだろうか、誕生会とは誕生日を迎える子どもの家が主催するパーティのようなもので、その友人等がプレゼントを持って集まり、ケーキとかゲームをする会のことだ。詳しくは、漫画『ちびまる子ちゃん』のまる子が誕生日会をやる回に全ての概要が描かれている。あれはすごくリアルだ。まず、呼ぶ人間を選ぶ段階が超現実主義である。

自分の誕生会だから、全員仲のいい友人を呼ぶのが当たり前と思うかもしれないが、そんなこともない。まず仲のいい友人、そして次に家が近い子どもだ。家が近いのに呼ばないのは後で角が立つ。そして、「あの子は友だちがいないから」という同情枠があったりするのだ。

そんなメンバーであるから、誕生会というのは結構微妙な空気になりがちである。中でも同情枠の子どもが、「友人がいない理由」を余すところなく発揮してしまったりするからだ。しかし、私も誕生会には結構呼ばれた記憶がある。「同情枠ならあいつ」という評価をされていたのかもしれない。

思えば我々は、大人になっても結婚式などでこの「呼ぶ人間問題」に頭を悩ませている。できれば好きな人だけ呼びたい。しかし、そうもいかないのが現実である。そう考えると、通夜や葬式のシステムは画期的だ。基本的に来たいやつだけ来ればいい。何より死んでいるから何もしなくていいのが楽だ。

その誕生日会も、やったとしても小学生低学年ぐらいまでだ。しかし、私の家ではその後も毎年誕生会が催され、私が家を出た後もそれは続いている。誰の誕生会かというと、父だ。主催「父」、参加者「他の家族」だ。自ら「祝○○歳」という紙を壁を貼り、家族にカラオケを聞かせる。もちろん、強制参加だ。

これを見ると、「他人に祝ってもらう必要はない。自分の誕生日は自分で自己完結させる」というのはただの諦めのような気がする。いくつになっても、力づくで他人に祝わせる。そのパワーが私に受け継がれなかったのは大いなる損失である。

先日実家に帰ったら壁には、「祝71歳」という誕生日の名残が貼られたままだった。「まだやっているのか」という気持ちより、「父も年をとった」と思うようになった。「長生きをしろ」とは言わないが、長く元気でいてほしいものである。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。