漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「アイドル」である。

しかし、私は何度も言っている通り、ちっちゃな頃から二次元で、15でデュフゥとむせていた、ギトギト小鼻のアンジェリーク天空の鎮魂歌である。

わかってくれとは言わないが、わかったフリをされると余計面倒くさくなるので、何か早口で言い出したら、早めにまぶたに目でも描いてララバイララバイおやすみしていただければ幸いである。

一体このネタがどのぐらい通じているのか不明だが、こうやって何十年も頭から離れないのだから、アイドルやアイドルソングというのはバカにできないものがある。

おそらく今も「チェッカーズはアイドルじゃねえ」と出兵の準備をされている方がいらっしゃると思う。

このように、対象が二次元だろうが、アイドルだろうが何かに血道をあげている人間というのは総じて面倒くさく、そこら辺の不良よりもよほど武闘派だったりする。

オタクに優しいギャルを気取って安易に「オタクくんさあ」などと話しかけるとスタンガンが出てくる恐れがある。

ギャルはオタクに偏見がないかもしれないが、オタクの方がギャルにド差別意識を持っているかもしれないということを忘れないでほしい。

そんなわけで、クラスのマセガキどもが、光GENJIの下敷きを持って騒いでいた頃、私は連絡帳の裏表紙に一生懸命、悟空を模写していたためアイドルとは縁がなかった。

そう言いたいところだが、二次元でも「アイドル」というジャンルは人気なのである。

「アイドルマスター」シリーズのように、プロデューサーやマネージャーのような立場でアイドルを育成するゲームは数多くあるし、関係者でありながらアイドルと恋愛するという、いつ変死体で発見されても文句が言えないような恋愛シミュレーションゲームも珍しくはない。

現在私が大金をつぎ込んでいる「ウマ娘」もレースの後で何故かライブをやるというアイドル要素がある。

ただ、レースの後でライブ、というのは馬主としても有名な北島三郎リスペクトという説もあるので、あながち間違いではない。

しかし、ウマ娘界も声優界のように「足が速いだけじゃなく、可愛くないと生き残れない」と言われていそうで、苛酷である。

二次元だろうが三次元が、その名の通りアイドル(偶像)を応援しているという点は変わらないのだが、リアル偶像である二次元に対し、三次元のアイドルは物理的に存在している。

つまり、彼ら彼女らにも人生がある。よって時々「生々しいことをしてくる」のだ。

二次元のアイドルとて、その描かれ方がたまに燃えることもあり、信じられないかもしれないが、ヒロインが非処女か否かで不買運動という政治的な動きに発展することすらある。

しかし、そうは言っても二次元のアイドルの場合、"バスツアーの前日にできちゃった婚"報道とかはないのだ。

むしろそれを二次元でやられたら、遠慮なくふざけるなと言えるし、怒りの矛先をキャラではなく「制作会社を焼き討ち」という形で表現できる。不買だって困るのはキャラではなく作っている側だ。

だが、三次元の場合はアイドルの前に、やはり人間である。

犯罪を起こしたならまだしも、結婚や妊娠は本来なら祝うべきことであり、ファンとはいえ、第三者が文句を言うのは憚られる。

むしろ熱愛や結婚報道が出た瞬間、写真集でケツを拭き、CDを田んぼに吊るせる人はまだ割り切りが早くて良いのかもしれない。

それよりも、文句は言えず、かと言っておめでとうも言えず、ただ一週間ぐらいツイッター上から姿を消すファンの方が辛いのである。

もちろん二次元にも「推しが死ぬ」という三次元ではなかなか起こらないことが起こるが、ゴールデンカムイファンが、部屋に喪服を吊るしているように、二次元オタクというのは歴が長くなると、ある程度予想と覚悟ができるようになる。

対して三次元は、事実は小説より奇なりというように「こんな脚本書けねえよ」みたいなことが起こるため、ファンは防御方法すらわからず、頭にアルミホイルを巻くしかなくなってしまうのだ。

二次元ファンは三次元の代替えとして二次元を追っているわけではないが、三次元に比べれば、二次元は優しい、と感じることは多々ある。

逆に言えば、三次元の身でありながら、人々の偶像となれるように振る舞っているアイドルには頭が下がる。

「でかいウンコしてきまーす!」と言って便所に行くよりも「ウンコ? 何それ、食べ物ですか?」と言う顔で生きる方が難しいに決まっている。

ファンは、アイドルが見せてくれる幻に金を払っているのだが、その幻をいきなりぶっ壊すような真似をしたら怒るのは当然と言える。

しかし、ファンも幻は幻と理解し「推しが見せてくれる幻覚最高!」という気持ちで楽しんだ方が良いのかもしれない