漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「和菓子」だ。
こう見えて私が生まれた南北朝時代も割と戦後だったため、おやつはすでに外来種であった。
外来種と言ってもセアカゴケグモやヒアリを食っていたわけではない。
もしそうだったら、今ごろ害虫を食ってくれる生物として、一家に一匹私が飼われていたはずだ。
私が小学生ぐらいの時に買い与えられていた菓子と言えば、すでにポテトチップスやチョコレートという類であった。
さらに私は前世がアメリカの肥満児、もしくはそれにいじめられていた、ホラー映画で後ろから3番目ぐらいに殺されるオタクだったのだろう、それらの菓子類に目がなく兄の分まで食ってよく怒られていた。
よって、菓子を探索している際、チョコレートだと思ったものが母のかりんとうでがっかりしたことは一度や二度ではない。
同時に、何故母はこんな犬のクソの如き焦げ臭い菓子を好んで食うのか不思議で仕方がなかった。
「今では私がスカトロジー」
そう、ヴェルタースオリジナル顔で言いたいところだが、私は未だにかりんとうの域には達しておらず、M&Mを一日一袋食うという、アメリカンファットボーイ生活をしている。
おそらく私がジジイにヴェルタースオリジナルを与えられたら、かりんとうをもらったが如きシケヅラで「もっとチョコレートの上にカラフルなチョコレートがまぶされている奴をよこせよ」と思うだろうが、お年玉の査定に響くので口には出さないと思う。
年齢で言えば当時の母とさほど変わらなくなってきているはずなのだが、菓子の好みは特に変化がない。
もしかしたら母も年を取ってかりんとうに目覚めたわけではなく、子どものころから一貫してかりんとうだったのかもしれない。
老人が何かゼリー状のものに砂糖をまぶした激シブ菓子を孫に出すのも、お年玉のために喜ぶふりをする孫の姿が滑稽でたまらないからではなく、自分が子どもの頃一番イケてたヤツをチョイスした結果なのだろう。
つまり今のJKたちはババアになった時、毎回孫にタピオカミルクティーを出して「普通にファンタとかでいいよ」と思われるということだ。
年をとって菓子の趣味がババアになるわけではなく、その時代のババアがよく食っているものが新たな「B菓子」となるのである。
よって今後私が年を取り続けても、歯の関係上ポテトチップスはもう食えないということはあっても、味覚的にチョコより餡子の方が美味く感じるようになった、ということはないような気がする。
年を取ると重いものが食べられなくなり、カルビよりも雑草を好んで食べるようになった、とはよく聞くが、和菓子は洋菓子より軽そうに見えて実はそんなことはない。
特に餡子の原材料は小豆であり「腹に残り度」で言えばチョコレートなどより遥かに上であり、ババアになってから饅頭1個食ったら、夕食が食えなくなり「ごはんの前にお菓子食べちゃダメって言ったでしょう」と、介護士に幼稚園児叱られをされるに決まっている。
つまり、カロリー的にも糖分的にも和菓子と洋菓子は大差なく、唯一違うとしたら「油分」かもしれないが、母の好物だったかりんとうはバッチリ油で揚げており、構成的にはドーナツとほぼ同じである。
和菓子は洋菓子よりヘルシーという言説もあるようだが、そんなのはフライドポテトが芋だから実際サラダと言っているのと同じ理屈な気がする。
よってどうせ体内に余分な砂糖と油を蓄積させるだけなら、饅頭よりも食べなれたチップスやチョコレートをと思い食べているのだが、だからと言って和菓子類が嫌いというわけでもない。
だが、和菓子、とりわけ餡子に対しては日本人の中でも好みの分かれるところだ。
ちなみに欧米の方では豆というのは塩辛くするものなので、豆に大量の砂糖をぶち込むというのは、キャシー塚本先生が食材を窓からドーンするぐらいのクレイジーに見えるらしい。
しかし、日本人にも餡子をクレイジーと思っている人間は少なからずおり、どんなに利率が良くても桃鉄で餡子物件は買わないという過激派もいる。
だが、未だに日本では「客人に出したり、土産に持たせたりするのは和菓子」という風潮がある。
くだけた打ち合わせなら、器におかきやカントリーマァムが盛られて出てくることもあるが、恭しい場になればなるほど和菓子が出てくる。
和菓子というのはあまり日持ちがしないので、おそらく前日か朝一くらいに事務員が「あそこの、季節の花に模した餡子の中に餡子が入っている奴買って来い」と言われて用意したものだろう。
つまり、最大限のおもてなしのつもりで用意されたものなので、それに手を付けられない餡子食えない勢はかなり心苦しいだろうし、用意した方も大事な客が食えない物を出してしまうというのは「やっちまった」である。
そういう事故を起こさないためにも、来客に出すのはマァム一択と言いたいところだが、実はカントリーマァムには白あんが入っており、アンチ餡子ガチ勢はあれも食べられないらしい。
つまり、来客に出すのは「水」がベストアンサーである。
しかし相手が「もてなされている」と全く感じないのが玉に瑕だ。