漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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会社員とフリーランス、働き方としてどちらがいいか、という論争があるが、そんなものは「ウンコ味のカレーとカレー味のウンコどっち食う?」ですらなく「ウンコ2つあるけどどっち食う?」なのだ。

つまり二択にすらなっていない。

最近、人気の漫画のキャラも「労働はクソ」と明言しているらしく、自由業はクソとか固定給はクソとか、妙に限定しているという話は聞いたことがない。

つまり労働はすべからくクソであり、働き方の問題ではない。

何故労働がよろしくないかというと、まず体に悪い。

よく日本人の死因ランキングなどが出ているが、あんなものは結果にすぎず、原因はほぼすべて労働である。

例え、尻に電柱を刺して死んだとしても、そんなことをしたのは労働のストレスが原因にきまっている。

つまり、労働という毒物を週5で摂取しながら、稼いだ金を使って健康に投資するというのは、3歩進んでムーンウォーク、ロケ地東尋坊であり、さすがの船越も止める間がない。

よって健康になりたかったら、まず労働を辞めるべきだが、それを辞めると今度は衣食住がままならず結局健康を害すことになったりする。

もはや我々は健康を害すために生まれてきたと言っても過言ではないので、害したとして「害するに決まっているだろう」と思って動じることはない。

このように、労働というのはどれを選んでも死ぬという、死に確選択肢でしかないのだが、多分お国的には会社員を推奨しているのではないか、と思う。

国が国民に願うことと言ったら、どさくさに紛れて通そうとしている法案に気づいて、ツイッターで反対タグを流さないで欲しいというのもあるかもしれないが、とりあえず「税金を納めろ」ということだと思う。

おそらく、税金の徴収が一番簡単で取りっぱぐれがないのは、大体の税金が給料天引きになってしまっている会社員だと思う。

もちろん、フリーランスの方が税金が高くなりがちだったりもする。

学校で全く確定申告について教えないのも、フリーランスなんかになる奴が、いらぬ税知識を身に着けて節税などしたら困るからなのかもしれない。

せめてフリーランス1年目ぐらいは、ノー領収書白色申告で地獄を見ろというのが国の教育方針なのだろう。

しかし、私のように作家になってから10年近く白色申告を通すという、国を支える腐葉土みたいな人間は稀であり、大体は1回痛い目を見れば、節税を考えだすし、逆におッパブの領収書を経費にするために、おッパブ漫画を描くことも辞さなくなる。

経費の線引きというのは大分曖昧なため、フリーランスは結構、節税できる余地が多いのだ。対して会社員というのは、節税方法が限られており、すぐ無収入だから税金自体ほとんど発生しないという状態に陥るフリーランスに比べ、安定した税収が期待できる。

よって、社会補償的な物に関しては、会社員の方が優遇されていると感じることが多い。

その中でも確実に会社員の方が良いと断言できるのが「健康診断」である。

そんなわけで今回のテーマは「レディースドック」だ。

先日、レディースドックという、健康診断に婦人科系健診をプラスしたものを受けてきた。

健康診断自体を受けるのは1年半ぶりぐらいである。

ちゃんと1年ごとに行けと思うかもしれないが、正直これでもちゃんとしている方だと思う。

何故なら、フリーランスには定期診断というものがないからだ。

会社員であれば、年に一度ぐらい、総務課から「健康診断に行け、さもなくば死ね」というお達しと猛ビンタが飛んでくるため、嫌でも受けにいかなければならなかった。

しかし、フリーランスにそんな暴力系ヒロインみたいな存在はいない。

つまり自分が、よっこらせんずりと腰を上げなければ永遠に健康診断は受けられないのである。

そして、健康診断に行ったら健康診断料を払わなければいけない。

当たり前だと思うかもしれないが、これはフリーランスになった時、結構驚く部分なのだ。

少なくとも私は会社員時代、健康診断料というものを自費で出したことはない。

フリーランスは、よっこらせんずりとなっても、料金を見た時点で萎えてしまう場合も多く、さらに自分で予約をとらなければいけなかったりと、受ける前の障害が多すぎるのである。

ちなみにレディースドックは2万円ほどした。この料金を見ても萎えなかった私を褒めてほしい。

確かに、会社で受ける健康診断というのは簡易であり、身長体重、血を抜いて尿を他人に見せるという羞恥プレイ以外は特になく、血も尿もそこら辺に捨てているのかもしれない。

しかし、それでも尿が、砂糖、ミルク抜きみたいな色をしていたら「ただごとではない」ということぐらいは気づける。

フリーランスというのは会社員に比べ「異変」に気づくチャンスが少なく、異変が起きた時には手遅れということもある。

よってフリーランスになるなら、会社員よりも健康意識は高くなければならない。

しかし、健康にまで意識が行くような人間が、フリーランスという、朝起きれない奴が流れ着く場所に行く必要もない気がする。