漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「音楽」である。
昔は音楽を良く聞いていたが最近はあまり聞いていない、相変わらずYouTubeで自分より困っている人の動画を流したりしている。
最近キソドルの読み上げ機能がなかなか良いとわかったので、過去起こった陰惨な事件事故のレポ本を片っ端から読み上げさせるなどしてさらに充実度が上がった。
どんな音声で元気になるかは人それぞれであり「YATTA!」よりも「Cocco!」を聞いた方がやったるでと、腕まくりねじり鉢巻きになる人間だっているのだ。
YouTubeには「集中できるピアノ音楽一時間半」のように、まさに仕事にうってつけな音楽も多数投稿されているのだが「このイントロはいつまで続くのか」「いつ豊満なオペラ歌手が高らかに人生を歌いあげてくれるのか」と、永遠にピアノだけなことが気になって逆に集中できなかった。
また何をしているかによって、どんなBGMが合うかはまた違う。
掃除をする時はB'zの「LOVE PHANTOM」が良い、というのはあまりにも有名である。
掃除というのは、ゴミを生み出す自分がゴミ捨て場に行って体育座りしとけば万事解決なのだが、高確率で「回収拒否」を食らい「持って帰れ」という黄色い紙を顔面に貼られてしまう。
よって、自分が生み出したゴミを自分で片づけながら「このゴミはどこからくるのかなー」と嘆き続ける、星新一ショートショートみたいな人生を送るしかないのだ。
しかも、自分の体から出ているため、ゴミを「同胞」と誤認してしまい「これは必要だ」「いつか使うかもしれない」と丁重に匿ってしまう時がある。
そんな時「いらない何も、捨ててしまおう!」というI葉さん(ノット嵐)のシャウトが「これはゴミだ」と正気に戻らせてくれるのである。
曲が終わるまでの4分38秒(内イントロ1分20秒)間、タイムセールに来た雌ヒョウの如くゴミ袋にゴミを詰め込み、最後に「ウルトラソウ!」とゴミ捨て場に持って行けば完璧だ。
ただし、興が乗り過ぎて、自らがゴミ袋に「DIVE」してしまうこともままあるが、また黄色い紙を貼られるだけだし、危険なダイブやモッシュは危ないだけではなく、以降の公演中止にもつながってしまうため、本当のファンならばするべきではない。
つまり、どんな音楽が好きかと言われたら、嘘ではなく「B'z」と答える。おそらく一番聞いていると思う。
しかし、好きと言っても主に20年ぐらい前の曲が好きだ。
これはクソ中年特有の「B'zは昔の方が良かった」という懐古ではなく「最近の曲は聞いてないのでわからない」というただの中年である。
このように「最近の曲はわからない」という中年は別に新しい曲に敵意があるわけではなく、ただ何となく聞いてないのだ。
職場に有線が流れているなど、耳栓か千枚通しを入れておかないと、強制的に新しい曲が耳に入ってくるという環境なら良いのだが「自分から聞きにいかないと新しい曲に触れられない」という状況になると、本当に聞かなくなるのだ。
なぜ聞きにいかないのか、というと「面倒くさい」としか言いようがない。
音楽を聞くのが面倒くさい、とはどういうことなのか、と不思議に思う人も多いとは思う。
「聞く」という行為は、事前に耳をオーバーホールしたり、聞き終わったあと耳を洗濯ネットに入れて洗って干さなければいけないというわけでもない。
再生ボタンさえ押せば、あとは耳を地面に落とさない程度のアホ面でその場にいれば良いだけである。
しかし、この再生ボタンを押すというのが面倒だったりするのだ。
「LOVE PHANTOM」のイントロを聞いている間に48回ぐらいできるとはわかっているのだが、何となく面倒なのである。
おそらく若い頃は全く意識してなかったが、新しい曲というのは脳にとって「新情報」なのだ。
新しい情報を理解するには頭を使う、つまり「疲労を感じる」のである。
よって無意識の内に疲労を避け、脳のリソースを使わない「聞きなれた曲」の方を選んでしまうようになったのかもしれない。
つまり「新しい曲を聞く」という行為にも「よっこらしょういち!」という「気合」が必要になってしまったということだ。
たまに「スマホやPCをバリバリ使いこなす90歳」などがメディアに取り上げられている。
今でこそ「自分でもそのぐらいできらあ」と思うが、実際90歳になったら、若人が脳内に埋め込まれたデバイスで情報を得ている中、未だにスマホでググっているババアになるのだと思う。
しかし一念発起して新しいものに触れてみると、良い物である場合が多い。
3日ぐらい寝込む覚悟で新しいものに挑戦することも大事である。
最近聞いた新しい曲と言えば「香水」だ。
聞いたと言っても2021年になってから聞いたのだが、自分の思っていた2億倍「ドルチェ&ガッバーナ」と言っているとわかって良かった。